らいごす君の大活劇。
大層な目的を持って、格好つけてあの場を後にしたものの……これといって全くあてがないのは困ったものである。
「やれやれ……どうしたものであるかな」
ぬいぐるみの身体では思うように先へ進めない。
山一つ越えるのも一苦労だった。
魔物に襲われるのならまだ分かるが、鳥についばまれそうになったり自生している謎の食虫植物に捕まりそうになりながらなんとかいろいろなトラブルを乗り越え進んだ。
一番危なかったのは一休みしようと横倒しになっている木に腰かけた時に突如後ろから大蛇に丸のみにされた時だろうか。
あれは本当に死ぬかと思った。
「やはり整備されている道を進むべきだったであろうか」
万が一リナリーが追いかけてくるような事があったら困るので道なき道を進む事にしたのだが……。
完全に間違いであった。
本来なら少し様子を見て道に戻るつもりであったのだが、飛来した鳥に一瞬掴まれて空を舞ってしまった為に自分がどこにいるのかすらわからなくなってしまった。
なんとか暴れてあの悪魔の鳥からは逃げる事が出来たのであるが……。
せっかく風呂に入ったというのにまた体中汚れてしまったのである。
リナリーがくまなく洗ってくれたというのにっまったく……。
ふと頭にリナリーと一緒に風呂に入った時の事を思い出す。といってもつい先ほどの事だが。
いや、別に幼女の裸体を思い出しているわけではない。
むしろあと十年もすれば美しい女性になっているであろう。
しかし、だ。
今のままではリナリーはその十年を過ごす事すらままならない。
なんとか、してやらなくては。
しかし現状なんとかしないといけないのは我の方である。
へとへとボロボロになりながらも森の中を突き進んでいると、やがてとても開けた場所に出た。
そこは不自然なまでに整地が行き届いていて、森の中にそこだけがぽっかりと「平らにされている。
奥の方に小さな小屋が一つあり、それ以外はほとんど畑であるようだ。
「このような不便な場所で農作とは……物好きも居る物であるな」
耳を澄ますと、どこからかコーンコーンという音が聞こえてきた。
ここの主が木を切っているのかもしれない。
この姿では驚かせてしまうかもしれないが、なんとか近くの街へ向かう道だけでも聞き出さなくては……。
最悪脅す形になってしまうかもしれないがその場合は許せ。こちらも必死なのである。
音のする方へ歩いていると、メキメキっという音がして小屋の更に奥、森の中の木が倒れていくのがかろうじて見えた。
あそこか。
我は小走りにそこまで急ぐが、倒された木の場所まで辿り着いた時にはもう誰も居なかった。
切り倒すだけ切り倒して姿をくらますとはどういう事であるか!
しゃらしゃらと、かすかに聞こえてくる音に気が付いてそちらに向かうと、どうやら川が流れているようだ。
「なるほど……水も確保できるのであれば農作に勤しむにはいい環境なのかもしれないのである」
自給自足の生活をするなら、の話であるが。
そんな事を考えていると、我の身体が宙に浮いた。
「むっ、なんである!?」
「なんだお前。ぬいぐるみ……? 喋るぬいぐるみなんて珍しい客だが……こんな所に何しに来たんだ? 返事次第じゃ生きて返さねぇぜ」
我とした事が……所詮人間と甘く見ていた。
我を見ても怯む事なく、どうどうとしたものだ。
これではむしろ我の方が脅されているようではないか。
今背後で我の首根っこを摘まみ上げているのは……声の感じからして中年男性と言ったところだろうか。
……いや、待て。この声は……。
その時、妙な鳴き声が響き渡る。
ギャエー! とか、ギョエー! みたいな今までにあまり聞いた事が無い声だ。
「あの野郎また来やがったな! 今日という今日はとっちめてやるぜ!」
我を掴んだまま男は走り出した。
どっすどっすと凄まじい音を立てながら重量級の身体が畑へと突き進む。
すると、畑の真ん中あたりにおそろしく巨大な鳥が……地面をほじくっていた。
「てめぇなんの恨みがあって毎日俺の野菜を食っていきやがる!」
「……あら、また貴方? ここの野菜はいい味してるわ。誇っていいと思うわよ。なにせ私が美味しいと言ってるんだもの」
……鳥が、喋っている。
いや、アレが鳥では無い事くらい分かる。
しかしアレは……魔物、なのであるか?
「でもそろそろ野菜だけじゃ飽きてきちゃったのよね。家畜か何か飼ってないの? 牛豚鳥……鳥は辞めましょうか。そうね、他には……人間、とか」
こいつ、次は人を喰う気なのであるか? ここはリナリーの家から近い。流石に放置はできまい。
「あぁ? 人間なら確かあっちの方に住んでる筈だぜ。さっさと喰ってどっかいけよ。んで俺の畑にはもうくんな」
こいつ……!
「あら、いい事聞いたわ♪ ありがとねお兄さん。じゃあそこ言って人間食べてから口直しにまた来るわ♪」
そう言って巨大な怪鳥は飛び立ってしまった。
「おいふざけんな! 教えてやったんだからもうくるんじゃねぇよ!」
それどころではない。
おそらくこいつがさっき教えたのはリナリーの家ではないのか!?
このままではリナリーが危ない。
ここでなんとしても食い止めなければ!
「おい! 我をあやつに向かって投げるのである!」
「おあっ!? お前の事忘れてたぜ……って、アレ……お、お前まさか……」
「つべこべぬかすな! 早く我をあやつに向けて投げるのである!」
「やっぱりお前ライゴ……」
「早く我を投げろ!! ライノラス!!」





