聖女様はめんどくさい女。
「くくっ……ふはははははっ!!」
「何がおかしいんですか離してくださいーっ!」
「困らせに来たってなんだよ。おかしな奴だな……」
おかしなのはどっちですか!? どう考えてもハーミット様でしょうが!
「ハーミット様には聞きたい事が山ほどあるんです! 説明してもらえるまで帰りませんし付きまといますしめんどくさい女になってやるーっ!!」
出来る限りジタバタ暴れてハーミット様の腕を振りほどこうとするけれど、びくともしない。
それどころか、私と会話しながらも古都の民二人ほど始末してるっぽい音がした。
正確には悲鳴。
「まったく、ここは騒がしいな」
「答えて下さいよ……なんで私達を置いて行ったんですか……?」
「俺と一緒に居るのは危ないからな」
やっぱりそんな下らない理由だった。
「よくいるんですよそういう、守るために自分から遠ざけるみたいな人! それで満足するのは自分だけで置いて行かれた方は結局気になって追いかけるんですよ一人で! 結局どっちの方が危ないと思いますか!?」
「うっ、なかなか耳が痛い事を言うな……でもヒールニントは今一人じゃないだろう?」
「だからと言って危険が無い訳じゃないんですよ! 一度私の事助けてくれましたよね!? でも言わせてもらいますけどあれはやり過ぎですからっ!!」
彼は乾いた力のない声で笑う。
「君は……相変わらずと思う所もあるけど……なんていうか変わったな」
「変わったんじゃなくて私はずっとこうなんです! ハーミット様を落とす為にずっと猫を被っていたんですーっ!」
もう私は何も隠さない。私を私のまま本音をぶつける。その為にきたんだ。
「……それは流石に見抜けなかったな……」
「騙されましたか!? 私、とんでもなくめんどくさい女ですからねっ! 一度私をその気にさせちゃった事を後悔させてやりますよっ! いつまでもめんどくさい事を言い続けて困らせてやるんですからっ!!」
「ははっ……そりゃぁたまらないな」
どっちの意味だよ!
たまらないってどっちの意味で言ってるんだ!?
「えへっ、えへへへへ……」
「なんだ急に……何がおかしい?」
「ハーミット様とこうやってまた話せるのが嬉しくって……もう、なんていうか、これで思い残す事なくなっちゃったなって……」
「バカ野郎。お前に死なれたら俺が困る」
「どうしてですか?」
「どうしてもだ」
あーもう腹立つ!!
「そういう思わせぶりな態度だけとってどうせまた居なくなるんでしょう!? 私の気持ちを知ってて、そうやって期待させるような事言ってどっか行っちゃうんでしょう!?」
「……まぁ、そうだな」
やっぱり。この人は私を傍に置いておく気は無いんだ。
「だったら死なれたら困るとか言わないで下さい。それともなんですか? ただ利用価値があって死なれたら困るってだけですか!?」
「い、いやそういう訳じゃ……」
「だったら……もし、本当に私と一緒に居られないって言うなら……私はいつまででもどこまででも追いかけますからね。ダメって言われても知りません。もし本当に辞めてほしかったら私の足でも切り落として下さい」
「……ヒールニント、真面目な話をしよう」
「その手を離して下さい」
多分、ああだこうだ理由をつけてまた消えるつもりなんだ。私にそれを納得させようとしてるんだ。
だったらこんな頭鷲掴みのままなんて嫌。
「わかったよ」
ハーミット様が私の頭を掴んだ手を離し、そのまま優しく頭を撫でてくれた。
泣くな。まだその時じゃない。
我慢、我慢しなきゃ。
ゆっくり振り向いて、その懐かしい顔を……。
「ハーミット様……その髪は、どうしたんですか?」
あの赤茶色の髪の毛が、今は艶の無い白髪だった。
「あぁ、あまりこれを見られたくはなかったんだけどな。もう俺はお前の知ってるハーミットじゃないんだ」
「どこからどう見てもハーミット様です」
髪の色が違くたって、少し顔色が悪くったって……どこからどう見たって……。
「……貴方は、誰……ですか?」
「……わかるか? やっぱりお前はごまかせないな」
ハーミット様は力なく笑う。
どこから見てもハーミット様なのに、全く違う人のようにも思える。これは、どういう……?
「ハーミット様の中に何が居るんです? それが私と一緒に居られない理由ですか?」
「……ああ。俺は、もう勇者なんかじゃない。ただの悪魔さ」
「何が悪魔ですか。一体何があったんです? まさか私達を助ける為に悪魔に魂でも売りましたか?」
冗談だった。
冗談のつもりだったのに、彼は苦笑いするだけだった。
「……出て行け」
「ごめんな。俺は俺であると同時に、もう俺じゃない物になったんだ」
「ハーミット様から出ていけぇぇぇぇぇっ!!」
「ヒールニント!? こんな所で何をやってるんだ!? 結界に居るんじゃなかったのか!?」
すた、っとハーミット様の背後、少し先にセスティ様が降り立つ。
お願い、もう少し……邪魔をしないで。
「そいつは……誰だ。ヒールニントをどうするつもりだ!?」
ハーミット様は、ゆっくりセスティ様の方へ振り返り。
「もっと、早く会いたかったっすよ……姫ちゃん」





