魔王様とお姫様。
さーて。こっちもあらかた片付いてきたかな?
特に、私が魔力を込めて拡散したナーリアちゃんの弓攻撃がとても効果的で、無差別にそれを二十回も繰り返せば見渡す限りの魔物達はほとんど動きを止めていた。
「ナーリアちゃんお疲れー♪」
「お、お疲れ様です……こちらは、大体片が付いたでしょうか?」
「多分ね。残ってた分は私が直接ぶん殴ってきたし、あとはあそこで木になってるギルガディアさんだっけ? あれだけじゃない?」
「……あの、メア?」
ナーリアちゃんが不思議そうに私に言った。
「その魔族、いったいどこへ……?」
姿が見えない。
確かにあのあたりにいた筈なのに……。
自分で動けるような状態じゃなかった筈……。
だとしたら、誰かほかの魔族が助けた?
まぁ仮に移動できたとしてもあの身体じゃ何もできないしね……そんなに心配する事は無いと思うけれど……。
「アレは放っておいても大丈夫だとは思うけど……一応中央の方や城の方にも敵が向かっていたと思うからそっちの方見に行ってみようか?」
「そうですね。他の所で助けが必要な場合は私達が力になれるかもしれませんし。……というかメアが居ればこの国は大丈夫そうですけれどね」
またそんな言い方して……。
「ナーリアちゃんはもう少し自分の力に自信を持った方がいいよ。自分の中から湧き出す魔力には限界があるけれど、クリスタルツリーから魔力を引き出すって場合は自分の精神力、想いの強さって結構重要なファクターになるんだよ?」
「そう、ですね……善処はしてみます」
その時、上空に何かが飛んで行くのが見えた気がした。
一瞬の事だったのでそれが何だったのかは分からないけれど……ちょっと嫌な予感がする。
「ごめん、ナーリアちゃん。城の方へ行っていいかな? 何か嫌な予感がするんだ」
「勿論です。城には力の無い者達もいますし、まずそこの安全を確かめるのは必要な事ですよ」
よっし、じゃあ城の様子を見に行ってみようか。
私はナーリアちゃんの手を握り、城の前まで転移した。
そこは思っていた以上に魔物が襲ってきていて、そしてそのほとんどが既に殲滅されていた。
城の城門前に誰かが座り込んでいる。
「ちょっと、おじさん!? 大丈夫!? これもしかしてぜんぶおじさんがやったの!?」
「……俺も、居る」
そう言って私達の背後からやって来たのは、ジービルさんだ。
ジービルさんは確か用事があるって言ってどこか行ってた筈だけど……いつ帰ってきたんだろう?
「おじさん、もう……限界。身体痛い……」
「俺も身体が痛い。あの女の魔法は強力だが……反動が強すぎる」
あの女? ここをお願いしてた人と言えばロザリアだけど……。
「ロザリアはどこ行ったの?」
「やはりあれはローザリアの姫だった、のか。今はここから離れた場所で……魔族の群れを相手にしている」
ジービルさんがそう言うが、そうすると彼女が魔族を纏めて引き受けてくれてるの?
「ちょっと様子見てくるから皆は城の中に避難しててよ」
「それがなぁ……そのお嬢ちゃんが結界張っていったもんだから中に入れねぇんだわ。おじさん困っちゃったよ」
あぁ、念のために城に結界張ってくれてたのか……ロザリアさんやるじゃん。
私は結界の中へつながるゲートを造り、そこからおじさんとジービルさん、それとナーリアちゃんも城の中へ入ってもらった。
「じゃあ私はロザリアさんの様子みてくるね」
「メア、お気をつけて」
「ナーリアちゃんは城の人達の事よろしくね。何かあってからじゃ困るからさ」
ナーリアちゃんが頷くのを確認してから、ジービルさんに聞いた方へと行ってみる。
確かここから東方面にちょっと行った場所……まだ未開拓の所だったかな。
試しに転移してみると、遠くに戦いの痕跡が見えた。
そちらへ向かい、近くへ着地すると、今まさにロザリアが魔族へ止めを刺すところだった。
「すごいね。これ全部魔族?」
地面には色んな死にざまの魔族達がごろごろと……。
でも意外と死に顔が安らかなのがすっごく気になる。
「……あら、そっちの戦いはもう終わったのかしら? ちょっと待っててちょうだいね、今こいつの骨を身体から一本ずつ抜き出してるところだから」
えっぐ。
「な、なんでそんな事してるの?」
「楽しみたいから、に決まってるでしょう?」
そ、そっかー。
私も八つ当たりの為にギルガディアさんを木にして後でボコろうと思ってたから人の事言えないけど……この人の場合ちょっと何かが違う気がするなぁ。
「できるだけ苦しめないであげてね?」
「……うーん。そうね、どっちみちもうこの子は気を失っちゃったからもういいわ」
スパンっとロザリアが魔族の首を落として踏み潰した。
なんていうか、それしなくてもよくない?
首切った後にわざわざそれ踏み潰さなくてもいいよね?
この人、見かけによらずかなりおっかないなぁ……。
とはいえ見た目は私とほとんど一緒なんだけどさ……。
違う所といえば髪の毛の色と胸の大きさくらいかな?
「ああ、そうそう。貴女急いで城に戻った方がいいわよ」
ロザリアがまだげしげしと魔族の頭を踏みつけながらそんな事を言う。
「今頃城に……魔族王って人が向かってるらしいから」





