魔王様の大総力戦。
「ヒルダさん」
彼女はとても幼い少女のような外見をしているが、この姿は力を封印された影響による物なのだそうだ。
とても可愛らしく、それでいて純粋。
元魔王というにはまっすぐすぎる気がする。
私だって魔王としての風格も何も有りはしないけれど……。
だからなのかな?
少し違う気がする。
彼女に対しては何か別の感情を胸の内に感じる。
なんだろう。
その正体はよく分からないけれど、彼女を傷つけさせはしない。
傷つけさせてはいけない。
そんな気持ちだった。
自分が魔王軍から追い出しておいて何を言っているんだと、我ながら不思議に思うがこればかりは仕方がない。
だってその頃の私と今の私は違うんだから。
こうやって、身動き一つとれない状態でも、繋がれた手から伝わってくる体温が私の決意を固めていく。
「ヒルダさん。私はきっと貴女に恨まれるような事ばかりしてきたんだと思う。だけど……それでも」
「よいよい。そんな後ろ向きな話は後じゃ。そんな事より……頼めるのかのう?」
当然。
私が自分でやった事に対する責任はしっかり取るんだから。
『次はどんな楽しい余興を提供してくれるのかな? とはいえその状況では身動き一つできないだろうけれどね』
「貴方はこちらを害する気はないんでしょ?」
私は念のために一度確認の念押し。
『ふむ……。 無論そのつもりだよ。面白い見世物があるのなら見てから帰ろう、という程度の気持ちでここに留まっているに過ぎない』
「そう。だったら私達が攻撃するのを一方的に受けてくれるんだ?」
『受ける、とは限らないけれどね。少なくとも今ここで殺したりはしないさ。それは約束しようじゃないか』
私の方の準備は出来ている。
これで、大丈夫な筈だ。
でも、出来ればもう一つ。
隣のアシュリーの方へなんとか眼球を向けると、彼女も必死にこちらを見つめている。
……時間を稼げ。
そう言われているような気がした。
「もう少しだけ世間話に付き合ってよ。結局魔族達は貴方が手引きしたって事でいいの?」
『手引き、といういい方は好きじゃないな。私が適任だと思いオファーしたまでだよ』
この神は面白い物を見る為に、配役をキャスティングしているつもりなのだろう。
その為に適した人材を集め、各所に配置した……?
「ここまでの流れは全部貴方の予定通りの演目だったって事?」
『いや、それは違うね。私はあくまでも面白い物が見たいだけさ。全てが自分の思い通りに進んでしまったらつまらないだろう? だから期待を込めた配役を、それぞれの時間と場所に配置し直しただけだ。魔族をこちらの世界に招待したのもその一環という奴だね』
結局のところこいつが全ての現況であるという事実は変わらない。
私達の一番の敵は魔族ではなくて、こいつという事だ。
「どこまでが予定通りでどこからが予想外の展開だったのかな?」
『……? 一体なんのつもりだ……? いや、いいだろう。少しばかりこの時間稼ぎに付き合ってあげようじゃないか』
時間稼ぎだという事も完全にバレている。
神は私の目の前に姿を現すと、ニコニコとそれは楽しそうに笑う。
『まずメア、君があの戦いで負けた後……いや、負けたというのはちょっと違うかもしれないが、とにかく意識を失ってしまったあと、君の身体を修復し、魔王城に配置したのは勿論私だよ』
やっぱりこいつと私は一緒に行動をしていたという事なんだろう。
味方、だったのだろうか? 私はこんな奴の手先だったの?
『そして、君に時間を与えた。目覚めた君がどのような動きをするのか興味があったからね。その点を考えるならば人間と同盟を結ぶなどという展開は完全に予想外でとても面白い見世物だったよ』
「そりゃどうも」
『まぁあとはそれぞれもう気付いているだろうが大分遅れて君達を目覚めさせた。完全なランダムという訳ではないが、ある程度の考えを持って各地へ送った訳だね。予定通りに動いてくれた者も居れば、そこの大賢者のように全てが予想外だった者もいた。しかし、結局は全員ここへ赴いてくれた訳だから大筋では予定通りだったかもしれないね』
「じゃあ、これから先の事は完全な予定外にしてあげるわ」
私は体内にあるアーティファクトの中から必要な物を選定し、既に起動させている。
「完全無効化!」
『むっ!?』
遅い!
私が封印したヒルダちゃんの力を完全に開放し、彼女はすぐに私達にかけられた謎の力を全て無力化する。
聖竜は私の耳元でこう言っていた。
「お前ならヒルダの封印を解けるのではないか?」
と。私はどうしたらいいのか分からなかったけれど、自分の身体はその方法を覚えていた。
そして、それは無事に成功した訳だ。
動けるようになった私達、そして奴に再びアシュリーがタイムロストを発動。
すぐさまライゴスが頭だけぬいぐるみの巨漢に変身し奴の身体を大きな斧で真っ二つに。
てか何それキモい!!
さらにショコラとアレクが神の四肢と首を切り落とし、私とアシュリー、そしてヒルダちゃんの三人でその肉体を……。
今度は消滅させたりしない。
それではこいつは倒せない……。
だから!
「「「多重結界!!」」」
三人の力で強力な結界を展開し、その中に奴を閉じ込めた。
私達の力を甘く見るからそういう事になんのよ! ばーかばーか!
全員が、球体に近い多角形の結界を見つめ、大きく息を吐く。
奴は……その結界の中で笑った。
『くふふふ……これはこれは面白い! これほどの結界は見た事がないよ。素晴らしい! ……とても面白い見世物だった。これはご褒美をあげなくてはいけないね』
その言葉に背筋が凍ったのは、私だけではなかっただろう。





