ぼっち姫、笑いものにされる。
『ここはローゼリアという国でね、君はここで生まれたんだ』
……私が、ここで?
もう一度瓦礫まみれの城内をぐるりと見渡してみる。
……全然覚えてねぇ……。
なんとなく知っている場所のような気もするけど全然思い出せない。
「ここが私の生まれ故郷って事?」
『……まぁ、ある意味では当たっているとも言えるし、違うとも言える』
なんだそりゃ。
「とりあえずぶん殴って知ってる事を吐かせる!」
それでいいやめんどくさい。
私との戦闘準備とでも言わんばかりに男は脇に抱えていた女性を手放す。
ふわりと浮かんで少し離れた場所で止まった。
あれも魔法なのかな? べんりー。
「よっと!」
私はとりあえず様子見でジャンプして切りかかる。
けど、それは空振り。
それどころか私はさっき居た場所の近くに着地していた。
「あれ? どゆこと?」
『ふふ……このままでは君の攻撃は私に一生当たらないよ』
「うーん。空間を歪めて私を別の場所に飛ばした?」
『ふむ。理解が早いね……それで、何か対策は浮かんだかい?』
「知らん! とにかくひたすら切る! ダメなら魔法ぶっ放す!」
でも、なんど切りかかっても私は違う所に放り出されるし、魔法で攻撃しても直撃直前でかき消され、私のすぐ近くに現れこっちに飛んで来る。
うーん。このまま攻撃しててもダメっぽいなぁ。
ちゃんと頭使わないとダメなタイプの敵だ。
じゃあどーすっかなー。
『どうした? もう終わりかな?』
男は地面からちょっとだけ浮かんでぷかぷか揺れていた。
「ちょっと待ってて。考えるわ」
私はその場に座り込んんで対策を考える。
あれは一種の転移魔法でしょ?
だったら……えーっと……。
『……少し、聞いてもいいかい?』
「なに? 今忙しいんだけど」
『今が戦いの最中なのは分かっているのかい? そんな所に座り込むとは予想もしていなかったよ……』
男は若干顔を引きつらせてそう言った。
私に対して引いてる顔だあれは。
失礼な奴め……!
……あ、そうか。じゃあ次はアレ試してみようかな。
「よーっしとりあえず一個試したい事が出来た!」
『う、うむ……そうか』
私は意を決してもう一度飛び掛かった。
剣を振り下ろし、直撃する直前で……。
「ここだっ!」
私は魔法を使い空中で自分の動きを固定。その場にピタっと止まる。
『……?』
「んで、どっせい!」
再び剣を振り下ろす。
で、元居た場所に着地した。
「あっれーダメか!」
『……一応、聞いておくが今のは何をしたかったんだい?』
「いや、こっちの攻撃に合わせて転移の魔法をぶつけてるんだったらタイミングずらせば行けると思ったんだけどなー」
『……君は、もしかして馬鹿なのかな?』
「なんだとてめぇ! ぶっ殺すぞ!」
『君が私に放った魔法も消えていただろう? これはタイミングを合わせて放っている訳ではなく私の周囲の空間を歪めているんだよ。私が操作しているのは出口だけさ』
あーそっちか。
その可能性も考えてたようん。
「だったらこれはどうよ?」
『!?』
「とりゃっ!」
べきぼきっ!
私は奴の使ってた時空を歪める魔法の構成を読み取って再現した。
なんでそんな事が出来るのかは分からないけどやろうとしたら出来たんだから仕方ない。
出口は奴の後ろ。
それも、出来る限り密着した場所。
後ろから抱き着くように自分をそこに移動させて、一気にばきぼきっと思いっきり抱き着いた。
「どやっ!」
ちょっとやりすぎたかもしれない。
力入れすぎて上半身がぐんにゃりと折れ曲がってしまった。
「お、おーい。ごめんよー」
『くふっ。ふふふ……ふはははは!! 君は! 君という奴は……!! 面白過ぎる!!』
うえっ!? キモ過ぎる!!
折れ曲がった状態の上半身はそのままで、頭だけがぐるりとまわりこちらを向く。
『なるほど、なるほど……! 私の周囲の空間が歪んでいるのならその内側へ……なるほどなるほど! だから君という奴は……!』
ケタケタ笑いながら奴の上半身がにゅるりと元にもどった。
私はまだその体に抱き着いたまま。
『ふふ……実は私は誰かにこうやって抱きしめられる事など生まれて初めての経験だよ』
「あらそう? そりゃ随分と寂しい人生を送ってきたのね」
『ああ。なにせ地下に何百年も閉じこもっていたのでね』
「引きこもり?」
『似たようなものさ』
「で、どうする? まだやる?」
『君が私を殺す事は出来ないけれど、勝負という意味であれば今回は君の勝ちだろうね。私がこれだけ楽しめたのだから』
「あんたを楽しませたら勝ちって話だったのこれ?」
『その通りだよ。その点君は満点に近い。あの者達が何人集まっても君一人に敵わないとはね……。これは嬉しい誤算だよ』
「じゃあとりあえずもういいでしょ? 元居た場所に帰らせてくれるかな?」
『今の君は転移魔法が使えるのだろう? 帰りたければ自分で帰ればいいさ』
「えっと……私まだよく分からなくて見える範囲くらいしか無理っぽいんだけど……」
『ぷっ……くっ……くくく……本当に、あぁ……面白過ぎる……君がこの先どうなるのか楽しみだ。それでは今回は特別に送り届けて差し上げよう』
「あ、よろしくー。てか最後にこれだけ聞いていい? あんた結局誰なの?」
『私は……アルプトラウム。君達が言う所の……』
えっ。
ちょっと待って!
それだとまだ用があるんだけど!!
「プリン! おいプリン! 聞いてんのか?」
「……あ、サクラコさん」
意識が暗転し、気が付けば再びサクラコさん達と一緒に居た。
あの男の最後の言葉が頭に響き続ける。
『かみさま、だよ』





