魔王様とアシュリーとえらいこっちゃな奴。
「何よこれちょっと冷めてるじゃない」
「馬鹿野郎。アンタが来るの遅かっただけだろ」
俺達が到着すると、既にメアはアシュリーの出したお茶を啜っているところだった。
「……このお茶なに? なんだか変わった香りのするお茶ね?」
「紅茶飲んだ事ないのか? とっておきの茶葉を使ってやったんだありがたく飲めよ」
「出がらしとか言ってた癖に」
「うるさいわね。とっておきの出がらしなのよ」
悪態をついてはいるがわざわざいい紅茶を用意して待ってるなんて可愛いところあるじゃないか。
「よしよし」
「ちょっと……なんで急に頭撫でるのよバカにしてるの?」
下の方からキッと睨まられてしまうが、口元は笑っているのでそこまで怒ってはいないだろう。
「メアさん……セスティ様って女の人に対していつもあんな感じなんですか?」
「そうよ。自分が女の身体なのを最大限利用して油断させておいてたらしこむのがこの人のやり方なの」
「なるほど……」
「おいコラ人聞きの悪い事言わないでマジで」
「でも女ったらしなのは否定できないのじゃ」
「せやなぁ」
おいお前らまで……。って、こんな話をする為に来たわけじゃない。
とりあえず俺はレオナを近くのソファーに寝かせて、本題を話始めようとしたのだが。
「あぁ、そうそう。うちの新人君からの情報なんだけど」
新人君というのは古都の民のあいつだろうな。確かいい具合に調教されてるらしいが……。
「どうやら古都の民の街があるらしいぞ。しかもな、なんとその街の場所っていうのが……」
「山の中、だな」
残念。せっかく仕入れてくれた情報だけどそれもう知ってるんだわ。
「え、なんで分かるのよ。もしかして他の古都の民から聞き出したの?」
「実は……」
いい情報を仕入れたとばかりにアシュリーが笑顔で俺達に語ってくれるのを見ていられなくなったので、俺達に何があったのか、王国を出てメアと合流した所から古都の民の地下街ぶっ壊して来た事、レオナの正体など一通り説明した。
勿論ヒールニントやデュクシの事も。
「……つ、つまり……私が今お前に話した奴等の街は、もう行ってきたし既にぶっ潰した後だって事か?」
「平たく言うとそうなる。なんかすまんな」
「……~~っ!!」
アシュリーが頭を抱えてその場に丸くなった。
俺からするとシュッとテーブルの下にアシュリーが消えてなくなったように見える。
回り込むと、さっきドヤってたのが恥ずかしくなったらしくプルプルしていたのでもう一度頭を撫でてやる。
「なぐさめなどいらぬ!」
口調が壊れてんぞ。
「それよりだ、アシュリーに頼みがあるんだよ」
「……頼み?」
「ああ、デュクシの件はさっき話した通りだけど、奴がヒールニントにこれを残して行ったらしいんだ」
「知らない」
めっちゃ拗ねてるなぁ。こいつこんなに子供っぽかっただろうか? もっとツンケンしたキツイ姉御感出してた筈なんだけど。
もしかしてこっちの方が素なのだろうか。
「そんな事言うなって。お前しか頼れないんだよ」
「私……だけ?」
「ああ、お前だけだ」
背後の方で、「メアさん、セスティ様っていつもこうなんですか?」みたいな発言が聞こえたし、それに対するメアのとんでもな返事が聞こえてきたけど今それどころじゃないから無視した。
何回同じような事言ったら気が済むんだお前らは……。
「なぁ、頼むよ。俺を助けてくれないか?」
「そ、そう言う事なら仕方ない。私が助けてやろうじゃないか♪ で、何をしたらいいって?」
スクっとアシュリーが立ち上がり、胸を反らしながら態度の大きさも復活したようなので、あの水晶玉を取り出す。
「……これは?」
「わからん。デュクシが置いていったとだけ。使い方は任せる、だそうだ」
「……神が残していった物ねぇ? アーティファクトの類かしら? いや、違うわね……むしろもっと単純な……」
やはり研究者としての血が騒ぐのか、物凄い集中力であちこち調べ始めた。
「おいアシュリー」
「黙ってて」
「あ、はい」
素直に言う事をきかなきゃいけないような空気を察知したのでそれ以上何か言うのは辞めた。
とりあえずアレに関してはアシュリーに任せておけば大丈夫だろう。
「じゃあ俺達はこれで退散しようか」
アシュリーの邪魔にならないように小声で皆にそう告げて、そそくさと研究所を出ようとしたら勢いよく入り口のドアが開け放たれた。
「アシュリーちゃぁぁん♪ ちょっと聞いて聞いてぇぇ~♪ むぐっ!?」
俺は咄嗟に闖入者の口を手で塞いで外に連行した。
「むぐぅ~!? けほっけほっ、ちょっとなにすんのよう! ……ってあれ? 魔王ちゃんにヒルダちゃんじゃないラボに来るなんて珍しいわねん?」
「お久しぶりです」
やかましく乱入してきたクワッカーを外に押し出してしまったが、遅れて研究所へやってきた男を見てさすがに驚いた。
「お前……ザラ、か?」
「はい。その節は本当にご迷惑をおかけしました。僕はアシュリー様とクワッカー様に出会い心を入れ替えました。今ではこの魔物フレンズ王国の為に粉骨砕身、この身が朽ちるまで働いてみせます。何卒よろしくお願い致します……」
以前よりスタイリッシュで機能的な義足を装着したザラが、深々と頭を下げてきた。
お前……キャラが変わりすぎだ。
アシュリーとクワッカーの奴、こいつに一体何をした?
「しかし僕をここに連れてきてくれてありがとうございました。クワッカー様と出会えたことは僕にとって何にも代えがたい幸福です。初めて生まれてきた意味を知りました」
「お前……何されたんだ?」
「愛、ですよ。愛。愛は人を変えてしまうのです。そうですよね? クワッカー様」
「その通りよん♪ さぁ、アシュリーちゃんが何かやってるみたいだから私達もお手伝いしてあげましょ? それが終わったらまた可愛がってあげるわん♪」
「……はいっ!」
……う、うわぁ……えらいこっちゃ。





