魔王様とヤバい奴ら。
「この子達を、どこで見つけたって? もう一度教えてちょうだい」
肩を震わせ、握った拳をプルプルさせながらクワッカーが私達に問う。
しかし、その声は先ほどのような低いものではなかった。
「まさか、お主ではないのであるか?」
ライゴスさんも憤りをぶつける場所が分からなくなってしまったようだ。
「当たり前じゃない。私はもうとっくにこの子達の研究を辞めているわよ」
「ならば、ならばどうしてこれが人間の少女に寄生していたのであるか!」
「それは分からないわ。でもこの子達は半年くらい前に私が外出中に盗まれたのよ。心配ではあったけれど……確かにそろそろ魔物化が発現し始めてもおかしくはないわね。だとしたら他の子達も早く回収しないと。盗まれた子はもっと多かったのよ!」
なんだこの展開。
クワッカーはもうアナトミー骸蟲の研究はしてないらしいし、半年前くらいに盗まれた?
時期的に怪しいのあいつくらいしかいないじゃんまたかよめんどくさいなぁ……。
「少なくともこの辺にバラまかれてたアナトミー骸蟲は二十匹ほど駆除させてもらったのじゃ」
「あら、ヒルダちゃんが見つけてくれたの? 全部? どうやって??」
クワッカーがぐいっとヒルダさんに顔を近づけて目を見開いたので、彼女はビクっと一歩後ろに退いた。
「こ、こやつの魔法でこいつと同じ魔法の波長を探して回ったのじゃ」
「あらその子エルフかしら? でもよかったわ。私としても自分が研究してたこの子らが他所で誰かに勝手に使われるのは嫌だったのよぉ~。全部死んじゃってるのは残念だけれど、数的にはこれで全部だと思うし一安心ね」
そう言ってまたくねくねと身体をくねらせるクワッカー。
どうしよう。
私こいつ結構嫌いじゃないかもしれない。
「ところでいつまで檻に入ってるのかしら? 研究所の中にどうぞ? お茶くらいだすわよん☆」
クワッカーがあっさりと檻を開けたのでアシュリーも拍子抜けしているみたいだ。
「最近の魔物ってやつぁみんなこんなんなのかよ……?」
「いや、それ私に聞かれても……」
「クワッカーは特別じゃよ。昔から変態じゃった」
「ちょっとヒルダちゃんひっどぉ~い! 私をこんなにしたのは貴方の御父上様な・の・にっ♪」
「うげげっ、ま、まままさかお主儂の父上と……」
「ひ・み・つ♪」
ヒルダさんの顔色がサーっと引いていくのが分かった。
そりゃそうだろう。自分の親とこのオカマが……いや、考えるのは止めよう。
ヒルダさんがかわいそうだ。
ライゴスさんを抱えて室内へ入っていくクワッカーの後を追いかけると、研究所内は意外と広く、中央に大きめのテーブルがあり上によく分からない書類みたいなのが山積みにしてあった。
書類の山を少しどけてクワッカーがお茶をテーブルに並べる。
部屋の周りにはなにやら実験器具みたいなのがズラっと並んでいて、あやしげな研究をしていた事がうかがえた。
「おい……まさか、これは……」
アシュリーが周りの実験器具を見回しながら呻いた。やっぱり何か良からぬ企みをしていたんだろうか?
「これは……魔素を利用したエネルギー変換に基づくバラティエール理論を利用した組織培養装置!? それにこっちにあるのは魔術理論書!? どこでこんなものを……! それにこっちは……そんな馬鹿な、ゴラリッチェ原石からバンゲラスのみを抽出してるだと!? いったい貴様何者だ!?」
ちょっとまってちょっとまって。大体意味がわからない何言ってんだこのハーフエルフ。
「嘘でしょっ!? 貴方これが分かるの!?」
「分かる! あぁ分かるとも! ここで行われている実験がどれだけ難易度が高く、それでいて崇高な物なのかきちんと理解しているとも!」
「やだ……嬉しいわ♪ 私今まで誰にも理解されずに生きてきたから……このゴラリッチェからバンゲラスだけを抽出するにはね、まずゴラリッチェの原石を塩分濃度五パーセントの水に浸けて……」
「そこまでは私だってやってる! その後取り出してから表面を削りもう一度、今度は塩分濃度七パーセントのエーテル溶液に浸けてから電気を流してゴラリッチェとグルーミナを分離させる所までは上手くいったんだが……」
「貴女凄いわ! そこまで行けばもう少しだったのよ! グルーミナが分離出来たら、その後……」
ダメだこいつらマジで意味がわからん。
「ちょっと待って! わけわからない話ばっかりしてないでよ! まだは何も解決してないんですけど!?」
「うるさいちょっと黙ってろ!」
「うるさいちょっと黙ってて!」
その声は見事なシンクロ率だった。
その後私達は、その理解不能議論を延々背後で聞かされながらぬるくなったお茶をちびちび飲み続けるのでしたとさ。
三時間程経った頃、タイミングを見計らってヒルダさんが一通りの事を説明した。
ついでに私の推測も確認してみたけどクワッカー以外は全員一致で「あいつしか居ない」と、私の考えを支持してくれた。
「……という訳なのじゃ」
「なるほどねぇ~♪ じゃあ私も王国に行ってもいいかしら? そっちに居た方がいろいろ楽しそうだし」
「私も賛成だ。こいつにはまだまだ聞きたい事が山ほどあるからな!」
アシュリーが今までに見た事ないほど目をキラキラさせて、まるでおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
「研究所はどうするの? ここ放置でいいの?」
「馬鹿言うな勿体ない! ここの設備は価値があるんだぞっ! すごいんだぞっ!?」
なんでアシュリーの方が必死になってるんだよ……。
ムキになってるアシュリーが思いのほか可愛くて腹立つ。
「分かった分かった。それならこの研究所ごと転移するからそれでいい?」
「施設ごとじゃと!? 何を馬鹿な事を……」
ヒルダさんの言葉が終わる前に、私は研究所を岩肌からくり抜き、丸ごと転移させた。
「よっし魔物フレンズ王国に帰還よっ☆」
「……ねぇアシュリーちゃん。今度はこの魔王様の事研究してみたいわ」
「……あぁ、それは私も同感だ」
お前ら仲良くなりすぎだろ。なんでアシュリーちゃんって呼ばれてんのに気にしないの? 私が言ったら怒ったよね?
「我は……どうしたら……」
ライゴスさんはクワッカーに気に入られてずっと抱きしめられていた。
二人が議論してる三時間の間もずっとね。
ご愁傷様。





