絶望戦士は信じたい。
「でも少しくらい休ませてほしかったですね。あんな態度ないですよ」
ロンザがぶつぶつ言いたくなる気持ちは分からないでもないが、俺達に必要なのは協力ではなく確実な情報だ。
それだけあれば後の事はなんとかなる。
どうしても休みたかったら森の中だって休めるんだからな。
「愚痴ってもしょうがないですよ。それにボク達のやるべき事は魔族を倒す事ですからね? 居場所が分かればいいじゃないですか」
コーべニアはよく分かってるじゃないか。
少なくともロンザよりは俺の考えを理解している。
が、一番分からないのはこいつだ。
ヒールニント。
まるで俺の考えている事を見透かしているかのように、顔を覗き込んではニコニコしている。
多少イラっとする事もあるが、この笑顔に癒されている部分がある事も否定できない。
俺もどうかしてるな。
何かに依存するようになったら動きにくくなるだけだ。
俺は俺だけを信じて生きれば……いや、それはダメだ。
自分以上に信じられない物などない。
なにより信じられないのが自分だったらどうしたらいい?
「えへへ……私は信じてますからね♪」
……心でも読んだかのように彼女はそう言った。
本当に分からない女だ。
キュリオの案内で再び歩いていくと、今度は五分程度で大きな湖が見えてきた。
「……一度止まって下さい。湖のほら、あの部分に囲いがあるのが分かりますか? アレが養殖場になっています」
もう少し小さな物を想像していたが、養殖場と言うだけあってかなり広い範囲に囲いがあった。
文明的、とは言えない作りだったが、それでも思っていたよりもよほど立派だった。
「肝心の魔族はどこにいる……?」
「あいつは水の中からやってきます」
水の中だと……? それは厄介だな……。
どうやって戦うべきか……。
「ここまで来て頂いたのですから私のやる事は一つです。後は……貴方がたにお任せします!」
そう言ってキュリオ湖に飛び込んだ。
……馬鹿野郎め。
しかし、一度拾った命をこういう形で捨てる覚悟が出来る奴は本物だ。
大抵死ぬほどの怪我をした奴ならそれがフラッシュバックして思い切る事が出来なくなる、
それが出来てしまうのだから本物の戦士として認めるしかない。
「コーべニア、キュリオが魔族をおびき出せると仮定して、だ。どこに出てくるか方角が分かり次第教えろ」
「分かりました。魔族は既に動いております! 方角は……養殖場の向こう側です!」
「よし、そっちに先回りして身を潜めるぞ」
俺達は湖を右手側に回り、養殖場の囲いを通り過ぎた先で一端湖から距離を取り木々の影に身を潜めた。
やがて水面が大きく波打ち、キュリオが飛び出してくる。
無事……ってわけじゃなさそうだな。
どうやら水中でかなり激しい攻撃を受け吹き飛ばされてきたようだ。
一瞬遅れて水中から灰色のバカでかい身体が姿を現す。
頭部は丸く、ギョロリとした大きな目が二つ。そして口からは長く鋭い牙が二本伸びていた。
手は大きなヒレのようになっていて、足が無い。
身体の下半身はまるで太い魚とでもいうのだろうか?
人魚と言いたくはないが、そんな姿勢で陸地をぴょんぴょんと移動している。
完全に水の中専門といった感じだ。
おそらく湖に逃げ込まれたら最後、俺らに追いかける事は出来ないだろう。
なら出来る限り引き付けて、一気に倒す必要がある。
陸地に跳ね上げられたキュリオは再び立ち上がり、ちらりと俺達が元々居た場所に目をやる。
俺達がその場に居ない事をどう受け止めただろうか?
逃げたと思われると面倒だなと感じたが、そこまで馬鹿では無かったようだ。
すぐに俺達の意図を察知し、岸辺に落ちていた他のリザードの物であろう斧を手に取り投げつける。
勿論そんな攻撃が通る相手ではないが、頭部に命中し相手を激昂させる事には成功した。
いいぞ、そのままこちらにおびき出せ!
「貴様性懲りも無く一人で現れたのか? 自分一人で俺様を倒せるとでも思っているのか?」
「勝てるとは思っていない! しかし一矢報いなければ気が晴れぬっ!」
今度は落ちている槍を拾い、切っ先を魔族へ向けた。
それにしてもそこら中におびただしい数の武器が落ちている。
それ以上に岸辺は血まみれで、相当な数の戦士がやられてしまった事が伺えた。
そして、遺体がひとつも転がっていないところを見る限り、奴が食ってしまったのだろう。
「俺様はまだ腹が減ってないんだ。今逃げ出せば許してやらんでもないぞ」
「うるさい! 同じ敵に二度も背を見せるほど腑抜けてはおらんっ!!」
奴の攻撃範囲ギリギリの所から槍で突くが、その硬い皮膚に阻まれてしまう。
「くそっ!」
「ガハハハ! その程度か!? せめて少しは楽しませてくれよ。……そうだ、お前が勝てばリザードの村は見逃してやる。お前が負ければ今日中に滅ぼしてやるぞ」
「貴様ぁっ!!」
ダメだ、そんな挑発に乗るな!
「くそっ、加勢に行った方が……!」
「ロンザ、待て。奴を信じろ。キュリオは……ちゃんとすべき事を理解しているはずだ」
……だよな? 頼むぞ……?
その期待を知ってか知らずか、キュリオは槍を構えて魔族へと突進していった。
この馬鹿野郎がっ!!





