――――は――――を――――。
神はにっこりと笑いながら頭のおかしな事を語り出す。
奴は自分が楽しむ為にあらゆる物を利用し、観測してきた。しかし、自分がその外に居る事が常々不満だった。
だが、輪に介入してしまうと自分の行動で道筋が決まってしまって楽しめない。
あくまでも観測し、予期せぬ出来事を期待したかった。
そこで、自分を駒として使う方法を思いつく。
『私が私で無い何かになれば、自然と演目の中に紛れる事ができるだろう?』
「分からねぇな。お前が何を言ってるのか俺には全然分かんねぇよ」
『ふむ……少し難しい話だったかな? 私はね、いろいろ面白くなるように配置をしたり裏で糸を引いたりしている訳だが』
裏で糸を引いてると自分で言いやがったなこいつ……。
『勿論現状とても楽しめているんだがね、やはり楽しい事には混ざりたいじゃないか』
ガキがてめぇは……。
いや、事実そうなのかもしれない。ただ楽しい事に対して貪欲な生き物。
楽しむ事だけを目的に存在している……それは有る意味で無邪気の塊なんじゃないか?
善悪とかは一切関係なく、損得も一切関係なく、ただ楽しい事をしたい。楽しい物をみたい。楽しみたい。それしか考えてないんじゃないか?
『……君は今私の事を馬鹿にしているね?』
……心でも読めるのかこいつは。
『まぁいいさ。とにかく私は混ざりたくて仕方がないんだよ。ずっとローゼリアの地下に閉じこもっていたからね。自由になった今を満喫したいのさ』
「それで? どうやって自分が駒になるって?」
『私は君に、君は私になるんだよ』
「俺と入れ替わるとでも?」
『違うね。どちらかというと一つになるのさ』
……俺と一つに?
考えただけでも気色悪い……。
『君を私に取り込むのではなく、私を君の中に取り込ませる事で君を主体として私を駒として利用する事が出来る』
「融合……って事か? 気持ちわりぃな……しかし、必要があればそれを受け入れる気はある。だがそんな事が簡単に出来るものなのか?」
『簡単ではない。普通は無理だよ……言っただろう? 君は特別だとね。恐らくこの世で私が同化を実行できる存在は君を含め四人程度だろうね』
どこからその四人って数字が出て来たんだよ。
俺以外に誰なら出来るって言うんだ。
むしろその四人の中にどうして俺が混ざっているのかが疑問でしかない。
『君が特別な理由についてはいちいち語るまい。どうせ私と融合すれば分かる事さ』
この、相手が自分にとっての重要な秘密を知っているみたいなのがとても気持ち悪い。
しかし俺もどうかしている。こんなやりとりを、ヒールニントの死体を抱きしめながらしているのだから。
「で? お前が何のために何がしたいのかは分かった。それで実際融合するとどうなる? なぜヒールニントを助ける事が出来る?」
『わからないかね? 君は……神……いや、その言い方は嫌いだったんだったかな? 悪魔の力を手に入れる事になるわけだ。君はある意味特別な存在ではあるけれど、私達とは大きくかけ離れている。便宜上神と言わせてもらうがね、君が神になれば君自体が摂理から外れる事になる。ここまでは分かるかな?』
わかんねぇよ。
ただ、俺がこいつと同じように運命なんて糞なものから外れる事になるっていうのだけは理解した。
『神の力に君の力。二つ合わさって尚、たかだか修正力などに抗えない道理は無い』
……何をどうするのかは分からないが俺が俺の力でヒールニントに降りかかる死という【結果】を覆す事が出来る……?
「それは本当なんだろうな?」
『勿論だとも。それに融合すれば私の持っている記憶、知識、力、全てが君に流れ込む事になる。そうすれば真実かどうかくらいすぐに判断する事が出来るだろう?』
「判断は出来るが、嘘だった。じゃ意味ねぇだろうが」
『もし私が嘘をついていると思ったならばその時に君が神の力を用いて私だけを放り出せばいいんだよ』
……それも嘘、という可能性はあるが……。
少なくともこのまま幾度となくヒールニントの死に際を眺め続けるよりよほど効果があるだろう。
やるしかないか。
「いいだろう。俺はお前を受け入れる。さっさとやれ」
『ふふふ……今から楽しみだよ。是非とも私を楽しませてくれ。君の中からじっくりと眺めさせてもらうよ』
神はそう言ってふわりと、地面から少し浮いたまま俺の方へスーッと進んできたかと思うと、ゆっくりと手をこちらに差し出し、俺の胸元にとん、と触れる。
そのまま奴の手が俺の身体の中にズブズブと入り込んでくる。
とてつもなく気持ち悪い。
こんな胸糞悪い奴が俺と同じになるという感覚が、それだけで嫌悪感を加速させる。
だけど……。
俺は静かな寝顔で息を引き取ったヒールニントの頭を撫でる。
彼女を守れるのであれば。
俺は悪魔で構わない。
彼女が幸せになる時、俺が隣に居る必要はないのだから。
やがて完全に奴が俺の身体に吸い込まれ、俺が人間をやめた。
……そうか。そういう事だったのか……。
奴の知識の全てが一気に頭に流れ込んでくる。
パンクしそうなほどの情報量に頭痛がしたが、奴の身体も取り込んでいる事でなんとか受け入れる事に成功したようだ。
色々疑問だった事がはっきりした。
姫の身体の秘密、魔王とローゼリアの関係。神が仕組んだシナリオ、あの戦いの果てに何が起きたのか。現在どうなっているのか。
そして
俺の事までも。
俺は今……人間であり、神であり、悪魔である。
俺の名は……
ハーミット・ローディナル・リリアン・デュクシ・カルゼ・アルフェリア・メディファス・レプリカ。
今なら彼女を守る方法が手に取るように分かる。
これが最後のやり直しだ。
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「……迷惑ですか?」
俺は彼女に優しく微笑んでその綺麗なブロンドを撫でる。
「……ハーミット、様?」
もう、誰にも傷つけさせたりしない。
その隣に俺は居られないけれど許してほしい。
だって……。
だって、これから
きっと楽しい事が沢山待っているだろうからね。
300話めという節目に偶然にもこの話を持ってこれた事をとても嬉しく思います。
ここまで続けてこれたのも応援して下さる皆様のおかげです。
まだまだ物語は続いていきますので、彼の行く末も含め、引き続きお付き合い頂けると幸いです。





