大賢者は検証してみる。
「……何よこれ……」
転移魔法で森の入り口に出たところで、私は目を疑った。
森が、枯れている……?
かなり広範囲の森なのだが、木々は枯れ、幹がボロボロになっているようだった。
ゆっくり森の中へと進んで行くが、辺りを見渡しても地面はカラカラになり、木は少し触るだけでボロボロと崩れる程にこの森全体が枯れている。
葉はすべて無くなっていて日差しも森の地面へ直接降り注いでいた。
本来なら魔物や動物などが沢山居たであろうこの森も、今では虫一匹見受けられない。
死んでいる。
森が……死んでいる。
私は魔法で身体を浮かせ、ぴょんぴょんと跳ねるように中心部へ急いだ。
行くべき目的地はここからでも分かる。
葉がすべて無くなっているおかげで巨大な木がどこからでも見つけられた。
アレがクリスタルツリーだろう。
そして、クリスタルツリーの根本まで到着するのだが……。
その幹は灰色に濁ってしまっていた。
本当なら透き通るようなエメラルドグリーンの結晶で出来ているような、神々しさがある筈のその巨木は……ただのうっすら透き通った灰色の塊になっていた。
「魔素不足……?」
この辺りの木は魔素を餌に成長するように進化してきた。
そして、それは絶えず供給され続けてきたわけで、それが一気に不足してしまった為にこんな事になったのだろうか?
いや、仮に先日魔素が一気に無くなって絶対量が少なくなったとしてだ、一日二日でこんな事になるだろうか?
何かがおかしい。
この様子では既に何か月も経過してしまった後のような……。
がしゃっ。
背後から、枯れ果てた木を踏み崩すような音が聞こえた。
「……お嬢さん、この森に何か御用ですかな?」
紳士的な言葉遣いに見合わず、その言葉の主は巨大な爬虫類のような身体をしていた。
巨大なトカゲが二足歩行してるような感じという表現が一番しっくりくる。
「うわぐっろ」
「なんと……私少々傷つきましたぞ」
「……で? アンタは何者で、私に何か用なの? あまり好意的な感じがしない外見だけれど」
こんなのに好意を持たれても困るけどな。
「おやおや外見で判断されてしまうのはなんと悲しい事でしょうな。勿論好意など一切持ち合わせてはおりませんが」
そう言って巨大トカゲが四足歩行の姿勢を取った。
それが戦闘態勢なんだろうか? だったら普段から二足歩行なんかしなきゃいいのに。
「私は魔族のデッニーロと申します。残念ながら貴女ではなくその後ろの木に用がありましてね」
……魔族。
今そう言ったか?
「嘘おっしゃい。魔族なんて当の昔に滅びてしまったはずでしょう? そもそも私はその存在を信じていないわ」
魔族というのは文献に名前が残ってる程度の連中だしどっちかっていうと空想上の生物だと思っている。
古い文献に書いてあったのは、昔神は人間と魔物を作り、それぞれ別の進化を促した。
しかし、その枠の中に収まりきらない突然変異が魔物の中で生まれ始める。
その中でも特に力を持った者が魔物側から離れ、自らを魔族と名乗り新たな文化圏を作り上げていった……という物だ。
しかし、何の前触れもなく突然魔族はこの世から消えた。
そう書いてあった。何がどうなってその結果が生まれたのかは一切触れられていない。
「貴女が信じようと信じまいと私は魔族。我らが主により再びこの世界へと舞い降りたのです……今度こそ人間、魔物に代わりこの世界を我らの物に……!」
「おい。テンション上がってるとこ悪いけどアンタに色々聞きたい事ができたわ」
こいつの言っている事がどこまで本当かは分からないけれど、もし本当に魔族なんて物がこの世界に復活したのであれば大変な事になる。
こいつらがどの程度の戦力があるのかは分からないけれど、知能がある時点で魔王軍幹部と同等かそれ以上の力量は覚悟しておいた方がいいだろう。
「私に聞きたい事……ですか。聞きたい事があるのなら答えてあげましょう。貴女のような少女が私を倒せるならば、ですがね」
……はぁ。面倒。
だけどそうも言ってられないか。
やるしか無いみたいだからとにかくちゃっちゃとぶっ殺そう。
あ、殺したら聞けない。
「サクっと半殺しにしてやるから覚悟しなさい」
「おぉそれは恐ろしい。楽しみですな」
「言ってろ。そのヘラヘラした顔恐怖に歪めてやんよ。泣いて詫びたって遅いからな」
「ふふふ……まるで悪役のセリフですね。いいでしょう。お嬢さん、私、少しだけ本気で相手をしてあげます」
そう言うとデッニーロの身体中から棘のような物が生えた。
「……アンタさ、生理的に無理だわ」





