隠者は悪いと思うだけ。
「いやぁ……面目ない」
「まさかお前があんなに狂った女だとは思いもしなかったよ」
「そっ、そんな言い方しないでぇぇ……私だって気にしてるんだから……」
結局にゃんこは敵の残骸が全て拳ほどの大きさになるまで切り刻み続けた。
それはもう狂喜乱舞しながら。
「私、これ使っちゃうとこう……テンションがアゲアゲになっちゃって止まんなくなっちゃうんだよね」
「ふぅん。まぁいいさにゃんこの強さはよく分かったよ」
「私はにゃんこじゃなくてラニャンコフだってば!!」
「はいはい。それはどうでもいいよ……で、ここが目的地じゃないならさっさと次行くぞ?」
「私の扱いが酷すぎると思いませんか!?」
「思わない。ほれ、行くぞ」
しょんぼりと肩を落とし、にゃんこは再びゴルダイの丘を目指し歩き出す。
が、しばらく歩いて、目的地までもうすぐ、という所で休憩すると言い出した。
「こんな草原で休憩か?」
草原と言っても、かなり長い草が生い茂っている草原なので草むらから何が出てくるか分からないような場所である。
「いーじゃん私疲れちゃったんだよ」
にゃんこはどすんと地面に腰を下ろし、「あーつかれたー」と手足を伸ばした。
「襲われても知らないからな?」
「えっ……?」
にゃんこは俺を凝視しながらズザザザっと地面を這うように俺から距離を取った。
『言うまでも無いと思うが……』
あぁ……またかよめんどくせぇ。
「言っておくが、敵に襲われても知らないぞ、と言ってるんだからな?」
「し、知ってたしー! ……私にそんな魅力無い事くらい知ってたし……」
『おい、凹んでしまったじゃないか』
めんどくせぇぇぇぇぇ!
「言っておくがな、お前は充分魅力的だと思うぞ。強い女は好きだ」
「すっ!? そ、そうか……ふはは! そういう事なら仕方ないなぁ~私に惚れると火傷するぜっ♪」
……殴りたくなってきた。
『まぁまぁ、ここはやる気になっていてもらった方がいいだろう』
そんな事言って……お前ただ楽しんでるだけだろ。
『おや? それは人の事言えないのではないかね』
まぁな。こいつは面白い。それに関しては認めざるを得ない。
こんなくだらないやり取りは多少面倒さを感じるが、面白いと言えば面白い。
あの三人と一緒に居た頃を思い出すようだ。
懐かしいがまたあの三人と旅をしたいとは思わない。
ただのお荷物でしかないし、ヒールニント以外の二人にまでついて回られたら鬱陶しくてたまらん。
別に嫌いなわけでも感謝して無い訳でもないのだが、一度彼女を救う為に自分から殺害してしまった経緯があるからか、あまり会いたいと思えないし、特別な思いは感じられなくなってしまった。
「どうした? そんなマジな顔で何を考えてるのさ。本当に私に見とれちゃった?」
こいつはどうだろう? 面白いから今は付き合ってやってるが、ずっと一緒に旅をするとなれば話は別だ。
やかましい。これがすべてだと思う。
多分今の俺はこの女本人よりもその所持している剣の方に興味が向いてしまった。
こいつはただその剣を持っている女、というだけだろう。
「……なんだよ。もしかしてこの剣が気になるのか?」
「ああ、正直お前の事より気になってる」
「それが本当だとしても本人目の前に言うか普通……泣くぞ?」
泣くな鬱陶しい。
「そんな代物どこで手に入れた?」
「それ聞いちゃう? きっと説明しても信じてもらえないと思うよ」
「それは聞いたこっちが判断する事だろ?」
にゃんこは仕方ないなぁというふうに大げさにため息をついて、手に入れた時の事を話し始めた。
「と言ってもね、これは私の親父の形見なんだよ。ここに嵌ってる玉っころが爺さんの形見。それを使って親父が作ったのがこの剣」
「へぇ。それは分かったけどそれのどこに信じられないような内容があったんだ?」
「普通はこんなの作れないって言われて終わりだよ。私もこの剣もこの国生まれじゃないからさ……って言っても私は半分こっちだけど。……それもあまり信じてもらえないし言わないようにしてる」
半分? ……という事はだ。
「そうするとニポポンンかロンシャンとのハーフか? 親父さんの技術力の事を考えるとロンシャンだろう。違うか?」
「えっ、ロンシャンの事知ってるのか? ユーフォリアの奴でロンシャンの事知ってる人間初めて見たよ」
そりゃ知ってるさ。その国を滅ぼしたのは俺とメアだからな。
「でもちょっとだけ違うんだ。親父もおふくろもロンシャンの人間だけど、私は母親の連れ子で、母親が昔ユーフォリアの人間との間に作った子供なんだってさ。おふくろは私が小さい頃に病気でコロリだよ」
再婚相手に連れ子がいるなんてのはよくある話だが、ロンシャンの人間にユーフォリアの旦那がいたっていうのはなかなか珍しいかもしれない。
ロンシャンなんて世間的には存在すら知らされてないような国だしな。
「やっぱりあんたは情報通なんだな。爺さんはさ、ロンシャンで王族の教育係してたらしい。何があったか知らないけど皇女様からこの球体貰ったんだってさ。宝の持ち腐れもいいところだけど、私の親父が技術顧問だったんで活用法考えて、試作品を幾つも作って……やっと完成したのがこれってわけ」
なるほど。ロンシャンで技術顧問をやるほどの人間ならこれを作るのも可能か……?
「だけど爺さんも親父も……とある事件で死んじまった。私一人残して……」
そう言ってにゃんこは、いや……ラニャンコフは涙を流した。
悪い、とは思う。
だが……それだけだった。





