大賢者は疑ってみる。
「これは物凄い惨状であるな……一体何があったのであろうか」
「ここに居た奴はかなり強い人間だったんだろうな。いや、人間と断定するのも早計かもしれんが」
ライゴスが、これは魔物……こっちは魔族……とか言いながら謎の判定をしつつ死骸を眺めている。
それにしても、魔物達の死骸をよく見るとおかしな事が分かる。
「これ多分元々は人間だな。服や鎧を着てるのは不自然だろう。ここの魔物達にそういう文化があったなら別だがな」
そう、基本的に人型が多すぎるのも不自然だ。
魔物はどちらかというと、基本的には動物型が多い。
それは魔素を大量に摂取して動物達から進化を遂げた物だから、という説が一般的だからだが、勿論人工的に生み出された魔物も居るし、魔物が魔物を作り出す事もある。
そして、恐らくここは……何者かが人間をベースに魔物を作り出したのだろう。
普通の服を着ている奴も居れば、鎧を着ている者、身なりのよさそうな服を着ている者とそれぞれ違うのを見るに、このローゼリア城とローゼリアの城下町、そのすべてが大きな実験場にされたのかもしれない。
「しかし魔物は魔族にやられたとして、この数の魔族を倒すともなるとなかなかの手練れであるな」
ぬいぐるみがふむふむ言いながら顎らしき場所に手を当てて唸っているのは滑稽で笑える。
「そういえば……えっと……シリルだったか? あんたはここに居た奴等を見てるんだろう? どんな連中だったんだ?」
「えっ? あぁ……あの人達ですの? めちゃくちゃ感じ悪い人達でしたわ」
急に話を振られて驚いたのかどうでもいい情報しか返ってこない。
「何かあるだろう。外見とか特徴的な何か覚えてないか?」
「そうですわね……とりあえずここに居たのは白いローブを着た女性と、青いローブの魔法使い、そして赤い鎧の剣士。あと、とても口の悪い剣士がもう一人。その人は魔剣を持ってましたわ」
ふむ……それなりにバランスの取れたパーティだ。
剣士二人に攻撃魔法役と回復役。
「でも魔剣使い以外はボロボロでしたわね」
結構戦力差のあるパーティなのかもしれない。
となると、ここに居た魔族を倒したのは大体その魔剣使いかもしれないな。
「そう言えばこのあと王都に行って情報を集めるって言ってましたわ」
「そういう事は早く言え!」
「も、申し訳ありませんの!」
それならこうやって人数を分ける際、ローゼリアを調べる側と王都へ行って情報を集める側に分けられたじゃないか。
……まぁ強い人間くらい世の中には居るだろうし、シリルの話を聞く限り共闘するには協調性がなさそうだから気は進まない。
だったら敢えてこちらから追う必要はないか。
魔族を殺して回ってるなら大歓迎だ。勝手にやってくれていい。
私はメアやナーリアと違って、もしそのパーティが勘違いで魔物を殺そうと知った事じゃないしな。
「魔剣使いと言えばデュクシはどうしているのであろうな?」
「……デュクシか……」
正直今ライゴスがその名前を口に出すまで完全に忘れていた。
これだけかつての仲間がローゼリアに集まるという不自然な必然を目の当たりにして、彼だけが居ないというのは確かに違和感を感じる。
そもそもこれだけの人数がほぼ同時にローゼリアに集う事自体がおかしい。
何か作為的な物を感じるぞ。
しかし、それを考えていても仕方がない。
私は悩んでも答えが出ない事は大嫌いなんだ。
「少なくとも、私らが知ってるデュクシがこの惨状を引き起こしたとは思えないな。切り口を見る限り炎の魔剣ではあるようだが……」
「そうなのである。この焼けただれたような切り口を見てあの魔剣を思い出したのであるが……さすがに別人であろうな」
「それにパーティを組んでるんだろう? 奴とは関係ないと思うけどな」
「いや、しかしそのパーティの面子がどうにもひっかかる物があるのである……」
何か引っかかる?
ライゴスはぬいぐるみの癖に眉間に皺を寄せてうーんうーんと記憶を探っているようだった。
「引っかかるって言うんだったらそれこそそいつら自体それなりに名の知れた冒険者で、どこかの街で噂でも聞いたんじゃねぇのか?」
「そうであろうか? うーん……分からぬのである」
「まぁ今はその件は保留だ保留。とりあえずこの城の中をくまなく探してみよう。まだ魔族の一匹も残ってればシメて情報を聞き出せるかもしれない」
「そうであるな。ここにアーティファクトがあるのであれば何か役に立つかもしれぬのである」
あぁ、ライゴスのいう少女がどんな病気かしらないが、メアの協力が必要なのは間違いないだろう。
しかしそれでは足りない。
それに使えるアーティファクトが有るというのは些か出来過ぎている気はするが、ここまで話が整っているのならば或いは……。
その場合はいろいろと別の事を検証する必要が出てくるけどな。





