絶望戦士は本題に入りたい。
「私の名前はキュリオではなくリッキューリオ……いや、人間には呼びにくい名前なのかもしれませんね。キュリオで構いません……私としては勇者殿が討伐して下さるというのであれば願ってもないのですが……」
「細かい事は気にするな。人間との確執なんて知るか。俺等が死ねばお前らに害は無いだろうし、俺等が勝ては現状よりマシだろう?」
まぁ一番問題があるとしたら俺達が全滅して、キレた魔族が里を滅ぼす事だろうけれどな。
そんな事まで責任は持てないし、何よりその状況下で一切手を出さなかったとして、魚の養殖場から全ての魚が食い尽くされた時、次に狙われるのは里だ。
そのくらいこいつにも分かるだろう。
「……分かりました。そういう事でしたら皆には私が責任を持って説明致します」
「説明して聞いてくれりゃいいけどな。まぁダメならダメで勝手に殺して勝手に帰るから気にするな」
「……なんと頼もしい……! 貴殿が居れば勝てるような気がしてきました!」
「俺達に任せておけって! 魔族なんてハーミットさんがぶっ殺してくれるぜ!」
「ロンザも頑張れよ……勿論、ボクは役に立ちますよ?」
おとなしく話を聞いていたロンザとコーべニアも異論はないらしい。
ならば、いざリザードの里へ、だな。
勿論行った事が無い場所なので転移アイテムも意味がない。
俺達はキュリオの案内で半日ほど歩いた。
やはり魔物に遭遇する事はなく、安全な道中だったのだが……。
魔物達はどうしているのだろう? どこかに集まって戦力を集中させ、魔族への対抗策を練っているのかもしれない。
あるいは魔王が生きていて、なんらかの意図があって潜ませているか……。
俺が集めた情報ではまだこれだという確証を持てるほどの物は無かったので推測するしかないが、静かすぎて逆に不安ではある。
「……見えてきました。あの森を抜けた所に集落があります。大きな湖が近くにあってとても綺麗な場所なんです」
なるほど。その湖で魚の養殖をしているという事だろう。
というかリザード達が魚の養殖をして生活しているとは思ってもみなかった。
主食が魚なのだろうか?
森の中には微かに草の無くなっている道のような物があり、普段彼らが移動に使っている道なのだろう事が分かった。
あまり森から出るような事は無いのだろうが。
その道は本当に良く見ないと分からないような物で、かつ森の中をくねくねと曲がりくねっていた。
森に迷い込んだ人間が間違ってリザードの里に出ないようにしているのかもしれない。
そんな小道を行く事二十分弱。急に開けた場所に出た。
「……あそこが私の里です。まだ奴の手は伸びていないようですね」
遠目にもリザード達が普通に生活している様子が見て取れた。
その中の数人がこちらに気付き、何やら騒いでいる。
俺達が里の前に到着する頃にはかなりの人数のリザード達が集まっていた。
「リッキューリオ。これはどういう事だ? 説明してもらおうか!?」
リザード達の中から小柄だが目つきの鋭い、貫禄のある個体が前に出た。
「……私は単身奴に戦いを挑んだ。そして負けた。命を落としかねない怪我を負って、無様に逃げたのだ。笑うがいい……長の事を臆病者呼ばわりした事、本当に申し訳なかった」
「それはもういい。私の考えを理解したか? それはそうと……私が聞いているのはそこの人間たちだ。どうしてこの里に人間を連れ込んだ? 納得のいく説明はしてくれるのだろうな?」
面倒な展開だが、こいつらが理解してくれようとしてくれなかろうと俺には関係ない。
魔族の居る場所さえ分かればそれで。
「この者達は……私が深手を負い、惨めで里に戻る事も出来ず行き倒れ、死にかけていた所を救って下さったのだ」
「……そうか。お客人達よ、リッキューリオの命を救って下さった事には感謝を言おう。しかしながら私達は人間との交流を望まない。早々に立ち去られよ」
「長! この方達は勇者様と聖女様、そしてその仲間達なのです!」
「それがどうしたっ!」
長の言葉には明らかな拒絶が込められていた。
おそらくキュリオが言おうとしている事を既に理解しているだろう。
その上で俺達を拒絶したのだ。
「奴の事は我らの里の問題だ! 人間が関わるような事ではないわっ!」
「しかし長!」
これはきっと話がまとまる事はないだろう。
俺はこの二人の会話に介入する事にした。
「何を勘違いしてやがるんだ?」
「……なんだと?」
長が初めて俺と目を合わせる。その鋭い瞳が疑惑の色に光っているのが分かった。
「俺は個人的な事情で魔族を殺したいだけだ。あんたらの里がどうなろうと、あんた達の問題だとかそういうのは関係ないんだ。俺等は勝手に探して勝手に殺す。あんたらに認めてもらう必要なんてないんだ。だから安心しろよ」
「……貴様らが、その人数で我らの戦士が束になって敵わなかった相手を殺すというのか?」
「そう言ったつもりだが?」
リザードの長はしばし無言で俺を睨みながら、何かを考えているようだった。
「……勝手にするがいい。こちらにとってお前が殺されようと知った事ではないからな。出来れば相打ちになってくれる事を期待しているぞ」
「長! 貴方と言う人は……この里の為に命をかけようとしてくれている方に向かって……それが人間だろうと何の問題があるというのですか!」
「もういい。案内しろ」
これ以上の議論は無駄だ。
長やその他のリザードに睨まれながら俺達はその場を後にした。
何故か、ヒールニントだけ長の目の前まで小走りで行って、一言二言告げて戻ってきた。
「……お前何を言ってきた?」
「えへへ……秘密ですっ♪」
……女ってもんは分からねぇな。





