聖女様は人間やめようか悩む。
セスティ様とハーミット様は地下街を縦横無尽に駆け巡り、物凄い勢いで敵を殲滅していった。
時に各個撃破し、時に協力して……二人ともとっても楽しそうだった。
セスティ様は、「お前がこんなに強くなるとは思ってなかったわ♪」なんてまた女言葉になりながら笑っている。
次に会う時は敵だと言われていたのに。
どうして、今だけだと分かっていながらあんなに全力で楽しむ事ができるんだろう。
ハーミット様はメアさんにも声をかけて、なにやらメアさんが驚いたり叫んだりしてハーミット様に掴みかかったりしてる。
いいなぁ、そこに私も混ざりたいなぁ。
あとなんなのあの獣。
尻尾が沢山あるあのもふもふの人、どうやら女の人みたい。
しかも、しかもしかもしかもなんなのあいつ!
もふもふしてていいな可愛いなって思ってたのに急にハーミット様にベタベタし始めて、しかもハーミット様はハーミット様でそいつの事にゃんこなんて読んでるしなんなのそれペットか何かですか!?
そいつは一緒に居られるのに私はダメなの?
やっぱり強いから? 強くないと一緒に居られないの?
守るのが面倒だから? 何かあったら困るから?
死なれたら困るから……?
くっそう……私、絶対にハーミット様を見返してやるんだから。
私もその場所まで……!
どぎゃぎゃぎゃどごぉぉぉん!!
私の目の前ににゃんこさんが錐揉みしながら降ってきて地面に突き刺さった。
「いってぇぇぇっ!! クソがっ! 今やった奴どいつだぶっ殺す!!」
そんな事を言いながら地面から頭を引っこ抜き、尻尾を逆立ててぴょーんとジャンプし、この街の天井に張り付く。
……いや、アレを目指すのは辞めよう。
私があんな事できるようになる為には何回人間を辞めたらいいかわからないもん。
勿論、何か力を手に入れられそうになったとしたら私はそれがたとえ悪魔の囁きだったとしても受け入れてしまいそうだけれど。
さっきから私に襲い掛かってくる敵が誰も居ないのは不思議だったけれど、ハーミット様が何かしてくれたらしく体がぼうっと光っている。
きっとこれが気配を殺すとか、意識を逸らさせる役割をしてくれているんだろう。
あの人はいつの間にこんな、なんでも出来る人になってしまったんだろう。
明確にはいつから?
私達の前から姿を消したあの日、その時まではいつも通りのハーミット様だったのに。
ハーミット様は悪魔って言ってたけれど、アルプトラウムという神様と一体化した……。
そういう事らしい。
それはきっと私達の前から姿を消した事と関連がある筈で、きっと私のせいなんだろう。
私はその理由を知りたい。
何が起きて、彼がどうなってしまったのか……。
知って、その対策をしたい。
ハーミット様を元の姿、元の彼に戻す。
その為なら私の命など神に捧げてもいい。
……あ、今はハーミット様が神様だったっけ……。
うん、でもいい。
私の命はハーミット様に捧げる。
そう考えれば何も怖くないしためらいもない。
私の信じる神様がどこの何者かも分からない存在からハーミット様になっただけだ。
なんにも問題ないじゃないか。
なのにどうして涙が出るんだろう。
私とは随分遠く離れた存在になってしまったからだろうか。
それとも、他の女を近くにおいている事への悔しさや惨めさからだろうか?
どうしたら、私はどうやったらあの人の隣に並べるの?
少なくとも自分の身は自分で守れるようにならなきゃダメなんだろうか。
セスティ様のように強かったり、あのにゃんこっていう人みたいにもふもふにならなきゃいけないのかな?
少なくともこのままでは……私はただ置いて行かれるだけの惨めな女で終わってしまう。
そんなのは嫌。
受け入れられなくてもいい。
傍においてくれなくてもいい。
せめてひたすら追いかけ続けて迷惑をかけ続けられるくらいにはなりたい。
セスティ様もハーミット様も、メアさんもあのにゃんこって人もみんなすっごく強くって、あの四人が暴れ回ったせいでここの住民はもうほとんど残っていないんじゃないだろうか。
敵だとしても人は人、死ねば胸が苦しくなるし辛くなるのに、今の私は自分の事で手一杯すぎて悲しくもならなかった。ごめんなさい。
そんな事を考えていると突然誰かが背後に降り立つ音がして、振り返る間もなく私は抱きしめられた。
「ハーミット、様?」
「俺はお前を連れて行く訳にはいかない。だけど……愛しているよ」
「貴方は……ずるいです」
「ごめん。だけどどうしようもないんだ。ここはもうすぐ崩壊する。俺はもう行くから姫ちゃん達にも伝えてくれ。そしてヒールニント、お前は……俺の事なんて忘れて幸せにおなり」
「酷い人……愛してるなんて言われたら忘れられる訳ないじゃないですか……私は、諦めませんから」
すぐ耳の後ろで、困ったような乾いた笑い声が聞こえる。
「困ったな。いっそお前の記憶を消すしかないか……」
「そんな事をしたら私は死にます」
「おいおい……」
困ってる。もっと困ればいいんだ。
「私、本気ですからね? 思いつめたら何するか分かりませんよっ!?」
「それお前が言うと洒落にならねぇんだよなぁ……どんだけ俺が衝撃を受けたか分かるか?」
「……何を言ってるのか分かりません」
「……そりゃお前は知らんだろうな」
「分かるように言って下さい」
「悪いが、もう時間だ。もう会う事もないだろう」
ふざけんな! こんな終わり方なんて絶対に認めない……!
振り替えると、そこにはもうハーミット様の姿は無かった。
ただ、最後に彼の声が響く。
「これは気まぐれだ。どう使うかは任せる」
最後の言葉としては似つかわしくない言葉。
それと共に、私の足元には小さな水晶玉が落ちていた。
お読み下さりありがとうございます☆彡
次回から新章突入!
舞台はあの国へ!
引き続きぼっち姫を宜しくお願いします。
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