魔王様の手料理試食会。
私はペリギーに案内してもらって食材庫へ到着。
「うわさいってー」
一応そこには私がペリギーにお願いしておいた鳥、牛、豚、そしてそれなりの量の野菜。
そしてよく分からない生き物の死骸。
さらに言えばそれにまじってちらほら見える人っぽい手とか足とか。
「はぁ……本当にあんたたち魔物って……」
「その、これは仕方ないのです。今までこうして生きてきたものですから」
まぁそれは仕方ないのかもしれない。
どこの誰か分からないけど殺されてここに転がってる人達に関してはなんていうか本当にごめんなさい。
私は手を合わせてなむなむとお祈りを捧げた。
「で、キッチンはどこ?」
「キッチン……とは?」
だめだこいつ。
そうか、基本丸かじりの連中にそんなもの必要ないんだ。
調理する場所とか必要なければある訳ないよね。
でも今までの私はいったいどうやって生きていたんだろう……。
「一つ聞きたいんだけど今まで私って何食べてたの……?」
ちょっと怖い。もし人間丸かじりしてましたとか言われたらどうしよう。
「いえ、基本的にメアリー様は食事を取っていなかったように思います。もしかしたら我々に隠れて何かを食べていたのかもしれませんが……」
……よかった。とりあえず人食いって訳じゃなさそうだ。多分。
「で、料理作れる場所ないの? ほら、火がカチカチっとつくとことか、鍋とか包丁とかは?」
「……?」
マジだめだこいつ。
「うわーん! これじゃ料理どころじゃないじゃん!」
「め、メア様! その、何か必要ならばお創りになられたらいいのでは」
「そんなすぐにキッチン作れるわけないでしょーが!!」
これだから何もしらない魔物は!!
「いえ、確かメアリー様の所持しているアーティファクトには物体の創造、改造を出来る物があったと記憶しております」
……ほぇ?
「何それ。自分で作れるの? 魔法みたいな感じで?」
「はい。あの浴場もメアリー様がお創りになられたのです。使い方は思い出せませんか?」
「えぇ……記憶ないのに知る訳ないじゃん……」
そもそも私の身体の中にアーティファクトがあるって言われても……。
私は胸に手を当てて、『アーティファクトさんやー使い方教えておくれー』と心の中で呟いた。
すると、勿論誰もその心の声には応えてくれなかった。
応えてくれなかったのだが、
「う、うわわわわわわわ……!!」
「メアリー様!? どうされましたか!?」
突然私の頭の中にアーティファクトの存在が焼き付けられる。
なんて表現したらいいか分からないけど、急にそれが私の中にあって、どういう物で、どう使えばいいのかが頭の中にびびびっと来たのだ。
「……クリエイション・イマジネーター」
私は倉庫内の何も無い部分を見つけ、その壁に向けて手を付き出す。
すると、周りの壁がぶくぶくっと泡立つように膨れ上がって、私が思い描く通りのキッチンが物凄い勢いで生成されていく。
「おぉ……めっちゃすごい」
「メアリー様記憶が……?」
ペリギーがびくびくしながら私の顔色を窺ってくるが、その心配はないって。
「ううん。全然。ただこれの使い方は分かったよありがとねぺんぺん♪」
「メアリー様、それは良かったのですがその……少し前からどうして私ぺんぺんになってしまったのです?」
「なんとなく。とりあえず料理始めるね♪」
なんだか言いたい事がありそうな顔をしてたけどそんなのもうしらない。
「包丁も作って……っと。あーこの能力めっちゃ便利だわ」
私は野菜を切って、鍋に放り込んでいく。
んで……っと、火をつけようとして気付く。薪とかも必要かぁ。
私ってば魔王だよね? 炎の魔法くらい使えるんじゃない?
私は自分に問いかける。
魔法の使い方……えーっと。
さっきみたいにアーティファクトが教えてくれる、みたいな事はなかったけれど、なんとなく記憶が蘇ってくる感覚がある。
「んーっと、こうかな?」
私はなんとなくでやってみたけれどちゃんと炎が出た。しかも消えずにぼぼぼっと維持できている。
「やるじゃん私。……えーっと、後は……」
私が頑張って肉をさばいてそれも鍋に放り込む。
「ぺんぺん、調味料は?」
「ちょうみ??」
あー。もしかして調味料ゼロなの? 正気?
「わかったわかった。じゃあその辺に転がってる人間の死体がお金持ってるかどうか調べて」
「はっ、はい! 分かりました……えー。こいつは……無し。こっちは……あ、ありました! メアリー様ありましたよ!」
「うんうん。お金だけこっちもってきて」
私はペリギーから硬貨を受け取って、ペリギーに火を見ていてもらう事にした。
「これ火が消えないように見てて。んでこれを少し炒めててくれる? 焦がしたら怒るよ?」
「えっ、えっ!?」
ペリギーが慌てて私と位置を入れ替わる。でもあの身長じゃ鍋の中なんか見えないか……。
まぁ最悪最初からやり直そう。
私はなんとなくこうやったら出来るんじゃないかな~って感覚で魔法を使ってみると、あっさり周りの景色が変わる。
周りはすっごくザワザワしていて、突然現れた私にびっくりしているみたいだった。
でも私にはあまり時間がないのだ。
その辺の商店を見つけて飛び込み、必要な物を急いで購入。そしてすぐに再び元のキッチンに帰ってきた。
「ぺんぺん大丈夫だった? 焦げてない?」
「はっ、はい! 大丈夫なはずです!!」
ペリギーはいくつも箱のような台を重ねて、その上から鍋の中身をかき混ぜて炒めていた。
「おー♪ やるじゃん☆ 撫でてあげよう。おーよしよし♪」
がんばったご褒美にその頭を撫でてあげると、
「ほっ、ほわーっ!!」
ペリギーはなんだか妙な叫び声をあげて足を滑らし、台から転げ落ちて行った。
失礼すぎじゃない?
そしてそれから格闘する事十五分くらい。
ついに私の手料理が出来上がったのだ!
「みんなおまたせー♪ 女子の手料理だぞーよろこべーっ☆」
待ちくたびれていた幹部達は一斉に私の方を見て、一層変な顔をするのだった。





