魔王様と実験台レオナ。
「お前達は既に古都の民と接触していたという事か?」
「あぁ、前からちょいちょいな。本当に面倒な奴等だよ」
「ちょっと待つのじゃセスティ! 儂の知らんところで危険な事をしてきたのか!? 何故儂を呼ばんのじゃっ!」
あっ、めりにゃんにバレてしまった。ちょっと軽率だったかもしれない……でも、あの時他の奴等を呼ぶわけにはいかなかったんだよなぁ。
「む……メアの事を思ってか。全く、本当にお主という奴は魔王が良いんじゃから。しかし儂はそういう所が大好きじゃぞ♪」
めりにゃんはそう言ってひっついてきたけれども、魔王が良いって何? 人がいいみたいな言い回しで言わないでくれ。
「こほん。とにかく、だ……既に古都の民の脅威は無いと?」
「ゼロでは無いな。今まで小競り合いを繰り返してきた古都の民は皆外に居た。街に紛れ込んでいたり山に籠ってたりな」
「そいつらが実働部隊という所なのか……?」
「そうかもしれないな。確かに街に居た奴等は武装はしているものの、外で戦った奴等ほど苦労はしなかったから……と言ってもあの時はメアもデュクシもいたから当てにならんが」
「デュクシ!? デュクシと再会できたのか? だったら奴は今どこにいるのじゃ?」
あー。中途半端に名前出しちまったから余計ややこしくなっちまったな。
「分かった。とりあえず今ここに居る皆に情報を共有しよう」
俺は古都の民が潜伏していた山中の街にレオナがさらわれていった所から、中で何が起きたか、デュクシと再会した事やその現状など、俺達が経験して来た経緯を一通り話した。
「……デュクシがアルプトラウムじゃと……? 信じられん」
「話を聞いてよもやと思ったのだが、そこのヒールニントという少女はもしや勇者ハーミットの……」
「はい。彼がセスティ様と別れ、亡くなったと誤解してからしばらくの間一緒に旅をしておりました」
「なるほど……ではそのデュクシという男は勇者ハーミットであり、あの神でもあるという事か」
王はヒールニントの事も噂には聞いていたらしい。
新しい勇者と従者が三人。という程度だが。
「して、何故神となったその者が自分らを信奉する古都の民を滅ぼしに?」
「勝手な事言って自分の遊び場を荒らす奴等が許せなかったんだとさ」
これには王も開いた口が塞がらないようだ。
でもなぁ、ちょっと分かるんだよな。
「あいつにとってはこの世界は全て自分の遊び場なんだよ。楽しむ為だけに生きてるような奴だからさ、邪魔されるのが嫌だったんだろうぜ」
「本当にそれだけかしらね」
反論が意外な所から飛んできた。
「どういう事だメア」
「私はずっと気になってたのよ。あのアルプトラウムがその気になればあんな山の中になんかいちいち自分から乗り込まなくても上空からちゅどーんで消し炭に出来る筈よ」
……それはそうだろうが……何か他に理由があるとでも?
「例えばあの兵器」
「話しに出て来たやつじゃな? 形状を聞くに高出力レーザーか何かの類じゃろうが……」
さすがめりにゃん賢い。この場にアシュリーでもいればもっと詳しい用法なども分かったのかもしれない。
「あの兵器に手を加えたのはアルプトラウムだと思うわ。きっとどんな物を保有しているか確認しに来たんだと思う」
「その根拠は?」
「あいつのやりそうな事だから。相手がどんな隠し玉を持っているのか調べてそれが使えそうなら自分が遊ぶために使い、必要無ければ破壊する。そういう奴なのよ」
「そういえば……あの時ハーミット様は、もうすぐここは崩壊すると言っていました」
メアの予感を裏付ける証言が出て来たな。
「ヒールニントの言う事が本当なら、確かにデュクシは何か他に目的があったんだろう。それがあの兵器だけなのか、他にもあったのかは知らないが……」
「あの……これは言うべきか迷ったんですが、ハーミット様がこれを……」
ヒールニントがおずおずと掌に収まるくらいの水晶玉を差し出してきた。
「これ、ハーミット様が居なくなる直前に……気まぐれだって言って置いていったんです」
「これはなんだ……? アーティファクトって訳じゃなさそうだが」
「分かりません。ただ、使い方は任せる……とだけ」
「ふむ。とりあえずこいつについては後でアシュリーにでも見てもらおう。何か分かるかもしれないからな」
それにアシュリーの所には有望な新人も居るし。生きてるといいけど。
「こっちで分ってるのは今の所これくらいだ。だからくれぐれも古都の民の残党には気を付けてくれよ? レオナに何かあったら困るだろう?」
「そういえばレオナが狙われた理由を若いからじゃないかと言っていたな。それと古都の民が五体満足ではないと……」
「基本的にあそこの連中は若く見えてもかなり歳を重ねている。それと大抵の場合足が不自由で、下半身は機械のような魔道具に頼ってるのがほとんどだったからな」
「なるほど……若く健康なレオナを捕獲し、何かの実験台にする可能性があったという事か」
「下手したら解剖されたり細胞培養されたりしてたかもしれないな」
びっだーん!!
突然大きな音が響いて入り口のドアの方を見ると、意識を取り戻して俺達を探しに来たらしいレオナが、先ほどの話を聞いて意識を失ったところだった。
忙しい奴だなこいつも。





