魔王様の自己抑制措置。
「でも魔族がそちらに向かっているという事は確実に戦闘になりますよね? 本当にいいのですか?」
それはもしかして私の心配をしてるんだろうか?
「大丈夫だよ。むしろナーリアちゃんはいいの? わざわざ沢山魔族が行くところに戦いに行く事になるけど。私はほら、強いから大丈夫♪」
「確かに私では力不足かもしれないですが……それでも、目的地がローゼリアならば私はいかなければいけない気がします」
私の中に居るっていう姫って人が、ローゼリア出身だとか言ってたっけ。
あれ? 姫の身体の出身地って言ってたかな?
その辺ちょっと意味が分からないけど、重要な場所である事には変わらないだろうし行く価値は有る筈だよね。
「じゃあとりあえず、また魔族が攻めてきたら困るからこっちの防衛はみんなに頼んでいいかな? おじさんも強いみたいだし、あとジービルさんと幹部たちがいれば大丈夫だと思うんだ」
とりあえず今回はあまりぞろぞろ大人数で行くより少数で行った方が動きやすいだろう。
私とナーリアちゃんだけでいい気がする。
万が一の時その方が守りやすいし。
「そういえばその……あのジービルさんはあのジービルさんでいいのでしょうか?」
ナーリアちゃんが何故かそわそわしながらそんな質問をしてきた。
あのジービルさん?
「ちょっと質問の意味が分からないんだけど、あの人有名な人なの?」
「実は勇者のパーティにジービルという格闘家が居たんです」
居たんです。って言い方が気になってナーリアちゃんにちょっと事情を聞いてみたんだけど、どうやら勇者のパーティは大分前に解散しちゃって、そのパーティのセスティっていう剣士が姫の身体に入ってて……ちょっとここは意味不明だけどまぁいいや。
それで、そのパーティの大賢者がナーリアちゃんのお姉さんなんだってさ。
その二人と、剣士一人、姫の妹、元魔王のめりにゃん、それとその部下のライゴスってメンバーが仲間だったんだって。
「ちょっと待って、ナーリアちゃんと一緒に居たっていうめりにゃん? って人は元魔王なの? ヒルダさんとは違うのかな?」
「めりにゃんの事を覚えているのですか? 彼女はヒルデガルダ・メリニャン。貴女に負けて力を封印されているんです」
やっぱりめりにゃんって人はヒルダさんだった!
って、どうしてナーリアちゃんと一緒にいたの?
その辺の詳しい事情は分からないけど、一つ大事な事が分かった。
「じゃあナーリアちゃんと一緒にいたらそのヒルダさんともいつか会えるかもしれないって事だよね? ここに帰って来てもらう為に一度あってちゃんと話がしたいんだ」
「……そう、ですか。でも……いや、今の貴女なら大丈夫かもしれませんね。きっとめりにゃんも分ってくれると思います。問題なのはやはり姫の事ですが……。そればかりは皆本当に重く受け止めている部分ですので……勿論私も」
それだけナーリアちゃんや、その仲間達にとって姫って人は重要な人だったみたい。
話を聞く限りとても強くてかっこよくて可愛くて最高だったみたいだけど、姫の事を語ってる時のナーリアちゃんの目は結構怖い。
これは早く私の中からどうにかして分離する方法を考えないと。
そういえばローゼリアにはアーティファクトがあるって言ってたっけ。
それなら何か役に立つものが見つかるかもしれない。
「とにかく、アーティファクトを魔族に奪われるといろいろ面倒な事になると思うし、私達が行ってそれを阻止しよう。んで使えそうなものはかっぱらってこよう!」
「ふふ……本当に、貴女は私の知ってる魔王とは違うようです。ただ、そのアーティファクトを集めようとする所は少しだけ面影があるかもしれませんね」
ナーリアちゃんがそう言って笑う。
私ってそんなにアーティファクトに固執してたのかな……。
がめつい魔王だったのかな。それとも集めて何かしようとしてた……?
分からない。
でも私は記憶を取り戻そうなんて欠片も思わない。
もし当時の自分を取り戻して、今の私が嘘になってしまうような事があったら……。
私はまた皆に危害を加えるかもしれない。
そんなのは嫌だ。
そんな酷い私は要らない。
世界の敵になるくらいなら、大事な人達を自分で傷付けるようになるなら、それをなんとも思わなくなってしまうようなら……。
それこそ居ない方がマシだ。
いざという時には自分を律する方法を用意しておいた方がいいかもしれない。
記憶が戻って暴走する可能性を考えて、そうなったら確実に私を仕留められるような仕組みを……。
「どうかしましたか? とても難しい顔をしています」
「あ、あぁ……早くその姫って人をなんとかしないとなって思ってたんだよ」
「期待してますよ」
その期待に応えられるといいな。
誰も悲しませたくないから。
自分の過ちは、自分でどうにかしないとね。





