らいごす君の大混乱。
「しっかしお前その姿はどうしちまったんだ?」
「うるさいのである! そんな事より何故あっさり人間の居場所を教えるのであるか!!」
我はライノラスに投げ飛ばされ、鳥型の魔物の背中に張り付き、その場で力を開放し思い切り斧でその羽根を切り落としてやった。
絶叫しながら落下していく魔物の背中に張り付きながら、地面に激突する寸前で木々に飛び移りなんとか致命傷を避けると、再び地面に降り立ち呻いている魔物のもう片側の羽根も切り落とす。
幸いな事に羽根さえなければほとんど攻撃能力を持たず、大した相手ではなかった。
勿論酷い抵抗にこちらも無傷という訳にはいかなかったがなんとか先ほど我が奥義風神炎斧にて灰にしてやったところである。
最後に、あの鳥は「ローゼリアに……いかなきゃ……」と呟いて燃え尽きた。
ローゼリア? 何故ここでその名前が出てくるのであろうか。
そして、全てが終わった頃ライノラスがのそのそと現れ、のんきにこの姿を茶化してきたのだ。
「いや、別に人間がどうなっても知った事じゃねぇし……俺だってあの魔族に絡まれて困ってたんだよ」
「貴様! セスティ殿に破れこんなところで隠居してるくらいだから少しは大人しくなったかと思えば……ん? 今魔族と言ったであるか?」
「あぁ、あのデカい鳥は魔族だよ。お前が始末してくれて助かったぜ。それと、勘違いするなよ? 俺はあれから人を襲ったりなんかしてねぇよ。今回だって俺の畑を荒らしやがるからどっか行ってほしかっただけだって」
同じ事である。
自分で殺さずとも殺される可能性があるのに魔族に人間の住まいを教えるなどと……。
いや、どちらかというと我はおそらく、殺される可能性があったのがあの少女、リナリーだったからこんなにも怒っているのであろう。
「まぁいい。この姿も訳あっての物である。すぐにぬいぐるみに戻る」
ぽんっと身体が元の小さなぬいぐるみに戻る。
「いや、俺が言ってるのはそのぬいぐるみの身体はどうしたのかって話なんだが」
……そうか。ぬいぐるみでいる事がなんとなくいつもの事になりつつあって、頭ぬいぐるみで身体が本来の状態になってるあの姿の事を聞かれたものと勘違いしてしまった。
「我が人と行動を共にするために取った苦肉の策である」
「……なんだか、お前も苦労してんだな。あの新しい魔王さんも結構に苦労人だけどよ」
何かこいつ今妙な事を言った気がする。
「ライノラス。新しい魔王が苦労人、だと? それはどういう意味であるか?」
「うーん。これ言ってもいい話なのかなぁ」
顎に手を当てて悩むライノラス。
「我に教えて困るような事でもあるのであるか?」
「まぁ、それもそうか。俺な、ちょっと前まで新しい魔王さんに呼ばれて農業の先生やってたんだよ」
意味が分からない。
とりあえず、魔王が生きている。それだけは確定してしまった。
いや、むしろそれはいつの事であるか?
我やセスティ殿が魔王軍と戦う前の事かもしれぬ。
「そういえばお前しばらく姿見なかったけど生きてたんだな。あのプリン仮面は死んだっていうからお前も死んじまったかと思ったぜ」
「なんと!?」
「だから、あんだけ強いプリン仮面もやられちまったのにお前はよく……」
……やはり、セスティ殿は魔王にやられてしまったのか。
だとしたら尚更我は何故生きていて、こんなどこだか分らぬ場所にいるのだ?
「あれからもう半年だもんな。まぁ気にするなって。上には上がいるし、魔王さんももう以前の暴君じゃねぇしよ」
待て待て待て。
頭が混乱するのである。
我は気になる事から一つずつライノラスに質問して、なんとか情報を整理した。
まず、我らが魔王軍と戦ってから半年ほど経過しているらしい。
本当に意味が分からないが、事実らしい。
そして、魔王メアリーは生存しているものの記憶を失い、別人のようになってしまった。
今メアリーは魔物達の国を造り、そこで自給自足をする事で魔物と人間が対立せずに済む世界を作ろうとしているとの事。
そして、世界には今魔族という連中が現れ、各地で騒ぎを起こしている。
にわかには信じられぬ。
あの外道の極みであった魔王が、人間を襲うのを禁ずるとは……。
何か裏があるのではないか?
そうでなければ、そんな世界……まるでセスティ殿が望んでいた世界ではないか。
なぜそれをメアがやろうとしているのであるか?
勿論そんな世界がくればいい。それはいい事である。
しかし、なぜそこにセスティ殿が居ない?
彼を亡き者にした張本人が、何故そのような事をするのだ。
我はどうしても納得がいかない。
もうメアが危険ではなくなったというのであれば、我は一度話をせねばならない。
魔王と直接話をして、事実がどうなのかこの目で見極める必要がある。
そして、もし人間との争いを望まぬというのであれば、リナリーを助ける為に必要な事も分るかもしれない。
あの魔王の手を借りるなど虫唾が走るが、リナリーを助ける為ならば我は手段を選ばない。選んではいられない。
もし、何か良からぬ事を企んでいるのであればその時は、そう、今までと変わらず我の、そしてセスティ殿の敵である。
それだけの事。
それに、魔族とやらを手引きしたのが魔王でないという確証はないのだ。
確かめなければ。
「その魔物の国とやらはどこにあるのである?」
「それなら魔王城を中心にしてるからお前だって知ってるだろ?」
魔王城。懐かしい場所であるが、そこはヒルダ様との思い出の地である。
断じてメアの居城であっていい場所ではない。
……魔王城へ行くならば、おそらく道中でローゼリア付近も通るだろう。
あの鳥魔族の言葉が少々気になるので様子を見に立ち寄るのも悪くないかもしれないのである。





