魔王の嫁は状況を把握したい。
「あ、あの……やっぱりこれ私が持っていていいような代物ではない気がするんですけど……」
ナーリアが顔を真っ青にして銃を抱えている。
今すぐにでも返却したいという面じゃ。
「しかしお主クリスタルツリーの弓が無ければ通常弓矢でしか攻撃できぬであろう? 使いこなせるようになっておくべきじゃろうよ」
「で、でもですよ? 私のスキルめりにゃんもご存知ですよね!?」
……あー、確かにそれは怖いな。
『なんですなんです? どういう事です? スキル、とは?』
「あっちの世界にはスキルは存在せんかったのか? 人間が持つ特別な能力の事じゃよ」
魔物がスキルを発現する、という話は聞いた事が無い。
儂が知らんだけかもしれんが、どちらかと言うと儂ら魔物は覚えて身に着ける事で何かを習得していくしかない。
その分人間よりも基礎能力が高い……もしかして神はそういう面で差別化を図っていたんじゃろうか?
人間は基礎能力が低いが、いろいろなスキルを所有する事で臨機応変に対応できるようになる。
そう考えると、どちらが生き残るのかという大掛かりな実験とも思える。
『ふむふむ。確かにイルミレイアでもごく一部ですが特殊な能力を持つ人は居ました。一度見た物を忘れないだとか、瞬間的に計算できるだとか』
それは何か違うような気もするが……。特殊能力と言えば特殊能力か。
『それで、マスターはどのような能力をお持ちなのです?』
「その……私は……」
ナーリアが恥ずかしそうに、自分のスキルを説明した。
『……はい? え、待って下さい。その情報は正しいのですか? スキャンとほぼ必中?』
「ごめんなさい。変なスキルで……」
『いやいやいや。え? それ本当なんですか? 冗談ではなく?』
「そ、そこまで言わなくても……」
ナーリアが涙目になっておる。ここまで突っ込まれた事が無いのかもしれない。
ほぼ必中の方は結構危険じゃしなぁ……。
『すごいです』
「……え?」
『凄いです!! 楽園内の人類は皆このような超常能力を持っているのですか!? 相手の情報を視覚情報として見る事が出来る? ほぼ確実に目標に当てる事ができる? あり得ません。それはもはや人の領域を超えています!!』
新鮮な反応すぎて儂はおろかこの場に居る全員が固まる。
儂らにとっては人間がなんらかのスキルを持っているというのはそこまで不思議ではないし、一般人ならともかく冒険者ならば何かしら発現しているのが常識である。
それをここまで驚くという事は、楽園の外……イルミレイア人にスキルという概念は存在しないのであろう。
『とても興味深いです。私は長い時を越えて今マスターと出会えた事を本当に嬉しく思います。この知識を役立てる場所、相手は既に存在しませんが、私個人の知的好奇心がビンビンに反応しておりますぅ♪』
サヴィちゃんは目をハート型にして……誇張でもなんでもなく本当にハート型にして大喜びであった。
『マスター、私楽園内の事とても興味が出て来ました。是非これを受け取って下さい』
ぷしゅーっと再び煙が出たかと思うと壁が凹み、そこにブレスレットのような物が現れた。
「これはなんですか?」
『モバイルサヴィちゃんです♪』
「もばいるサヴィ??」
『はい♪ その端末と私は常時接続しておりまして、マスターが見聞きした物を私も見聞きする事が出来る代物です。勿論必要な時に呼び出して頂ければいつでもサポート致します♪』
「サヴィちゃんが、この腕輪に?」
『はい♪ ちょっと試してみますね? ……はいっ! どうです? 凄いでしょう?』
サヴィちゃんの身体が消えて、ナーリアの装着した腕輪から淡い光が出てその上に小さなサヴィちゃんが浮いていた。
移動した、というよりも表示する場所を変更した、という事らしい。
「凄いですね……サポートと先程言っていましたが……」
『はい♪ 私はこの端末からでも全ての機能を使用可能ですので。例えばマスターが心配しているスキルの外れについてですが、ある程度ならばこちらで自動補正をかける事も可能です』
「本当ですか!? それは本当に助かります! 私、あんな強力な武器を使って味方を撃ってしまったらと思うと怖くて怖くて……」
本気で怖がってる顔をしてる。味方に対して矢を放った経験があるからこその心配なのであろうが……これは儂としても安心じゃ。身内からあんな物をぶっ放されたのではたまったもんではないからのう。
「では……ありがたく頂いておきますね? えっと……エレ……?」
「エレクトロメガ粒子砲です。EMPCとも呼びます。通称エンペックですよ♪」
「エンペック……なんだか不思議な名前ですね」
クリスタルツリーの弓は使用不可になってしもうたが、戦力面ではむしろプラスじゃろう。
「さて、ここの調査もこれで十分じゃろうし後は王国へ帰ってから詳しい事をサヴィちゃんに聞くとしようか」
皆でこの場を後にしようとした時、アシュリーから通信が入った。
「アシュリーか、どうしたのじゃ?」
「どうしたのじゃ? じゃないわよ! ずっと通信入れてたのに全く繋がらなかったじゃない!」
あぁ、やはりここの遺跡自体が外との繋がりを断っていたのじゃな。
今は大きな穴が空いて回復した、と。
「で、どうかしたのかのう?」
「こっちは今大変な状態なのよ! 早く帰ってきなさい! セスティ達も連絡つかないしもう大事な時にあいつらはーっ!!」
アシュリーが珍しく声を荒げて慌てている。
余程の事なんじゃろうか?
「分かった、すぐ行くから何が起きたのか簡単に教えてくれんか?」
「早く帰れ! 王都が滅ぶ! 以上!!」
ぶつっと乱暴に通信が切れた。





