聖女様は会話に入れない。
「なっ……、デュクシ? お前デュクシなのか……!? 馬鹿野郎今までどこで何やってやがった!」
セスティ様はずかずかとハーミット様に詰め寄り、思い切り抱きしめた。
「なっ、何してるんですかっ!? セスティ様自分が今女性の身体なのちゃんと分ってやってるんですか!?」
中身が男の人とは言えその身体が女の人の物だったら抱き着かれた方がどんな事になっちゃうか分からないじゃないか!
「無事で良かった。生きてたんならもっと早く顔を見せろよな」
「姫ちゃん……あぁ、なんか懐かしいっすね。姫ちゃんにこうやって怒鳴られるのは。……でも姫ちゃんが生きてるって知った時は嬉しかったっすよ。今ではもうどうでもいいんすけどね」
……ハーミット様?
「なんだよ。俺が生きてても死んでてもどうでもいいっていうのか? まったくいう様になったなぁお前も」
セスティ様はハーミット様から離れて、肩を叩きながら笑った。
「ええ、いろんな事が分かるようになっちゃってからはいろんな事がどうでもよくなっちまったんすよ。姫ちゃんは生きてる。ならそれでいい、そもそも死ぬわけないしメアの中には居ないし二人は中身入れ替わっているし二人とも記憶を失っているし……」
「……おい、デュクシ……?」
「それに、それをやったのは全部俺なんっすから」
『離れて下さい! 今すぐ、彼から!!』
突然メディファスさんから女性の声が響き渡った。
「……嘘だろ?」
セスティ様は何かに気付いたようで呆然としている。
ハーミット様の中に居るのがなんなのか、分かったのかもしれない。
『早く離れなさい! まさか人間を取り込んでいるとは……アルフェリア……!』
「ははっ、懐かしい名前を出してくるじゃないかファウスト。こうやってまた話が出来て嬉しいよ」
「おいデュクシ……!」
『もう分っているんでしょう!? この男はもう貴方の知っている男ではありません!』
「……それは違うよファウスト。俺はちゃんと姫ちゃんと一緒に旅をしたデュクシだよ。そして、姫ちゃんを守れなかった事にやさぐれて魔族殺しを続けた勇者ハーミットでもある。そして、それと同時に……俺は、私は……悪魔アルプトラウムだよ」
『……まさか、貴方が、取り込むのではなく人間と完全に一体化したと言うのですか?』
「そうさ。ファウスト……そんなに意外かい? 私はね、俺と一つの個体となる事で自分を一つの駒にしたかったのさ。おかげ様で精神状態はあっちこっちにブレ気味でなかなか愉快な事になってしまったがね、私達はお互いが混ざり合い、二個体ではなく完全なる一個体として存在している訳だね」
『愚かな事を……そんな事をしてなんになるというのですか……』
「おや、もしかして心配してくれているのかな? 何になる、とは無駄な質問だと思わないかい? なにせ私はね……」
『面白ければそれでいい……そういう人でしたね貴方は』
「よく分かっているじゃないか。……姫ちゃん、そういう事なんすよ。俺がこうなっちまったのはいろいろ事情があるんすけど、最終的には自分から望んで受け入れたんすよ。だから後悔はしてないっす」
「……馬鹿野郎。お前は、いったいこれからどうする気なんだ? お前はちゃんとデュクシでもあるんだろう? だったら帰ってこい。アルプトラウムなんてどうでもいい。ヒールニントだってお前をずっと探してきたんだ。お前の居場所なら作ってやる。だから……」
そうなってくれたら、私はそれでもいい。
話しはよく分からないけど、今ハーミット様は悪魔と一つになっているらしい。
でもアルプトラウムって、神と聞かされた気がしたけれど……。
そんな事はどうでもいい。ハーミット様がちゃんとハーミット様として帰って来てくれるのなら、私はそれ以上なにも望まない。
「姫ちゃん、分ってないんすか? 俺はちゃんと俺っすけど、同時に私はアルプトラウムなのだよ。そんなつまらない決着を望むとでも?」
「お前……もう、手遅れなのか? 何かしてやれる事は無いのか!? そいつを、切り離す事は……!」
「勘違いしないでほしいっす。俺はちゃんと俺っすよ? でもちょっとした理由があって悪魔に魂を売ったっす。俺にも大事な物があって、その為に力が必要だったんすよ。だから自ら望んでこうなった。偶然、俺にはアルプトラウムを受け入れる素質があった。メディファスレプリカとして生まれてきたっすからね」
「お前が……メディファスレプリカだと……!?」
『おそらく生まれた直後、或いは母体の中に居る間に私の欠片と融合したのでしょう。経緯は分かりませんがあり得ない事ではありません』
「そんな事はどうでもいい。デュクシ、俺は諦めないぞ。お前から、アルプトラウムを絶対に引きはがしてやる。そしてお前は帰ってこい」
「はははははは……。そりゃ面白い冗談っすね。頼もしいっす。じゃあ俺とアルプトラウムの融合が解けるようなら俺もただのデュクシとしてやり直すっすよ……でも」
ハーミット様はずっと空虚な顔をしていて感情が読めない。
だけど、この瞬間だけはとても楽しそうに笑った。
「やれるものならやってみたまえ」





