魔王様と変態。
「まぁいい。私らはここから高見の……じゃねぇな。獄内からの見物と洒落こもうぜ」
獄内って……。
まぁ牢屋みたいなもんだけどさ、投獄されたわけじゃないんだけど。
でも私も疲れたし賛成。
アシュリーの隣に座り込んで様子を伺った。
「では押すのじゃ。らいおん丸、気を抜くなよ」
「いや、それより二人を檻から出した方がいいのではないであろうか?」
「よいよい。あの二人は出る気になればいつでも出れるのに出ようとしないだけじゃ。つまり儂らだけでどうにかしてこいという事じゃよ」
「そーいうこった。頑張ってくれ」
アシュリーの投げやりな態度にヒルダさんは一瞬呆れたような顔をしたが、気を取り直して扉のボタンを押した。
ぴーんぽーん。
軽い音が響いて、ガラガラっと扉が開くとそこには……。
「はぁ~い♪ こんな辺鄙な場所にどんな人がどんな用なのかしらぁ~? って、あれ? もしかしてヒルダちゃん?」
現れたのは緑とピンクのウェーブがかった長髪を揺らし、細身の手足をくねくねと気持ち悪く動かす……男だった。
いや、女……? いやいやいや。あれはどうみても男でしょ。
魔物は性別がよく分からないのもいるけど、これは絶対に女っぽくしてる男だ。
露出の激しい水色のワンピースの上から白衣を着ている。
ワンピースの丈が短すぎやしないか? それもしペラっとなっちゃったら何が見えるんだ。
気になるけど知りたくない。
「こ、この男がクワッカーであるか……?」
「男とは何よ失礼ねっ!! ……ん? 今のはこのぬいぐるみが喋ったのかしら? やだちょー可愛い♪ ヒルダちゃんこの喋るぬいぐるみ私に頂戴☆」
「いや、それライゴスじゃぞ。お主も名前くらい聞いた事あるじゃろう?」
クワッカーが、はて? という顔でほっぺたに人差し指を当てて考え込む。
「あら、もしかしてあの獣神サンダーライオンの息子の?」
「その名前を出すのは辞めるのである!!」
獣神サンダーライオンって。ツッコミどころはあるけれど、話を聞く限りライゴスさんの親らしい。
「我はあの男は大っ嫌いなのである!」
「あのーヒルダさん? ライゴスさんって結構訳アリな感じなの?」
私はちょっと気になってヒルダさんに聞いてみたんだけど……ヒルダさんは大きなため息をついて、簡単に語ってくれた。
「いや、こやつ昔はめちゃくちゃ寂しがりやだったらしいのじゃが、父親がかなり高い地位でな、忙しくあまり一緒には居られなかったのじゃ。それでお留守番が多かったのがトラウマなんじゃと」
「ひ、ヒルダ様! どうしてヒルダ様がそんな話を知ってるのであるかっ!?」
ヒルダちゃんの足元でぬいぐるみがぴょんぴょん飛び跳ねて猛抗議する様はとても愛らしい。
「ライゴスが……寂しがりや? お留守番がトラウマ……? ダメだ、ひひっ……笑いがとまらん、くくくっ……」
「アシュリー殿! 昔の事である! 今は別にそんな事全然全く持ってこれっぽっちもありはしないのである! 事実無根の濡れ衣である!!」
いや、事実無根じゃねぇでしょうよ。
「ちょっと待ちなさい。……トラップに引っかかってるおまぬけさんは誰かと思えば……あなた魔王様じゃないの」
うげっ。私の事知ってるって事はやっぱりそういう事なの?
これは確認が必要だぞ……。
「クワッカーさん。ちょっと話があります」
「あら、何かしら?」
私は自分が記憶喪失になってる事、魔物の王国を作った事、人間と同盟を組んだ事などを簡単に説明した。
「あらいやだ。だからこんな可愛らしい雰囲気になっちゃったの? 私としては、目の前に初めて現れた時の逞しい姿の方が好きだったんだけど♪ まぁいいわ。それで、人間なんかと手を組んじゃったの? 別に私には関係ないけれど」
逞しい姿とか言うな。
元々男の人の身体だったらしいけどそれは私的に忘れていたい事なの!
……はっ、私の今の状況ってある意味クワッカーみたいなもんなの? 勘弁してよ。
……と余計な事考えてる場合じゃなかった。
「関係大ありよ。貴方も魔物だから私の管轄よ。それにリナリー一家にやった事許しませんからね!」
私の言葉でクワッカーが再び身体をくねらせながらほっぺたに指をあてて考える。
その仕草気持ち悪いんですけど……。
「リナリーって、誰かしら?」
「この付近の家に住んでいる幼い少女である! お前はその少女、そしてその親と飼い犬にまでアナトミー骸蟲を寄生させたであろうが!」
「おいちょっと待てや。アナトミー骸蟲がどうしたって?」
クワッカーが急に目つきを鋭くし、今までの裏返ったような高音ボイスから一転して低く響くようなドスの聞いた声を発した。
「こっちは貴方がアナトミー骸蟲をばらまいて何かを企んでるのをお見通しなの。しらばっくれても無駄よ」
「……なんだと……? それで、アナトミー骸蟲はどうした」
「それならここにあるぜ」
すっかり雰囲気が変わってしまったクワッカーの足元にアシュリーが蟲の成れの果てを放り投げた。
「……あ、アンタ達……」
クワッカーが俯き、肩を震わせたのを見てヒルダさんは戦闘態勢に入る。
私も檻から出ようとしたけどアシュリーに止められた。
「こりゃあてが外れたぞ」
アシュリーの言葉の意味が、よく分からなかった。





