魔王様と魔剣。
『おい女! もう少し丁寧に解け』
「……煩いなぁ……切り落とした方が早いんじゃない?」
『ほう……言うではないか。やれるものなら……いや、何でもない。お前は本当になんの感情もなく切りつけてきそうだからな……』
オロチはこの短期間でショコラの危険性をよく理解している。
「なんでこんなきつく結び目が出来るほど動いたの? 馬鹿じゃん。やっぱ切った方が早いよ」
『おい、貴様の妹なのだろう? こやつをどうにか……』
「えいっ」
ずぱんっ。
『~~っ!? なっ、えっ!?』
「ほら、やっぱり一本切り落としたら簡単に解けた」
『……く、狂っておる』
何も言わずにその様子をしばらく眺めていたが、なんというか……同情するぜ。
「というかだ、切れた首は大丈夫なのか? もう五本しか残ってないじゃないか」
『それ自体は特に問題ではない。数時間もすれば元通りだ。それは貴様も同じであろう』
「なんだ、気付いてたのか」
こいつの目の前で再生した覚えはないんだが……。
『それはそうだ。貴様が道中で腕を何度も犠牲にしたのは分かっている。何せ食ったのは我だからな。こちらは誰を食ったかなどいちいち気にはせんが、毎回同じ味、そして貴様を直に見た時の違和感で流石に気付いた』
「あぁ……あの趣味の悪い扉はどうにかならなかったのか……?」
俺は何度もこいつに腕を食われてきた訳か。なんだか腹が立ってきたぞ……。
『神の力を借りようというのだ。生贄の八人程度どうと言う事はあるまい。その気になれば四人で済むし良心的であろう。ただでさえこちらは燃費が悪いのだ』
「そんだけ頭が多けりゃ使うカロリーも多かろうぜ」
『そういう簡単な話ではないのだ……まぁいい。久しぶりの人の肉はなかなかに美味であったからな。それにしても食っても食っても無くならんとはなんと都合のいい永久機関か。貴様我の食料担当にならんか?』
勘弁しろよ……いくら再生するからってこっちはマジで痛いんだからな?
『ふふ……睨むでないわ。貴様の血肉には尋常ならざる力が満ちていてな、こちらも随分久しぶりに暴れさせてもらった』
「本気の半分も出してねぇ癖に良く言うぜ」
こいつは確かに外皮は硬かったし厄介な相手だったが、本気を出して無い事くらい俺にだって分かる。
『本気を出していないのではなく出せぬのだ。我は休眠状態であったからな。ここまで動けたのは貴様の血肉のおかげよ』
俺はここに来るまでに冬眠してた蛇に栄養を与え続けていたのか……冷静に考えると気色悪いな。
『して、改めて貴様に問おう。星降りの民を相手にしようというのは本気か?』
「当然。こっちはもう何度か戦ってんだ……結果は、わざわざこんな所まで戦力探しに来るところを鑑みてほしいね」
『そうか……我としても憎き星降りの民は是非ともこの手で滅ぼしたいところではあるが……如何せん身動きが取れぬのだ』
「それは物理的にか? それとも休眠明けでエネルギー不足か?」
『そうさな、その両方であろう。我は活動の限界を迎え、休眠する事を選んだ。今回は貴様の血肉でしばしの力を得たが……本格的にここを離れられる程でもない。そしてさらに言うのであれば……元々我はここに縫い留められているのよ』
チャコが言っていたように、荒神は魔力が無ければ生きていけない。
こいつは直接人間を食べる事でその体内の魔力を丸ごと身体に取り込み力に変えていたんだろう。
それは理屈としてわかるが、ここに縫い留められているとはどういう意味だ……?
『……我の体の隅から裏へ回れる。覗いてみよ』
オロチの言う通りに、こいつの身体と壁の隙間か奥を覗き込んでみる。
「……なんだありゃあ」
『それが我をここに縫い留める物よ』
こいつの身体はまだまだ奥へ続いていて、かなり大きいのが分かるが、その最後尾、太い尻尾があって、そこが光り輝いている。
まるでショコラの使ったあの刀のような……。
いや、本当に刀……いや、剣か?
オロチの尻尾に深々と突き刺さった光り輝く剣。あれはいったい……?
『それは魔剣クサナギよ。まったく持って忌々しい……』
「アレは誰にやられたんだ?」
これほどの奴をこの地に封じ込めるだけの力を持つ相手とくれば……。
『無論星降りの民よ。三日三晩戦い通した上この地に繋ぎ留められ、その上にどんどん土を盛られて閉じ込められてしまった。力もこいつのせいでほとんど出せぬのよ』
……え?
「いや、力を出せないのはエネルギー不足だからじゃないのか?」
『それもあるがメインはこっちだ。この剣は強い封印能力を持っていて、ほぼ力を封印されてしまった。貴様の血肉によって多少動けはしたが、所詮三割程度よ』
実力の半分も出してないは思ってたけど三割とはな……。
「しかしそんな状態で人の願いをかなえる事が出来たのか?」
『その程度容易い事。人間の願いはほぼ雨乞いなどの天候に関する物がメインだったのでな。どうという事はない』
「……アレを抜けば力を貸してくれるか?」
『……検討しよう』
こいつを解放して、もし力を取り戻したオロチが暴れ出したら俺では手に負えないだろう。
心強い仲間が出来るか、それとも世界の敵がもう一人増えるか。
こりゃあ痺れる賭けだな。





