魔王様とオオカミヤシロ。
「おお、こんな所に隠し通路があったのか」
俺達はゲコ美に案内されて敷地から一旦離れ、建物からは裏手側にある森へと入った。
そこをしばらく進んだところに、ぽつんと古びた井戸があった。
「はい。この中を進んで行けばオオヘビ様のお住まいに行けると……お婆さんが言っておりました」
少し伏し目がちに語るゲコ美を見るに、もうその婆さんは亡くなってしまったのだろう。
そしてゲコ美がここの管理を引き継いだ……そんなところだろうか。
「残念ですが私はここまでです。この先は……選ばれた方のみが進む事を許される……そう言われております」
もう死んじまった婆さんの言いつけをずっと守ってここに一人留まるのは随分と寂しかっただろう。
ゲッコウと再会できたのは僥倖だった。
もしゲッコウが望むのならばここの探索が終わった後奴をここに残していってもいい。
それは本人が決める事だ。いつまでも俺達の戦いに付き合う必要は無い。
「選ばれた方のみって言われてもなぁ……とりあえずうちらは全員で行ってみようぜ。行けるとこまでよ」
サクラコの意見に皆同意し、まずは俺が井戸の中へと飛び降りる。
入り口の部分からは暗くて中が見えなかったが、意外と底までの距離は長くない。そして、地面に着地して気付いたが狭いのは入り口部分だけで、すぐに開けた空洞になっていた。
俺は魔法で明かりを灯すと、上に居る奴等にそこまで深くない事を伝える。
「よいしょっと。ほんとだ……この横穴進めばいいの?」
真っ先にやってきたのはショコラ。
それに続いてサクラコ、ゲッコウと続いた。
……あれ、チャコは?
「おーいチャコ?」
「あ、穴に飛び降りるの怖いべさーっ!」
あぁ、純粋に飛び降りるのが怖かっただけか……それなら。
「ちょっと迎えに行ってくるわ」
一度井戸の外までひょいと飛び出て、チャコを抱きかかえる。
「だ、だーりん……! こっただ真昼間からだいたんだべ……」
何か言ってるけど気にしたら負けだ。
「よし、じゃあ飛び降りるからな。怖かったら俺にしがみ付いてろ」
そう言った瞬間物凄い力で俺の腕がギリギリと掴まれて握りつぶされるかと思った。
なんだかんだ言ってこいつも荒神だって事だろう。
「よっし、着いたぞ。……チャコ?」
「ハッ、も、申し訳ねぇべ!」
顔を真っ赤にしてチャコが俺の腕から飛び降りる。
こういう反応をする女子は俺の周りに居ないからちょっと新鮮。
……というかよく考えたらこいつ今年齢幾つなんだろう……いや、よそう。
そんな事言ったらろぴねぇだって何歳かわからんしな。
「みなさーん、お気をつけてーっ!」
「待っていて下せぇ! あっしらは無事に帰ってきやす。行ってきやすぜ!」
頭上から聞こえるゲコ美の声にゲッコウが目を潤ませながら答え……ているうちに俺達は先へ進む。
「ま、待って下せぇ置いて行くなんて酷いじゃないですかい」
「うるさい蛙が何か言ってるよおにぃちゃん」
ショコラよ……あいつも一応仲間なんだからもう少し優しくしてやれ。
めんどくさいから声には出さないけど。
魔法の明かりを頼りに進んでいるので俺が先頭、俺の両脇にショコラとチャコ、その後ろがサクラコ、ゲッコウと続く。
こんな大人数で来ても大丈夫か不安だったが、思いのほか広い通路のようでよかった。
岩肌はゴツゴツしているものの、きちんと人工的に整備された物だと言う事が分かる。
しばらく進むと、露骨に怪しげな扉が目の前を塞いだ。
「扉か……押して開くようなもんならいいけどな」
「んー、いや、こりゃ何か鍵とかが無きゃダメじゃねぇか?」
サクラコがあちこち調べてから降参宣言をしてしまったので俺が試しに力任せに押してみた。
「おぉ……こりゃ驚いたな。びくともしねぇや」
まるでメディファスを始めて見つけたあの洞窟内のよう。
あの時遺跡は封鎖され、俺とめりにゃんはあの中に閉じ込められる形になった……。
ここを開けるには何か特別な方法が……?
どこかで鍵を見つけて来なきゃいけないって類だとかなり面倒だぞ。
一度出直さなきゃならなくなる。
転移で向こう側に行こうにもそんな細やかな調整できるか分からん。
最悪の場合壁の中に埋まってしまう。別にそうなった所で死にはしないだろうけど……。
「おにぃちゃん……多分、これじゃないかな」
扉から少し離れた壁に、蛇の頭を模した像が有った。
壁から蛇の頭が生えてるような感じだ。
「お、でかしたぞショコラ。どうだ? 口の中に鍵とかスイッチとかあるか?」
「……あのね、これ多分手入れちゃダメなやつ。何かしらの罠があるかも」
しかしそこを調べない事には話が進まないだろう……こうなったら、やるしかない。
「分かった、ちょっと俺に変われ。俺が手を突っ込んでみるから」
「大丈夫……?」
ショコラが珍しく心配そうに見てくる所を考えると、罠である可能性は高そうだなぁ。
「とりあえず皆は扉の前に居てくれ。もしスイッチがあって、押した瞬間しかあかないとかそういうのだったら困るから開き次第とにかく向こう側へ行く事。いいな??」
その場合俺だけここに取り残されるかもしれないが、このメンツだったら大丈夫だろう。
ショコラにチャコを預けて、俺は蛇の口の中に手を突っ込む。
やはり中にスイッチがあり、俺がそれを押すと勢いよく蛇の口が閉じて、
肘から先がもぎ取られた。





