お姫様はうずうずする。
「どういう事……? あいつら国を覆うだけで襲ってこないのと何か関係あるの?」
あいつらは分かっているんだろう。高火力魔法で纏めて吹き飛ばされるような事など【無い】と。
「ああ、今この国全域がとんでもない強度の結界で包まれている。あの時アルプトラウムが私達を閉じ込めたのと同程度かそれ以上の物だ」
「……ほ、本当じゃ! 確かに……魔力の流れがおかしい。儂でも気付かん程にカモフラージュされておる……誰がこんな真似を!?」
「こんな強度の結界張れるのなんてアルプトラウム以外居る訳ねぇだろ……。あの糞神様は本気でここを潰すつもりらしいな」
……果たして本当にそうだろうか?
私には若干疑問が残る。
ここを本気で潰しにくる理由は?
あの男がそこまで何かに固執し、本気を出してくる事なんてあるだろうか?
それに、この場、この時が彼にとって最終決戦の場というのもしっくりこない。
今までのんびり楽しんできたくせに一気に終わらせようと動くなんて不自然だ。
何かある。
「あの、結界に閉じ込められているという事は……もしかして」
ヒルダさんとアシュリーが頭を悩ませている時にナーリアが余計な口を挟んだので、代わりに私が答えてやる事にする。
「今ここは強力な結界に包まれてる。中で高火力の魔法が広範囲にまき散らされたらどうなる? 私達全員蒸し焼きよ。私や、魔王、そしてヒルダさん、アシュリーくらいなら生き延びれるでしょうけれど、その他大勢の魔物達はどうかしらね」
「姫……いえ、ロザリア姫でしたね。……なるほど、確かにそれはまずい状況です。各個撃破しかないのでしょうか?」
この子はまだ私がセスティじゃなかったショックを引きずっているが、今がそれどころじゃない事をちゃんと理解しているのだろう。
「悲しい思いをさせてしまってごめんなさい」
私はつい、キャンディママがしてくれたみたいにぎゅっと抱きしめ、頭を撫でていた。
と言っても私よりよほど身長が高いから背伸びしてやっとって感じだったけれど。
「な、なっななな何を……」
「……ほら、こうすると気持ちが落ち着くでしょう? この件が片付いたら全部説明するし、悪いようにはならないから。ね?」
「はっ。はひ……はぁ、はぁ……」
姿形が、彼女の尊敬しているであろうセスティと同じだという事もあってか逆に落ち着かなくなってしまった感がある。なんていうかごめん。
私は、遠くから私達の様子を睨んでいる少女の視線に気付き、ナーリアから離れた。
あの少女は誰だろう? 分からないけれど、物凄い殺意を向けられた気がするのでこれ以上は辞めておこう。
「す、ステラ!? その、これは違うんです! だから、その……」
ステラと呼ばれた少女は速足でナーリアの所までスタスタとやってきて、ぎゅーっと抱き着き、問答無用でナーリアにキスをした。
「~~ッ!!」
「ぷはぁっ! いいですかナーリア様! 絶対にこの王国を守って下さい。そして、絶対絶対ぜぇーったいに死なないで下さいね!」
「えっ、あっ、はい……」
なんだか物凄い物を見せられてしまったぞ。
ちょっとだけドキドキする。
ステラはナーリアが真っ赤になるのを見て満足そうに微笑むと、今度は私の方へスタスタやって来て耳元で口早にこう囁いた。
「あんまちょーしのってんじゃねーぞ。ナーリア様に手出したら可能な限り精神的トラウマになるような嫌がらせしてやるからな」
こっわ!!
この子ただの人間だよね? 魔物の王国に居るけど魔力も感じないし、本気でただの一般人だよね……?
正直私はここに居る連中の中で一番恐怖を感じるわ……。
「じゃあ、私は城の方に避難してますね♪ 早く帰ってきて下さい☆」
くるっとナーリアに振り返って黄色い声を浴びせながら彼女は去って行った。
魔物が数名彼女を護衛している。
あの子は一体なんなんだ……?
「ロザリア殿……!」
ふいに誰かに呼ばれて振り向くと誰も居ない。
「ここである! 足元である!」
その声がする方向、つまり足元を見ると、なにやらかわいいライオンのぬいぐるみがぴょんぴょん飛び跳ねながら自己主張していた。
私はそれをひょいっと持ち上げ目線を合わせ、「何かしら? 可愛いライオンさん」と声をかける。
「かっ、ぶ、無礼である! 我は魔王軍幹部……いや、元幹部のイオン・ライゴスである!!」
……えっ?
あぁ……そうか。確かにそうだ。
私の中に残されているセスティの記憶にそんな人物が居たような気がする。
「それで、そのライゴスさんが何の用かしら?」
「折り入って頼みがあるのである……」
ぬいぐるみは私に持ち上げられた状態で手足をバタバタさせながら必死に説明、お願いを繰り返した。
「という訳なのである! なんとかならないであろうか?」
うーん。可愛い。
この可愛さが損なわれるのは勿体ないから……こういう事にしておこう。
「私の力で丸一日くらいは本来の姿を取り戻させてあげるわ」
「な、なんと! それで十分である! 感謝するのである!!」
ほんとは完全に解除できるんだけどね。
「というかヒルダさんがかけた魔法なら彼女に解いてもらえばいいんじゃないの?」
「……ヒルダ様は……何かするのは得意であるが元に戻すのは……その、苦手なのである」
不器用な所が愛らしい。
私の中に残るヒルダ……めりにゃんを可愛がりたいという欲求がうずうず持ち上がってきそうになるのを必死に押さえた。
私、そういうキャラじゃないんだからっ。





