絶望戦士は本意ではない。
案の定キュリオの槍はまったくダメージを与える事ができていない。
一度さっと身を引き、今度はこちらへ誘導するかと思いきや、落ちている大きな鉄製の盾を手に取り奴に飛び掛かった。
俺はやっとそこでキュリオのやろうとしている事を理解して、急いで目の前の木を登る。
「コーべニア! 氷の魔法の準備だ! 威力型の方を頼む。合図したら湖面を凍らせろ!」
「了解です!」
「ヒールニントはコーべニアの魔力をブースト!」
「分かりました!」
「俺はどうしたら!?」
「ロンザは待機だ! キュリオが吹っ飛んでくるけど無視しろ! 俺が行動を起こしたら攻撃開始! いいな?」
「わ、分かりました!!」
口早に指示を飛ばしながら俺自身もかなりの高さまでよじ登った。
キュリオは思い切り奴の頭部目掛けジャンプしてて自分の身体を盾に隠すように体当たりした。
戦いを見た限りあの魔族は陸地では機敏には動けない。
必ずあの体当たりを受け止め、力任せに弾き飛ばすだろう。
おそらくキュリオの思惑通り、魔族は盾ごと彼を吹き飛ばした。
「ガッハハハハ!! 弱い弱い弱いぞぉぉぉ!」
キュリオは俺達のすぐ目の前くらいまで吹き飛んできた。
ロンザも我慢してそれを歯ぎしりしながら見つめている。
キュリオは動かない。
骨の二~三本は折れているかもしれないが、見たところ致命傷という訳でもないので敢えて気を失ったふりをしているのだろう。
「どうしたあ? かかって来る元気ももう無くなっちまったのか? 脆い脆い……!」
ズン……ズン……。
と奴が飛び跳ねながらキュリオに迫る。
まだ……まだだ。
「楽には殺さねぇぞ。まずはその両足を砕いて動けなくしてから指を一本ずつ……」
今だっ!
奴がキュリオに最接近したタイミングを見計らって木から飛び降り、奴の脳天に剣を突き刺す。
重力のままに奴の頭の先から背中へと剣を滑らし地面への接地面まで一直線に切り裂く。
ざらざらとした灰色の表皮は思った以上に硬かったが、上空から体重をかけた攻撃でゆっくりと皮膚が裂けて行った。
だが、血が出ていない。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ! いてぇっ、いてぇ……っ!!」
「おいおいマジか、俺が切ったのは全部脂肪かよ……」
「なんだてめぇ! どっから現れた!?」
タフいな……。
切ったついでに焼いておくべきだった。
血を噴き出させて体力を奪う為に傷口を焼かずにいたのが裏目に出てしまった。
しかし傷に対する痛みはきちんとあるようだ。
きちんと効果は合ったはず。
「こっちにも居るぜーっ!」
正面からロンザが飛び出し魔族に切りかかる。
「くそっ、てめぇら待ち伏せか!? こいつ人間に助けを求めたのか? 情けねぇ奴だぜ!!」
「そこのキュリオは誇り高い戦士だ。お前みたいな肉の塊が見下せるような相手じゃねぇよ」
「へっ、言いやがったな? 俺様の外皮を切り裂いたくらいで調子に乗りやがって。優しい俺様が馬鹿なてめぇに教えてやろう。これは寒さを耐える為の蓄えよ! 勿論飢えもしのげるがこれだけ食い物があったらその必要もねぇなぁ?」
相変わらず魔族って連中はお喋りだな。
話し相手が居なくて寂しい思いをしてきたぼっちみたいにベラベラ喋りやがる。
「オラこっち向けやぁっ!」
ロンザが剣の切っ先を、俺が切り裂いた部分に突き立て抉る。
「だからいてぇんだよぉっ!!」
ぶおん! と奴がその場で横に一回転し、そのヒレのような手でロンザを張り飛ばした。
かなりの勢いでロンザがごろんごろんと、バウンドしながら転がっていった。
悪いがそっちに構っている場合じゃない。奴の回転攻撃のターゲットはこちらに移っている。
俺は剣を盾にして奴の張り手を迎え撃つ。
ガギギィィィン!!
くっそ! こいつのヒレどんだけかてぇんだよ!
俺が刀身をそのヒレにぶち当てているっていうのに全く切れる様子もなく、ただ俺が押し飛ばされる。
自分から後ろに飛んで勢いを殺したが、それでも結構距離が離れてしまった。
パワー系なのは分かってたが思っていた以上だ。
どうする? 思っていたよりこいつの個の力が強い。
これなら最初からコーべニアを戦闘要員として導入しておくべきだったか?
いや、あいつは万が一のための保険だ。
これでいい。まだ使うべきじゃない。
……とすると……方法は。
仕方ない。この戦い方はあまりしたくなかったがそうも言ってられないな。





