隠者は無駄を楽しみたい。
「お、思わせぶりな態度ばっかり取りやがって!!」
「なんで俺が怒られなきゃならないんだ。宿を提供してやったんだから喜べよ」
「私はそれと引き換えになんだかいろいろ大事な物を失ったんだよ!!」
訳の分からない事を……。
「乙女の純情を弄びがって……お前、万が一の時には責任とらせるからなっ!」
「まぁ責任くらいとってやるから安心しろ」
「ふぇっ!?」
俺達は宿でなんやかんやあったが、無事にゴルダイの丘とやらへ向けて出発した。
まだ少しかかるようだが、道中しきりににゃんこが絡んできて少々鬱陶しい。
「……ち、ちなみに聞くけどその責任って……?」
「ん? 安心しろ死んだらちゃんと責任とって弔ってやるから」
「そういう所だよぉ……」
??
『そういう所だね』
まったく。俺にはこいつらの言っている事がよくわからん。
「とにかく、あとどのくらいだ? もしかしてあそこに見えてるのがそうか?」
「う、ううん。その向こうにあるんだ。ここから目の前の丘を一つ越えて、草原を抜けた先だ」
意外と距離がある。別にこいつを連れて一瞬で飛んでもいいんだけれど、どうせだからこういう無駄な時間も楽しもう。
「しかし最近全然魔物が現れない気がするんだけど何かあったのかな?」
町を出てからそれなりに歩いているけれど一切魔物には遭遇していない。
「あぁ、魔物はもう人間を襲わないよ」
「えっ!? なんで??」
ああ、まだ一般には公開されてない情報なのか。別に教えてしまっても構わないだろう。
「魔王が人間と同盟を結んだんだよ」
「……は? 何それ。でもたまには魔物だっているよ?」
「そういうのは魔王の命令を聞かないようなハグレってやつだな。基本的にそういう奴は人間が討伐しても文句言わない事になってる」
にゃんこは口をあんぐりと開けてその場に立ち止まってしまった。
「なんだよ。そんなに驚く事か?」
「いや、むしろなんでそれを平然と語れるのかが分からないよ。いつから人間と魔物の間にそんな癒着が……」
癒着って……。まぁ、間違ってはいないんだろうけどな。
「今の魔王は元人間だから。人間に危害を加える気がないんだよ」
「えっ、ちょ……は? た、頼むもう一度言ってくれる?」
「だから今の魔王は姫……あー、プリン・セスティって言ってだな」
「セスティ様だって!?」
おぉ、こんな奴にまで姫の事は知れ渡っているのか。
俺も少し鼻が高い。
「セスティ様って言ったら確かエルフの森で魔王軍と戦って戦死したって……」
「ああ、その後なんやかんやあって今は魔王の身体に入ってるんだよ。それでそのまま魔王やってる。魔物達の王国を作って、自給自足体制を整えて……それで人間と同盟を結んだってわけだな」
「す、すっげぇぇぇぇぇっ!! セスティ様すっげぇぇぇぇぇぇっ!! 魔王の身体がどうこういうのはよく分からないけど、とにかく魔王倒してセスティ様が魔物達を管理してるって事でしょう? しかも王国? 王様じゃん!!」
あー。確かによく考えたら姫はめちゃくちゃ凄いな。
アルプトラウムと一つになるまでそんな事全く知らなかったけれど、改めてそれまでの経緯を考えるとさすが姫だ。
「うわーすげぇ……それ本当の事なんだよな? もしかして情報屋か何かなの? そんな事よく知ってるな!」
「あー、うん。そんなようなもんだよ」
俺の事に関してはあまり言わない方がいいだろう。
純粋に自分の秘密をあまり教えたくないというのもあるし、俺が新しい勇者と言われているような男だったと知ったら俺に対する対応や反応が変わってしまうかもしれない。
それでは面白くない。
「ああそうだ、ちなみに今各地で人間が襲われてるのは大抵魔族ってやつらの仕業だから魔物とは違う」
「なんだそれ? 魔物と魔族って何がどう違うんだ?」
にゃんこはいまいちピンと来ていないらしいが、簡単に言えば姫の部下か俺の部下かって差がある。
でもそれをいう訳にはいかないし、俺はわざわざ魔族に命令なんか飛ばしてはいない。
それは彼女の役目だからな。
「元々は同じ魔物なんだけど、大昔に魔物が突然変異した奴等が独自の進化をしたものってところかな。今までは違う世界に幽閉されていたのが最近になって現れたらしい」
「えー。じゃあ今まで倒してきた奴の中にもその魔族ってやつら居たのかな……」
「魔物は実力者になればなるほど勿論知能が高くなって言語を操る者が増えてくるが、魔族はほぼすべてが人語を使う。明確なのはそれくらいだな。あとは外見がグロいのが多い」
元が同じだから明確に違いを人に説明するのって難しいな。
「魔物は動物から進化した物だから見た目もそういうのが多い。魔族はどちらかというとそれらがさらに拗れた奴等だからか見た目に一貫性が無いんだよ」
「へぇ……そういうもんなのか。よく分からないけどアレはどっちなんだ?」
にゃんこが遠くを指刺した。
その先には、つるっとした生き物。
例えるなら……人型をした銀色のスライム?
「あー。アレはどっちだろう……」





