姫魔王は気が休まらない。
「ほ、本当にいいんだな!? 押すぞ!? 押しちゃうぞ!?」
「うるさいなぁ。言っておくけど私達の仲間はもう助け出されてあの変な機械の中には居ないから。壊したければ勝手にどうぞ?」
「そ、そんな馬鹿な……! いったい、誰が……!?」
残念だけど、うちらの仲間がここに来てないんだよなぁ。
「あんたがうちの仲間を一人置き去りにしてたんだよ。そいつが上手く運び出してくれたようだ」
「嘘だ……嘘だ嘘だ……。こんなの、絶対、おかしいよ……ひ、ひひははは……」
「って訳でさ、私を含めてここにいるみんなはお前に怒ってるんだけど……ストレス解消してもいいよね?」
「あ、あの……た、たすけ……」
ご愁傷様です。
「ステラ!!」
「ナーリアさまぁぁぁぁっ!! 私っ、怖かったですわぁぁ!!」
二人は思い切り抱き合ってイチャコラし始めてしまった。
周りの俺達の事も少しは考えてもらいたいが、さらわれていた事を考えるとこれだけ喜ぶのもしかたないだろう。
まったく、今回はいろいろ酷い目にあった。
しかし最終的にはあいつがぬいぐるみを見落としてくれたおかげで助かった訳だが……。
「ライゴスよくやった。今回はお前のおかげで助かったようなもんだ」
「わ、我は……皆が消えてしまってどうしていいか……。しかし、これはチャンスだと思って必死だったのである」
ライゴスは一人取り残されて、力を開放しあの機械からステラを助け出して、上の階へ出てリュミナさんを担ぎ上げて外へ避難したらしい。
結果的に爆破されたりはしなかったが、ライゴスの働きがなければこちらもあれだけ余裕のある対応はできなかったし、奴もスイッチを押していたかもしれない。
そうなったら、少なくともステラは死んでいただろう。
「それにしてもこの騒ぎで未だにリュミナさんは寝たままなのか……元からおおらかな人だったが、さすがに凄いな……」
イムライは部屋で爆睡したままのリュミナさんに感心しながらもかなり呆れた様子だった。
「それにしてもここパン屋って感じ全然しないな?」
「あぁ、それは彼女がただの趣味でパンを作って露店形式で売ってるからだね。お、この家の猫が帰ってきたようだよ」
イムライの言葉にドアの方を見れば、真っ黒な小さな猫が俺達の事など気にする事なくとてとて軽快に寝室へ向かい、リュミナさんの身体の上に飛び乗ると丸くなって寝てしまった。
まったく、二人とも呑気なものである。もしかしたらこの家ごと爆破されていたかもしれないというのに。
そういえば、結局ザラは皆でボコって半殺しにした所でアシュリーに引き渡した。
もしかしたらと思い通信機である程度報告したところ、案の定そいつの身柄を渡せというのでそのままくれてやった形になる。
おそらくあいつの研究や技術力は何かしらの役に立つかもしれない。
ザラは、このフルボッコ状態から抜け出せるならなんでもいいと泣いていたが……どうだろうな。恐ろしい思いをするのはこれからかもしれないぞ?
あっちはアシュリーと……クワッカーだからなぁ……。
まぁ、悪事に対する天罰かなにかだと思って諦めてもらうしかない。
「リュミナさんはどうせ起きないしこのままでいいだろう。もう地下室も消えてしまったしね」
そう、ザラをアシュリーに引き渡してほどなく、あの地下室は消えてしまった。
あの研究室とを繋いでいた何かが消失したのだろう。
ザラがこの場から離れたせいかもしれない。
結局俺はリュミナさんって人と一切会話する事なくこの家を後にした。
「なんか疲れちまったなぁ……妙な勘違いで振り回されるわザラのせいでひん剥かれるわ……」
「と、とてもいい物を見せて頂きましたっ!」
「ナーリア様……? おいてめぇ一体ナーリア様に何見せやがった!?」
おいおい勘弁してくれよ。
とにかく俺は疲れたから今日はもうゆっくりしたいんだ。
「大変じゃったが無事に解決してよかったのう? それに、ナランの代表はイムライなのじゃろう? だったら儂らのやるべき事も終わったようなものじゃな♪」
「ん? 俺がどうかしたかい?」
あぁ、そういえばそうだったな。代表者を探して話を通すっていう意味ではこいつが適任なのだろう。
俺はある程度の事情をかいつまんで説明した。
「……なんてこった。君が魔王をやっているとはね……ちなみにそちらの子が奥さんか……なるほどなぁ。でも事情は理解したよ。なかなか難しいかもしれないが、以前クレバーを崩壊させ、当時の魔王を退けたプリン・セスティと言う事であれば皆理解してくれるだろう」
話が早くて助かる。
こいつはなんていうか、戦闘力はきっと大したことないんだろうけど、そういうんじゃなくて……そう、言うなれば人間が大きいんだ。
だから話していて安心するんだろう。こいつの人柄が、多くの人に信頼される要因なんだろうなぁ。
俺がそんな事に一人感心していると、突然街のあちこちから、
騒音と悲鳴が響き渡った。





