魔王様とアナトミー骸蟲。
「なるほどなるほど。大体の状況は把握したぜ。でも俺は手伝わねぇぞ? 俺が手入れしなきゃここの畑はダメになっちまうからな」
「うん。別にそれは大丈夫だよ。いい畑だし大事にしてあげてね♪」
「お、おう……しかしその寄生虫どっかで見た事あるんだよなぁ……」
お? ライノさんは何か知ってるのかな?
「それはアーナを見た事があるって意味か? それとも……」
「いや、そいつの名前なんか知らねぇけどよ。それとよく似たもんを研究してた糞野郎に心当たりがあってな」
研究? これってもしかして人工的に手が加えられた蟲って事なのだろうか?
「なんでもいいから知っている事を言うのである! これが何者かの手による物なら我が放っておかぬのである!」
「……たかが寄生虫にこいつはなにムキになってんだ?」
それは女絡みの案件だから仕方ないんだよライノさん。このライゴスさんはきっと幼女好きのペドライオンなんだよ。
……ごめん。ちょっと言い過ぎたわ。
脳内で勝手に貶して勝手に謝るという謎行動をしてる自分に気付きちょっと恥ずかしくなった。
そうそう。別にライオンやらぬいぐるみやらが幼女の事を好きになったって私が否定出来るような事じゃないんだから。うんうん。恋愛は自由であるべきだよね。
「ね、ライゴスさん」
「な、なんであるか?」
「ううん。なんでもないよー」
「どうでもいいから早く思い出せ。どこのどいつがこんなもの作ってやがった?」
アシュリーがまた血管浮き出てる。この子は本当に気が短いなぁ。
「それなら……ヒルダ様の方が詳しいんだが、ヒルダ様は今どこでどうしてんだろうなぁ」
「それならもう合流済みであるぞ」
「なんだと!? そういう事を早く言いやがれこのボロ布ライオン!」
「なんだと!? いうに事欠いてボロ布とはなんであるかボロ布とは!!」
「そういうのいいから。とりあえずメリニャンを呼べばいいんだな?」
アシュリーが通信アイテムでヒルダさんに連絡を取り、現在地の詳しい座標なんかを口頭て伝えている。
口で座標なんか教えられてもどこだかわかんないっての。
「おぉ、ライノ久しぶりじゃのう」
すげぇ!
一瞬で私達の目の前にヒルダさんが現れた。
やっぱりこの人も魔王なんだなぁ。
「お、おおぉぉ!? ひ、ヒルデガルダ様!! 元の身体に戻った……戻られたんですかい?」
「なんじゃなんじゃ堅苦しい敬語などどうでもいいわい。そんな事より儂の力が借りたいというのはどういう事じゃ? 今は凱旋パーティの真っ最中じゃったというのに」
凱旋……? そうか、それもそうだった。
魔物達にとっては自分達の主が帰ってきたんだもんね。
「あ、ヒルダさん、貴女さえ良ければあの王国を……」
「いや、儂には無理じゃ。お主が纏めてここまで進めた話なんじゃなから最後まで責任をとってもらわんとのう」
私が言おうとしてる事を完全に理解していて、その上で断られてしまった。
「でも元々は……」
「いいか? 儂は元、魔王じゃ。今の魔王はお主じゃぞ? それに儂は今の気ままな状態の方が気が楽でいいわい」
でも……私は最初から、彼女が帰ってきたら交代するつもりで……。
「おい、そういう話は後にしろ。今はこいつの事だ。メリニャンは見覚えあるか?」
そう言ってアシュリーが寄生虫を見せると、ヒルダさんは物凄く嫌そうな顔をして
「アナトミー骸蟲ではないか……なんで今更こんな物を……どこで見つけたのじゃ?」
あなとみーがいちゅう?
「アーナとは違うの?」
「これは……以前魔王軍に居た頭のおかしいクワッカーという奴がアーナをベースに改造して作り上げたろくでもない代物じゃ」
「魔王軍……クワッカーと言うとあの特殊部隊のクワッカーであるか?」
「そうじゃ。儂も数回しか会った事はないがのう。あやつは本当に根っからの狂人じゃよ。この場合は狂魔と呼んだ方がいいのかのう?」
ヒルダさんの話だと、魔王軍には諜報活動や荒事専門の特殊部隊があったんだそうで、以前そこに居たキャメリーンとか言うのと戦って倒した経緯があるらしい。
本来の魔王軍とは違い、特殊な技能を持った連中の巣窟だったらしいんだけど、ヒルダさんが魔王を引き継ぐ前から、以前の魔王の命を受けて何やら動いていた連中らしい。
魔王が私に入れ替わってからは、私の部下になったり、私に逆らって殺されたり、早々に危険を察知して逃げ出したりしたらしい。
「クワッカーなどは研究さえできればどこでもいいっていうタイプじゃからなぁ。この近くに隠れ住んで良からぬ事ばかり企んでいる可能性はあるのじゃ」
まさかとは思うんだけどさ、この研究自体私が命令してやらせてる事とかじゃないよね?
嫌な予感しかしないんだけど。
どうか私の命令じゃありませんように!
どうか逃げ出した先で勝手に研究してるマッド野郎でありますよーに!





