姫魔王と王国民の決意。
「許せません……私は、姫が記憶を無くして魔王になっていた時、確かに激しい殺意を向けました」
あ、あぁ……。そんな事もあったなぁ。
ナーリアが本気で俺を殺そうとしてたのは今思い出すと、勘違いとはいえ恐ろしいな。
しかも理由が俺の事を思ってっていうのが滑稽極まってる。
神の采配には脱帽するね。趣味が悪すぎる。
「ですけど、魔王は人間と同盟を結び、魔物の事、人間の事、どちらもしっかり考えている素晴らしい人になっていました。私はその魔王を受け入れた。結果的にそれは姫だったわけですけど、えっと何が言いたいかというと……」
分るよ。ナーリアが言いたい事はこの場にいる皆ちゃんと理解してる。
「だから、大事なのは今その人が何を思ってどうしたいかなんじゃないですか!? ロザリアが本当はメアだった? そんなの知った事じゃないですよ! だって私はメアだと思ってた相手と友達になれていたんですよ? 今更実はメアでしたなんて言われてそれだけで判断する訳ないじゃないですかっ!!」
もう止まらない止まらない。
みんなナーリアが言う事を理解しつつ、納得しつつも彼女の熱のこもったマシンガンに驚いている。
「な、ナーリアはん? あんたそんなにロザリアと交流あったんか?」
ろぴねぇが不思議そうに問いかけるけど、多分そういう事じゃないんだと思う。
「いいえ。私にとっては姫の身体に入っていて、メアの身体に移動したロザリアだという認識以上でも以下でもありませんでした。だから正直いうとあまり興味なかったんです」
正直すぎるだろ。もう少し気にしてあげなさい。
「ですが……自分がメアである事を隠したのはまだ分かります。言い出せない気持ちは分かりますよ! だけど……自分を知ってもらう努力もしないで消えるなんてふざけてます!」
きっとナーリアはメアになってた俺となんだかんだとうまくやれた実績があるからこそ、何もしようとせずただこの場から逃げ出した彼女の事がどうしても許せないんだろう。
「言ってくれれば、分っていれば私だって……」
きっとナーリアは受け入れる事が出来ただろう。
あいつが後悔している事をしればこの国の奴等はみな分ってくれると思う。
それでも……。
「ナーリア、お前の気持ちは分かるよ。だけどさ……俺達と敵対してた事だけじゃなくて、あいつはローザリアを滅ぼしてるんだぜ?」
「……ッ!!」
言えばみんなが理解してくれる。
それはきっとあいつだって分ってたんだよ。
「理解してくれる。過去を水に流して仲間として受け入れてくれる。それってさ、あいつにとってはとてつもない責め苦なんだよ。正体を隠して別人として生きていたうちはいいさ、そんな過去があるのを誰も知らないんだから。だけど、ナーリアだってローゼリアの惨状を見ただろ? 人間が魔物に……」
ナーリアは必死に俺の言っている事を消化しようとして声が出ないでいる。
気付いたんだ。
メアがどれだけの闇を抱えていたのかを。
「あいつはさ、一国に住まう人々すべてを地獄に落としたと言っても言い過ぎじゃないんだ。今どれだけ改心して、もうそんな事しないって言ってもさ、過去は消えねぇんだよ。メアはその狭間で苦しんでたんだ。だからあいつにとって自分がメアだと気付かれてしまうっていうのがどれだけ大きな事だったかわかるだろ?」
「……はい。私の、考えが浅はかでした……」
ナーリアはがっくりと肩を落とし、大分意気消沈してしまった。
別にナーリアが悪い訳でもないんだがな。
「俺はさ、あいつの正体がメアだと皆が知ってしまったなら、それなりの報いを受けさせるべきだと思ってる」
「姫っ! しかし……それはあまりにも……」
「俺の考えは変わらないぞ? あいつは多くの人間を殺した。そして強大な力も持っている。俺よりもいろんな魔法を使いこなし、その身にアーティファクトを大量に抱え込んでる。危険なんだよ」
「待て待て、黙って聞いていれば……セスティ……お主まさかメアを討伐するなんて言い出すんじゃあるまいのう?」
めりにゃんも随分ほだされてるなぁ。
自分を魔王の座から蹴落として力を奪った相手なのに……。
まったく本当にこの子は良い子だなぁ。
「討伐? んな訳あるか。あいつには責任を持って殺した人間の何倍もの命を守り続けてもらわなきゃならんからな」
「姫っ! そ、それでは……」
「ふふっ……あんたらしいわ」
「セスっち、それでこそうちの旦那や♪」
「愛人が妻気どりするでないわっ! この素晴らしい男は儂の旦那じゃからな!?」
やれやれ。相変わらず騒がしいなぁこいつら。
そうと決まれば俺達がやるべき事はただ一つだろ?
「メアを、改めてこの国の住民として呼び戻すぞ。みんなあいつを探すの手伝ってくれるか?」
その場に居た全員。
ライゴスや、まさかのステラまでもが同じ言葉を答えた。
「もちろん」と。





