聖女様はかなわない。
「ああ、俺に任せろ」
「……これ以上姫ちゃんと話す事は何もないっすよ。俺は俺の目的でここに来たんすからやるべき事をやって、今回は退散するっす」
『待ちなさいアルフェリア! 貴方は何故神でありながら古都の民を手にかけるのです!?』
……やっぱり神様と一緒になってるの?
神なのか悪魔なのか……。
でももし神様だったとしたら自分の配下を殺しにくる意味が分からない。
「なに、それは簡単な事だよ。神の為に、などと勝手な事を言いながらそれを理由にして私の遊び場を荒そうとしているような連中は鬱陶しくてたまらないからぶっ潰しに来たのさ」
『……貴方のそういう自分本位な所は人間と一つになっても変わらないのですね』
「それは違うよ。私は俺と一つになった事で余計自分本位になったと言ってもいい。相性がとても良かったのかもしれないね。考え方は違っても自分が何かをなそうという強い気持ちは一緒だった、という事かな」
『本当に、貴方は困った人ですね……絶対、後でお仕置きしますから。覚えておいてくださいね』
「それは怖い。俺は既に心に決めた相手が居るからな。そいつ意外にお仕置きなんてされたくもないね」
「だったら私がします。今、すぐに」
「なに……?」
ハーミット様がやっとこっちを見た。
振り向いた。
私はその瞬間に、思い切りそのほっぺたを平手でビンタしてやった。
バチィィィン!!
「くはっ……、はっ、ははは……参ったな……こいつは……とんでもなく痛いぜ……」
「デュクシ、お前……」
「言ったじゃないっすか。俺はちゃんと俺なんすよ。だから、惚れた女からビンタされたら泣きたくもなるってもんっす」
「ハーミット様……! もう貴方の状況がどうとか知りません。貴方が今どんなに複雑な状況とかそんな事どうでもいいです。私は貴方と一緒に居たい。だから私の願いを叶えて下さい。私と一緒に来てくれないなら私を連れて行ってください。善悪も何もかも貴方と一緒に居られるのなら、そんな些細な事どうでもいい。聖女なんて辞めて魔女になったっていい! だから……!」
「姫ちゃん、デュクシとして最後にお願いがあるんすけど」
「……言ってみろ」
「ヒールニントを、頼みます」
「……ああ」
その言葉は、聞きたくなかった。
私の希望は、願いは叶わないという意味だ。
私と一緒には来てくれない。
私を連れていってはくれない。
「私はっ! ハーミット様にとってなんなんですか……?」
自然と涙が溢れて止まらなくなってしまった。
すると、ハーミット様は私の前まで来て優しく抱きしめてくれた。
懐かしい暖かさ。
私の大好きな人のぬくもり。
「ヒールニント、ごめんな。俺は私である事を辞められない。もっともっと楽しみたくて仕方ないんだ。だからお前と一緒にはいけない。同時に、俺である事も辞められない。ヒールニントを傷つけたくない。だから、連れて行く事は出来ない」
「意味が、わかりません……」
「分からなくていい。俺はもうそういう訳の分からない生き物なんだ。願わくば、君が俺の事なんて忘れて幸せに生きてくれれば一番いいんだけど……俺も弱くてお前の記憶を消してしまおうなんて、そんな悲しい事は出来そうにないんだ。中途半端になってすまない」
ほんとだよ。私を振り回すだけ振り回して、大事だから一緒に居られない? 連れて行けない?
ふざけるな。
「ふざけるなぁぁっ!! どうせそいつと一つになったのだって私を守る為だったんでしょう!? ハーミット様の考える事なんてすぐ分かるんですからね!! 私は私の大事な人を自分のせいで失うんですか!? そんなのって、あんまりです……せめて一緒にいるくらい叶えてくれたっていいじゃないですか……」
「ごめん。悪いけど俺は私である事を抑えられそうにないんだ。全部ひっくるめて俺なんだよ。今だって姫ちゃんと戦いたくてうずうずしてるくらいだ」
「本当にお前はアルプトラウムなんだな……面倒な奴になりやがって……」
「すまないっす。……そうだ、きっとここを出たら俺達は敵同士になるっすよね」
「それはお前次第だな」
「じゃあ敵同士になるっすよ」
それが当然のように、ハーミット様はからっぽの笑顔をセスティ様に向けた。
「だから最後に……もう一度だけでいいから……姫ちゃんと一緒に戦ってもいいっすか?」
「……あぁ、ここをぶっ潰すまでの共闘って事でいいな?」
「勿論っす! あぁ楽しみっすね……! 昔に戻ったみたいでドキドキするっすよ。見て下さい! 俺まだあの魔剣使ってるんすよ? 結構ボロボロになってきたんでそろそろ寿命っすけど……この戦いが使い納めかもしれないっすね」
どうして?
どうしてそんな笑顔なの?
どうしてそんなに楽しそうなの?
そんな言葉遣い私は聞いた事がない。
セスティ様と一緒に居た時はそうだったの?
私より、セスティ様の方がいいの?
「じゃあいっちょ暴れるぞ」
「はいっす!」
……あーあ。行っちゃった。
もう最後なんて私の方を見もしなかったなぁ……。
やっと会えた姫との共闘、さぞ楽しいだろうね。
でも、私は……セスティ様に彼を奪われた気分。
恋敵が魔王とか笑えないよ。





