妹的に気になる昔話。
結局、おじさんは師匠に三か月間追いかけまわされて、寝てる時に暗殺しにきたり人通りのある往来で屋根の上からいきなり飛び掛かられたり散々な目にあったんだって。
その頃は師匠も大分若かったらしいけど、その頃から十分凄腕だったらしい。
私からしたら師匠が弱かった頃なんて想像もつかないけど。
私なんて師匠に勝てる事と言ったらアレのアレくらいだからなぁ。
「しかしあのサクラが弟子を取りましたか……しかもそれがあのセスティ殿の妹君とは」
「師匠とはいろいろあって今は足腰立たなくして逃げてきちゃったけどね」
「君が、サクラを? ……ははっ、君たちの兄妹は二人揃って尋常ではないようですね」
おじさんはなんだか昔を懐かしむ老人みたいに遠い目をしながら片目についてる眼鏡をくいっと持ち上げた。
「お爺さんみたい」
「おじっ……! ……まぁ、いいでしょう。本当に若い方々を見ていると自分が老人にでもなった気分がしますよ。料理でも作ってるのが性にあっているかもしれませんね」
やっぱり人間歳をとるとこう、昔を懐かしんだりする生き物なんだろうか。
「あーちょうちょ飛んでますよちょうちょー♪ 可愛いですねー♪」
「はい♪ でもメリーちゃんの方が可愛いですよー☆」
「ほんとですかー? やったー♪」
私達の後ろからそんな呑気な声が聞こえてきた。
くそう……声だけ聞いてたらすっごく楽しそうなのに……。
「そういえば師匠と一緒に旅してたって……」
「あぁ、その話がまだでしたね。実は私を追いかけまわしていた女性が魔物にやられて大けがをしてしまいまして……」
どうやら物陰に隠れながらアレクおじさんの後をついて回ってたストーカーの女の人が怪我しちゃったらしい。
それで怒った師匠が、アレクおじさんと共闘してその魔物を倒した。
それが切っ掛けでしばらくの間パーティを組んでいたらしい。
「パーティを組んだと言ってもあの人はちっとも仲良くする気なんてありませんでしたけどね……」
事あるごとに言い合いをし、衝突をしながらアレクがユーフォリア大陸へ戻る為の手段を見つけるまで半年ほど一緒に旅をした。
最終的には小舟で大海原へ繰り出した。
が、ロンシャンの監視に引っかかって戦艦で追いかけまわされたけど、なんとかユーフォリアの付近まで逃げてこれたのでロンシャンの戦艦は諦めて引き返した……。
「そうして命からがら帰ってきた私は、あの国と友好的な関係を築くのは無理だと、そう王へ進言しました」
「じゃあロンシャンとユーフォリアが険悪なのは大体おじさんのせい」
「それは……ある意味では正解なのかもしれませんが……なかなか手厳しいお嬢さんですね」
私は可愛い女の子以外には厳しい生き物なので。
「いやはや、懐かしい話が出来て良かったです。サクラもまだ元気のようですしね」
「じじいはすぐ昔を懐かしむ」
「貴女、もしかして私の事嫌いですか?」
「ううん。嫌いなのは男。おじさんの事が特別嫌いな訳じゃないよ」
「……それは喜んで良いのでしょうか?」
「少なくとも師匠の知り合いというだけ私の中ではマイナスだけど」
「そこはマイナス査定になる事なのですね……」
アレクおじさんはなんだか苦笑いを浮かべていて気持ち悪い。
「私にこんな口をきく人もなかなかいなかったので新鮮です。若返った気分ですよ」
「気のせい。おじさんはおじさん」
「……それはそうですが。どうも貴女からは不思議な何かを感じますね」
「口説いてるの? セクハラ?」
「違いますよ! ……貴女と言う人は……やはりサクラと一緒に居るとどこかネジが飛んでしまうものなんでしょうか……」
師匠なんかと一緒にしないでほしい。
あの人は特別ちょっとおかしい人だから。
私は反論しようと思ったんだけど、ちょっとそれよりも先にやるべき事が出来ちゃったみたい。
「ちょっとナーリア! メリーと遊んでないでこっちきて手伝って」
「はいはい!? 私に御用ですか?」
ちょっと声かけただけでナーリアがにっこにっこしながら走ってくる。
これで変態じゃなければ悪くないのに。
「って、これはふざけてる場合じゃないですね。メリーは離れていて下さい!」
ナーリアもちょっとは状況が把握できたみたい。
「おじさんも、強いんでしょ? 期待していいんだよね?」
「勿論です。なんなら一人ですべて片付けてみせますが?」
「独り占めなんて許さないよ。私も久しぶりに本気で暴れられるんだから……」
気が付いたら私達の周りを魔物が山ほど取り囲んでいた。
城の裏手の方にある民家の中に潜んでいたらしい。
……ここの魔物はメアの管轄外っぽいから襲ってくるならやっちゃっていいんだよね?
早く暴れさせてよ。もう我慢できない。
「きちゃいましたー♪」
ナーリアに離れてろって言われてたのに呑気にてこてこやってきちゃって。
こういうアホの子はなかなか対応が難しいけど、アーティファクトで出来てるっていうなら簡単に死にはしないでしょ。
「ナーリア。ちゃんとその子見張っててね」
「は、はい! 任されました!」
魔族が相手じゃないから持っていかれる事もないだろうけど、ナーリアの近くに居るのが一番誰の邪魔にもならない。
「さぁ、あばれるよー」





