聖女様はそらとぶもふもふが気になる。
「あの、状況を説明してください! それとこれ解いてくれませんか?」
「あ、そうでした。私達は貴女を助けに来たんです。この方は鬼神セスティ様」
「セスティ……様? あのセスティ様ですか? こんな少女だったなんて……」
「いや、それはいろいろ事情があんだよ」
確かにセスティ様の状況を説明するのはいろいろめんど……時間がかかりそうだから、それはおいといて。
「とにかく、俺達はレオナを助けに来たんだ。お前はどうしてこんな所に連れてこられたんだ? それに姿も元に戻っているな?」
「あっ、はい。私は昔お世話になった知人を頼りにディレクシアに行ったのですが、何故かその方の家に入った途端姿が元に戻ってしまって。それに……悲しいですけどその方が私を売ったんです」
ディレクシアの住民がレオナさんを売った?
だからといって普通の人が古都の民と繋がりがあるとも思えないけど……。
「細かい裏どりは後でするしかないな。まずは古都の民が何を企んでるか突き止めないと……」
セスティ様はやっぱりこの穴の中へ行くつもりみたいだ。
メアさんとセスティ様が本気で暴れるならやっぱり私は邪魔になるだけだと思うし、今はレオナさんもいるしね……。
「よし、そうと決まれば二人とも行くぞ」
「えっ、ちょっと待って下さい! 私達は足手まといになりますよ。メアさんは私に一緒に来いって言ってましたけど、実際ここで待ってた方がいいと思うんです」
セスティ様は少し悩んで、「それもそうか」と呟いた。
「ヒールニント一人ならともかく今はレオナも居るしな。そうなってくると不安ではあるが……」
「だったら二人で大暴れしてさっさと終わらせて来てくださいよぅ……」
もう私、ほんとについてけない。
「分かった。じゃあお前らは安全な所に隠れていてもらおうか。一度山の麓へ降りよう。ここだと目立ちすぎる」
セスティ様はそう言って私とレオナさんを小脇に抱え、ぴょーんと山の麓までひとっとび。
落ちる感覚がめちゃくちゃ怖い。着地の振動とかはセスティ様が何かしているのか全く感じなかったけれど、怖さは消えないしレオナさんも固まっちゃってる。
でもよかった。これで私とレオナさんは安全……。
その時、なんだかもふもふした獣っぽい物が私達の上空を横切り、そのまま山頂の穴へ消えていった。
「……セスティ様、今の……なんですか?」
「……分からん。魔族かもしれないな」
魔族……アレが?
魔族がこんな所になんの用があって……?
「あ、あの……魔族、というのが危険そうなのは分かるのですがここら辺には出ないんでしょうか……?」
レオナさんが不安そうにセスティ様の服の袖を掴む。
怯えながら自然にそういう事が出来るタイプの女の子なのかこの人は……。
別にだからどうという訳じゃないけれど、こういう男ウケが良さそうなタイプはハーミット様に近付けてはいけないと本能が告げている。
でも。
今回はそういう訳にはいかない。
「セスティ様、移動してきたばかりで申し訳ないんですけれど、やっぱり私達も中へ連れて行ってくれませんか?」
「なんだ? お前らだけで隠れてるのが不安になったのか?」
それは確かにある。あるんだけどそうじゃない。セスティ様には言わないけど。
今の私の心臓の高鳴りは、きっと間違いない。
さっきの魔族を追ってきたのかどうかは分からないけれど、ハーミット様が来てる。
既に、あの中にいる。
確証は何も無いし、理由は分からないけれど……私には確信じみた予感があった。
「私達ではどんなに弱い魔族だったとしても簡単に殺されてしまいます。だったらまだセスティ様と一緒に行った方が安全だと思うんです」
「そうだな……もしさっきのが魔族だったら一匹だけとは限らないしな。その方がいいかもしれん。それと早めにメアと合流した方がいいかもな」
「じゃあ申し訳ありませんが宜しくお願いします」
私もセスティ様の空いている方の腕にしがみ付いて移動に備える。
案の定この人は私達が普通の人間なのを考慮してくれないから一足飛びでぴょーんと山頂まで戻ってしまうので私とレオナさんは悲鳴をあげる余裕もないくらい顔面蒼白だった。
降りた時よりはマシだけど。
でも忘れてた。ここからもう一度落ちなきゃいけないんだった。
セスティ様は勢いを殺す為に壁に片手を当ててずり落ちるようにゆっくり穴の中へ降りていく。
私はもう片方の手に掴まり、レオナさんは背中におぶさる形でしがみ付いていた。
「もうすぐ底につくけど……どうすっかなぁ」
セスティ様が悩んでいるのは私達の外見の事だった。
予定ではメアさんにいろいろやってもらって、ここの住民に紛れ込むって話だったんだけど……。
「ん……? これは特にあれこれ考えなくてもいいかもしれんな」
セスティ様がそう判断した理由は私にも分かった。
この下にある街は既に戦火の渦に飲まれていたのだから。





