姫魔王は交渉を頑張る。
久しぶりに俺がリャナの町に顔を出すとプルットとゴギスタはかなり驚いた様子で出迎えてくれた。
どうやら俺の記憶が無い間にめりにゃんがこいつらに世話になったらしいのでその礼と、俺の無事を知らせる事も目的の一つである。
プルットは大いに喜び、豪華な食事を用意してくれた。
アレクも無事で俺達の国に居ると言う事を伝えたのだが、伝える順序を間違えてしまった。
「セスティ殿達の国といいますとぉ~? どこの事なんでしょうかぁ~?」
この間延びした声も久しぶりに聞いたが、よく毎日聞いてるゴギスタはイライラしないもんだ。
「あー、実は俺今魔王やっててな、魔物達の国の王様やってるんだわ」
プルットは口をあんぐり開けたまま固まってしまい、ゴギスタは逆に目を輝かせて「すげー! さすがセスティ様!」ともてはやしてくれる。
「魔物と人間が共存する為の国だからな。その気があればゴギスタも来たっていいし歓迎するが……その必要はなさそうだな」
「はい。俺はプルットさんの所でこれからも頑張っていくつもりです! 人間とドワーフが大丈夫だったんですから魔物だって平気ですよ! 頑張って下さいね」
プルットが言うにはゴギスタの件があるからリャナの人々は概ね受け入れる事に抵抗はないだろう、との事。
ちなみに、そんな話をしている間中めりにゃんは謎の粉がかかったサラダを夢中になって食べていた。
「この粉は?」
食べると甘味もほのかに感じるし塩味もあるが、なんとも言えない旨味に溢れている。
「ええ、美味しいでしょ~う? それは旨の元と言って、海藻やキノコなどから抽出した旨味の成分を凝縮して粉にしたものでぇ~す。まだこのリャナにしか出回っていないと思いますよぉ~?」
「……王都にも流れてないのか?」
「はぁ~い。個人で瓶入りのを何本か持ち込む、という事例はあるでしょうが安定的に供給できているのはここくらいですねぇ~。何せ私の商会で作ったものですのでぇ~。まだ試作段階ではありますが、そろそろ大量生産体制に移る予定なんですよぉ~」
……こりゃ確かに美味いな。
しかもこの形状ならば今めりにゃんが食べているようにサラダなどにふりかけてもいいし、調味料として他の料理に入れてもいいだろう。
「プルット、これは魔王、国王としてあんたと交渉したいんだが……」
「これの事ですかな?」
ギロリとプルットの目が鋭くなる。
こいつはこういう話になると人が変わるからな……。
「そう、この旨の元とやらの大量生産体制が整ってからで構わない。魔物フレンズ王国と流通契約をしてほしいんだ。専売とは言わないが、ある程度の安定供給をお願いしたい」
「ほっほっほ……さすがセスティ殿……勿論こちらとしては商品を売るという事ならば大歓迎ですが、これはまだ新商品ですからね……そう安く売捌く訳にはいきません。いくら相手がプリン・セスティ殿でも、相手が魔物の王国だろうと」
「こちらからの要求はそう多くない。瓶入りと言っていたな? 定期的なまとめ購入による割引……それくらいは出来るだろう?」
プルットはいつもの間延びした話し方をぴたりと辞めて、俺を品定めするかのように見つめてほくそ笑む。
「割引……していかほど?」
それもこちらに提案させるつもりか。
「そうだな。一瓶あたりの価格を一般流通価格の六割まで抑えてもらおうか」
「六割? こちらに四割引きで用意しろと?」
「その通りだ。出来ない事は無い筈だぜ? 例えば継続でのまとめ購入という安定感、そして輸送代は一切かからない事を約束しよう」
「輸送代がかからない……? それがどういう方法を考えているかはともかく、確かに一般流通価格は出来る限り地域などにかかわらず一律にしたい所なのである程度の輸送代込みの値段にするつもりですが……輸送代を取れないとなるとこちらが損するだけではないですか」
こいつは少し勘違いしているな。俺の言い方が悪かったかもしれない。
「違う。お前は流通先からきっちりと輸送代を取ればいい。しかし、あんたが流通代を払う必要が一切無いという事だ」
「な、なんと……それはまさか……」
プルットも俺が言いたい事を気付いたようだ。
「ああ、うちの連中は優秀なのが揃っていてね。物品を必要な場所へ送る事など造作も無い……つまり、商品の輸送に関しては魔物フレンズ王国が責任をもって代行しよう」
「これはこれは……一応聞いておきますが、例えばここから商品を五ダースほどライデンまで送るとして、それにかかる時間は……」
「五秒とかからんぞ。ちなみにそれが十ダースだろうが百ダースだろうがかかる時間は一緒だ」
プルットは「ふはははは!!」と突然大声で笑いだし顔をそのぶよっとした大きな手で塞いだ。
「どうだ? 悪い話じゃないだろう? あんたは他所からきっちり輸送代を取る。こちらはタダで一瞬にして輸送してやる。なんなら急ぎの商品発送がある時に肩代わりしてやってもいい。悪い話では……」
「馬鹿も休み休み言って下さい」
プルットが怖い顔でこちらに向き直る。
……何か問題があったようには思えない。輸送業者への義理とかだろうか?
「それだけの事をやってもらえるのに四割引きとは考えが甘すぎますぞ。四割引き、ではなく相場の四割の値段で契約致しましょう」
おいおい、そりゃやり過ぎだろうよ。





