らいごす君の大失言。
「ライノラス。ちなみになのであるが、ここは一体どの辺なのである?」
「なんでお前は自分のいる場所も分らねぇんだよ」
仕方ないであろう? 我は少し前に目が覚めたばかりで、気が付いたら知らぬ場所に放り出されておったのだから。
周りには誰もおらず一人になってしまっていたのだから場所の確認などしようも無いのである。
それをライノラスに説明してやった。
「しかし変な事もあるもんだな。だってあれからかなり経ってるぜ? ずっと気絶してたわけでもあるまいしこんな事あるか?」
「ある筈がないのである。だから我は魔王が何かを企んでいるのではないかと考えていたのであるが……」
「うーん。今の魔王は記憶なくしちまってて別人だからな。お前んとこのプリン仮面みたいな外見になってたのは驚いたが、他の奴等とも久しぶりに会っていろいろ話聞いたけど俺らが知ってるあの魔王で間違いないらしいぜ」
確かメアは自分の身体にいろいろと手を加えたらしいのでその過程であのような外見を選んだのだろうが、それが何故セスティ殿と同じだったのか……。
セスティ殿には何か心当たりがあるのやもしれぬが、そればかりは我には分らぬ事である。
そもそも本当にセスティ殿は死んでしまったのであろうか?
魔王メアリーが記憶をなくし、別人のようになって人間と敵対するのを辞めたというのが本当であれば、詳しく聞く必要がある。
本人が忘れている事だとしても、その体内にセスティ殿がいるのかどうか、居るならなんとか分離できないものか。
そうしなければ、ヒルダ様が悲しむのである。
ヒルダ様もどうなったのか分からぬが、あのお方の事だからしぶとく生きていると信じたい。
「おい聞いてんのか? 魔王城ってかあの国までどうやって行く気なんだ? 徒歩で行くつもりか?」
「むしろ徒歩以外の手段があるのなら教えてほしいくらいなのである。今の我では以前の三倍は時間がかかるであろうからな」
「まぁその姿じゃなぁ。炎風のライゴスも落ちたもんだぜ」
そんな呼び方は久々である。
しかし、今の我にそんな二つ名は必要ない。
「我はライゴス。らいごす君である」
ぶふーっ! とライノラスが噴き出した。
「らいごす君ってなんだよあんま笑わせんなってひひひっ」
「今は訳あってらいごす君なのだ仕方ないであろう」
ライノラスはいつまでも笑っていて収まる気配がないので無視して一人旅を再開しようとしたところ、「ちょっと待てよ!」と声をかけられた。
「なんの用であるか? 我は先を急ぐのである。とにかく早く魔王を問いたださねば」
「だからちょっと待てよ。お前急いでるなら俺がいい方法を提案してやろうっていうんだ聞いておいて損はないぞ?」
こんなろくでもない奴の言ういい方法とやらが使えるとも思えないが……一応聞いておくべきであろう。
万が一という事もある。
「俺が前にリャナとかいう町に行った時の事覚えてるか? プリン仮面と戦った時だ」
「勿論覚えているのである。しかし、それがどうかしたのであるか?」
こいつが何を言いたいのかいまいち分からない。
意味のある会話かどうかすら怪しいが……。
「その時、俺は何であの町へ来たか覚えているか?」
……! そうか。いや、しかし……。
「あのグリフォンが居るのであるか? もし貸してもらえるならありがたいのである!」
空から行けるのなら我の足の遅さは関係なくなる。これ以上ない移動方法だ。
「貸さねぇよ」
「……期待した我が馬鹿であった。さらば」
「待て待て。話をちゃんと最後まで聞け」
……こいつは一体何が言いたいのであろうか。我をイラつかせる為の嫌がらせではあるまいな。
「あいつはな、グリ蔵って言って俺の相棒なんだ。乗り物じゃなくて友達、仲間なんだ。分かるか?」
……こいつにそんな考え方が出来るとは思ってもみなかったが、我の知らない間に随分と変わったようである。
ライノラスは少し恥ずかしそうに鼻の頭……から生えてる角をポリポリとかきながら続きを話し出した。
「つまりだな、俺の相棒のグリ蔵は、貸すなんて言葉で預けられるようなもんじゃないんだ。道具じゃないからな」
「すまぬ。我の失言であった。ならば正式に我からライノラス、お前に頼みがある。お前の友達に、力を貸してくれるよう頼んではもらえないだろうか」
我とした事が、移動に使っていた魔物だからとは言え同胞を物のように語ってしまうとは恥ずかしい。
目先の事に捕らわれて周りが見えなくなるのは悪い癖であるな。
「おう。そういう事なら俺からちゃんと頼んでやるから安心しろよ。あの魔族が来るようになってからは避難させてあったんだが、もうあいつも居なくなったからな。そろそろ迎えに行こうと思ってたんだ」
そう言ってライノラスはガハハと豪快に笑った。
そういえば、昔こいつとこんなふうにお互いゲラゲラ笑いながら力比べをしていた時期があった事を思い出す。
今では遠い昔の思い出であるが、もしかしたらいつか、再びあんな風に何も考えず幸せを謳歌出来る世がやってくるかもしれない。
新たな魔王の国とやらを、見せてもらおうではないか。





