魔王の嫁は頭が痛い。
「お主の言う楽園というのがどこの事なのか分からんのじゃが……」
『おつむよわよわですねー』
「はぁ……もうなんでも良いから説明せい。楽園とは何か?」
『はい。楽園とはユーフォリア地方を中心にイルミレイアから切り離し隔離した安全地帯です』
安全地帯……? 切り離した……?
「もしや、ユーフォリア地方と、そのイルミレイアというのは以前一つであったのじゃろうか?」
『その通りですぅ。現在は隔離の後洗浄、消毒により全ての生物を一度排除した上で切り離しました。通称【楽園】ですぅ』
……やはり、今わしらが居るこの場所は……この女が言う所の楽園という場所なのじゃろう。
だとすると、ここより外にはまだまだ広い世界が広がっているとでも……?
頭痛くなってきたのじゃ……。
「楽園の外の世界は今どうなっているのです……?」
ナーリアが弓のショックからやっと少し立ち直り、サヴィちゃんに核心を問う。
『楽園を作り上げ、住民の生き残りはそちらへ移動する筈でした。ですが、一歩遅く、世界は崩壊を迎えました』
崩壊……既に外の世界は失われている……?
どういう状況なのであろう?
『楽園に移動出来たマスターは私が確認できている範囲では一人のみですぅ』
「楽園の外は……崩壊したと言っておったが、完全に消滅したのであろうか?」
『現在は既に存在しておりません。実験体Oをはじめとした数々のバイオエクスペリメントの戦いにより世界は崩壊いたしました。ちなみにその模様は記録として映像が残っております。再生しますか?』
「映像……であるか。我は興味あるのである。ヒルダ様はどうであろう?」
そうじゃな……。映像を見れると言うのであれば見ておいて損はあるまい。
「分かったのじゃ。じゃあその映像を見せてくれい」
『かしこまりました。大ホールの方へ移動おお願い致します』
そう言ってサヴィちゃんはテーブル状の場所から飛び降り、スタスタと歩いて行ってしまった。
ここから投影されている物と思っていたのに、どうやら自由に歩き回る事が出来るらしい。本当にどんな原理なのじゃ……。
しかし、先ほどの広い空間はそういう事に使う場所であったか。
儂らが大ホールとやらへ移動すると、どこかから照らされていた薄暗い照明が完全に消え、ホールが真っ暗になった。
そして……。
「こりゃすごいわ! 大迫力やんか!」
ロピアが驚くのも無理は無い。
球状になっているホールの天井に何やら映像が映し出されていく。
そこには見た事ない類の人々、そして……見た事が無い造形の化け物たち。
外の世界では大小さまざまな国があり、それぞれが似たような研究をしていた。
そして、段々と各国の関係が悪くなり、ついに大きな争いがおきる。そして自国を守るために化け物が大量に投入され、世界を崩壊させる程の大乱戦が始まる。
「すごいですね……まさか、こんな事になってるなんて……」
それはそれは物凄い光景であった。
その化け物たちは世界から魔素を吸い上げつつ自らの力に変換し、戦い続けた。
やがて魔素をあらかた吸い、そこに住まう人々もほぼ壊滅した。
それだけに留まらず、驚くべき事に世界中の地面に大きなひび割れが入り、世界は細かく砕けた。
「……何という事じゃ」
ここまででも相当衝撃的な映像であったが、問題はその後である。
人の命令で戦っていたそれらは、主を失い、自由を手に入れる。
そして……それらは魔素を求めて楽園へ移り住んだ。
「なんだか、えらいことになっとるんやけど……これ結局この化け物どもはどうなったんや?」
『一つ目の人の問いに答えましょう。実を言うと私のデータベースにある記憶はここまでです。現在の楽園には彼等は居ないのですか?』
「少なくともうちは見た事ないで? なぁめりっち」
「めりっち言うでない。……しかし、確かに見た事はないのう。ドラゴンの類がかろうじてそれっぽい気もするが……おそらく違うであろうな」
しかしよもやこんな場所で世界の秘密を知る事になろうとは……セスティにいい土産話が出来たと喜ぶべきか否か……。
「サヴィちゃんでしたよね? 貴女はどうやってここへ来たのですか……?」
ナーリアの疑問も最もじゃ。この映像では人類……人と言ってもこの世界の人間とは全く違うが、人類は皆滅びておる。
『私はあらかじめ隔離、消毒後楽園内に設置されておりましたので。マスターが一人事前に私と共に来ておりましたが今は見当たりませんので寿命で亡くなったかと思われます』
「……どんな方だったんですか?」
『一言で言えば変わり者でした。研究にしか興味がないと言いますか……』
まるでアシュリーやクワッカーのようじゃな。
いつの時代もどこの世界にもそういう人種は一定数存在するものなのかもしれん。
技術を突き詰めた結末がこれでは笑えんがな……。
『オーラン・ジェット・D・イルミラという変わり者の彼は自ら立候補して楽園に先乗りしたんです』
少し懐かしそうにサヴィちゃんが語り、ナーリアはその言葉を聞いて眉間に皺をよせ、首を傾げていた。
何か気になる事でもあったんじゃろうか。





