人形少女は突入する。
「なっ、メリーどうやったんだ?」
「私とそのシリルは……人間じゃないですからねーその辺が関係あるんじゃないですかー?」
ショコラさんがシリルの説明を適当にしかしなかったからみんな驚いてる。
とにかく、私達は通り抜けられるみたいだからやる事は一つだよね。
「マスター。とりあえずちょっと様子見てきますわー」
「じゃあ私もお姉様の役に立ちたいですから一緒に行きます!」
「おいふざけるな。お前らじゃ戦いになった時どうにもならないだろうが!」
マスターがすごい剣幕で怒ってるけど、現状様子身に行けるのが私とこの子だけならとりあえず情報収集するべきだと思うんだよねー。
「だいじょーぶですよー。ちょっと見てくるだけなんでー。シリルもそう思いますよね?」
「えっ、そ……そうですわね。お姉様、ちょっと様子見てすぐ帰りますので待ってて下さいまし♪」
まだマスターがごちゃごちゃ言ってるけど今回は言う事聞いてあげないんだからね。
「ほんと様子見てくるだけですってー。とりあえずマスターはみんなが入れる方法考えておいてくださいねー。じゃあ行ってきまーす」
私はシリルとどうでもいい雑談をしながら城下町の残骸を眺める。
昔はかなり栄えていたらしい城下町はあちこちボロボロで、崩れかけている建物も多かった。
道すがらお互いの身の上話なんかをしてて分かったけどやはりシリルも私と同じで元は宝を守る番人的な役割だったらしい。
お互い神に作られた者同士。だけど決定的に違うのは、私は眠りにつき、彼女はずっと至宝ってのを守って生きてきたって所。
「そっかー。じゃあ神様はもうこの世にいないんだね」
「お姉様が言うにはまだ一人だけ生き残りが居て、その神様が敵なんだそうですわ」
神に対する反逆……私にはとてもじゃないけど思いつかないような事だ。
思ったとしてもどうにかなる気はしない。
でも今のマスターがそれを望むのなら少しでも役に立たないとね。
「えっと……メリーさん、でしたよね?」
「ん? そーだよ。私の名前はメリー。どうかした?」
シリルがとある建物の隅を指さして、「あれ見て下さい」と促すのでそちらに目をやると、魔物が死んでた。
「……これって、どういう事だろう? 確か魔族がここに来てるって話だったから……ここにいた魔物さん達は魔族に殺されたのかな?」
私達はそのまま周囲に警戒しつつ城の方へと進んでいくと、あからさまに魔物の死骸が増えていく。
「お姉様に一度報告に戻った方がいいかもしれないですわね」
「ちょっと待ってシリル。何か聞こえない?」
どこかで、物音がする。
城の中からかもしれない。
「……聞こえます。戦闘音ですわ! どうしましょう!?」
「……戦闘って事は魔物と魔族ですかねー? ちょっとそれだけ確認しておきたいです」
私はそのまま城へ向かい、シリルも少し迷ってから私の後をついてくる。
状況を確認して、すぐに報告に戻ろう。私達は戦えないから、せめて情報だけでも持って帰らないと……。
「あの、メリーさん、これおかしくないですか?」
……確かに変だ。
魔物の死骸に混ざってだんだんと魔族の死骸まで増えてきてる。
……でも魔物に返り討ちにあったんだとすれば別におかしくはないのかな?
おそるおそる城の入り口を入り、少し進むと広いホールのようになっている場所で誰かが魔族と戦っていた。
「メリーさん! あれ……人間ですよ!?」
確かに、そこには人間が四人、魔族と戦っていた。
しばらく柱の陰に隠れて様子を見ていると、死闘の末人間が魔族を仕留める。
そのホール内には凄い数の魔族の死骸が転がっていて、その人間がどれだけ強いのかが伺えた。
「……そこの柱の陰に居る奴出てこい」
どうしよう。
その人間はどうみても友好的な感じしないし、かといってここに隠れていても気付かれてるみたいだから魔族と勘違いされそうだなぁ。
「シリルはみんなに報告しに行って」
「でもそれじゃあメリーさんが……」
「何度も言わせるなよ? そこにいる二人、さっさと出てこい」
……二人いる事もバレてる。
これは逆らわない方がいいかもしれない。
私達は諦めて人間の元へ出て行く事にした。
「……なんだお前ら。人間か……?」
そこには剣から魔族の血を滴らせる剣士と、怪我だらけで地面に膝をつき息も絶え絶えな三人がいた。
「私達は人間じゃありませんよー。そちらはここで魔族討伐ですか?」
「……ヒールニント。お前のスキルでこいつらが嘘をついてないかちゃんと見ておけよ」
剣士が、ぜぇぜぇ言ってる神官っぽい女の人にそう言って、私達に向き直った。
「質問に答えろ。お前らは魔族側か?」
「違いますってー。どっちかっていうと人間側ですー」
「ローゼリアの関係者か?」
「違います。私達は魔族がここに向かってるのを知って調べに来ただけですわ」
「……はぁ、はぁ……。あの、子たちは……嘘は言ってません」
神官っぽい人がそう言うと剣士は急にこちらに興味を失ったようで、「関係無いなら用はないな」と呟いた。
「おいお前ら。ここは外れだ。魔族が山ほど居るから本拠地かと思って来てみたが……とんだ空振りだぜ。さっさと次行くぞ。コーべニア、転移だ」
「ちょっと待って下さいー。皆さん怪我してるじゃないですかー。手当とか……」
「必要ない。死んだらそこまでだ。それにそこの神官女が回復魔法も使える。お前らみたいなのに心配される謂れはねぇよ」
「お嬢ちゃんたち、そういう訳だからさ、俺らの……事は気にしないでこんな危ない所からは早く出た方が、いいぜ」
私、人間じゃないって言った筈だけどな。
赤い人が優しそうな笑顔でこちらの心配してくれた。
「お前らが何か知らんが魔族に手を貸すようならお前らも殺す。その気がないなら足を突っ込まずに世界平和でも祈ってろ」
感じわるーっ!
「準備出来ました。転移できます……どこへ行きますか?」
「そうだな。また情報の集め直しだ。とりあえず王都へ行くぞ」
剣士のその言葉に魔法使い風の男が頷き、四人は私達の前から姿を消した。
……誰だあれ?





