変態弓士は一線を越えられない。
どうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなった。
どうしてこうなった?
えっと、ステラとの間に生まれていた誤解を解いて、仲直りして、また世話役をお願いする事になって、そして……。
そして、今ステラは私の隣で眠っている。
もう一度確認してみる。
どうしてこうなった!?
今私はあまりの状況に頭が追い付かずステラに背を向けるようにベッドの上で横になっている。
すると、私の背中に何か触れる物が……。
「……ん……なーりぁ……さまぁ……」
きゅっ。
ステラが私の背中に引っ付いてきた。
若い女の子特有の柔らかい感触が背中に伝わる。
そして、事もあろうにステラは私の服の中に直接手を入れてきて、お腹の方へ手を回すように抱き着いてきたのだ。
……!!
ど、どうしろというんですか?
神よ、答えて下さい……。
いや、よく考えてみたらそれはダメだ。
神は頼ってはいけない。
だってろくな神様じゃないから。
姫、助けて! 私どうしたらいいんですか!?
「なぁりぁさまぁ……すき」
ぼんっ!
私は最早頭の中が爆発したように何も考えられなくなって、気が付いたら朝を迎えていた。
部屋に光が射しこみ、そろそろ起きなければいけない時間になってきたため、勇気を出してステラの方へと向き直る。
「す、ステラ……!」
ステラは既に起きていて、思い切りほっぺたを膨らませている。
どうやらかなりご立腹のようだ。
「ナーリア様がここまで意気地なしだとは思いませんでした」
えっ、えっ。
「あ、あの、それってどういう」
「……どういうもこういうもねぇだろ! 俺は! 貴女にこの身を捧げる為だけに! 今まで生きてきたって言うのに!! このチキンがっ!!」
ちょっ、ちょっと待って!
怖い怖い怖い。ステラがなんだか急に人が変わったように凶悪な表情になって私を罵倒した。
「ステラ……? もしかして、二重人格……」
「ちっげーよ! 俺は俺だっつの! 助けてっもらったあの日から、この命、この身体全部捧げる為に生きてきたんだよ。それをお前……普通手出すだろ!? そんなに俺に魅力ねぇのかよ!!」
「待って待って! 俺って何!? 男の娘だったの!?」
「あぁ!? 女が俺って言っちゃいけねぇのかよ! ちゃんと女だ畜生が! でもあんただって女が好きなんだよな!? 俺知ってるぞ!? 兄貴に聞いてもしかしてって思って、それから思わせぶりな態度とって、何度も確かめたんだからな!」
……今私の顔は真っ青になっている事だろう。
ステラはちゃんと女の子。それは間違いないらしい。
でも、今までの態度は全部嘘?
全部演技?
あの天使は、どこに……?
「お前だって俺を気に入ってくれたよな? この流れでなんで手を出さないんだよ馬鹿なのか!? それともほんとにそんなに俺に魅力が……ねぇのかよ……」
ステラが、口は悪いままだが次第に涙目になり声も小さくしぼんでいく。
「す、ステラ……私は……!」
「ナーリア殿! お目覚めか!? すぐに来てほしいのですが!!」
突然、ノックもせずにテロアが乱暴にドアを開け放った。
「……っ!? こ、これはいったいどういう状況で……?」
ベッドの上で泣き出したステラの肩を掴んだ状態の私。
それを見たテロアは慌てて後ろを向き、「失礼しました! しかし、ナーリア殿にすぐに来て頂きたいのです!」と早口でまくし立ててくる。
「……兄貴のばか。ぼけ。かす。しね」
「ステラ……」
ステラは涙を拭いながらテロアへの暴言を呟き続けるが、やがて私をキッと睨んで「早く何処へでも行っちまえ!」と叫ぶ。
「し、しかし私は……」
ステラとちゃんと話をしたい。
したいのだが、テロアが放った次の言葉にそれどころではなくなってしまった。
「お願いですナーリア殿! 今、王の間に魔王が来ているのです!!」
……え?
「……ま、おう……? めりにゃんじゃなく?」
「めりにゃん殿、ですか? どうして今その名前が出てくるのでしょう? とにかく魔王が王の元に居るのです! お願いですからすぐ来て下さい!」
魔王。
メアリー・ルーナ。
……姫の仇。
「ステラ、ごめん私……」
「早く行けよ……行っちまえ」
私は目に涙を溜めたステラに、深々と頭を下げて、部屋の隅に置いてある弓と矢を抱えると、テロアと共に部屋を飛び出す。
彼に付いて走って行くと、角を何度か曲がり階段を上って更に角を曲がると大きな通路に出る。
「この先が王の間です!」
私とテロアは一度王の間の扉前で深呼吸をし、ドアを開け放つ。
メア。
メアだ。
間違いない。
「メアリー・ルーナぁぁぁぁっ!!」
私は王らしき人物の正面に立つ後ろ姿へ迷わず矢を放った。
魔法の矢を。
私の声にメアはゆっくり振り向き、
「貴女……いきなり何すんのよ」
あっさりと。
私の全力の矢はその細い指に摘ままれていた。
「私の名前を知ってるって事は……あの場に居たって事かしら?」
私の事なんか覚えてないって事か。
それは仕方ない。
仕方ないけど……!
「まぁいいわ。丁度いいから貴女も同席しなさい」
……同席……?
「一体何をしに来た!?」
メアはやれやれと両の掌を上に向けた。
「それをこれから話すのよ」
この女がここに来てしまった以上、戦わないわけにはいかない。
私だけで勝てるか? いや、ここには王国騎士団も居る。
皆で立ち向かえば……いや、姫が負けた相手に……どうやって……?
私の頭は戦わなければいけない事実と、勝てる見込みの無い状況に冷や汗が噴き出るのを感じた。
そして、メアは私達を見つめ、にやりと笑いながらこう言った。
「さぁ、商談を始めましょうか」





