大賢者は考察してみる。
……まったく。
エルフの森での戦いは結局負け、って事になるのかしらね。
本当にひどい目にあった。
最終的には魔物の軍勢は過半数を殲滅する事が出来ていたと思う。
だけど、雑魚を何匹蹴散らしたところで一人あんなのが居たらどうしようもない。
姫が負けるような相手誰が勝てるっていうのよ。
ほんと馬鹿々々しい。
最後、デュクシが立ち向かっていたみたいだし、あの特殊なスキルを使ってなんとかしたみたいだけど……。
結局勝ててはいないでしょうね。
あの時、目の前が真っ白になって……私はこの世界が滅んだと思った。
急速にこの世界の魔素が膨れ上がった感覚があった。
あんな状態は異常なんてもんじゃない。
現状この大地の魔素は限られた場所から少しずつ噴き出してこの世界に広がっていく。
例えば西方にあるリカルディという森。そこは魔素を蓄える事が出来る木が生えていて、魔素を大量に含んだ木はやがてその幹その物が魔素の結晶体となる。
俗にクリスタルツリーと呼ばれる物だ。
通常の方法では細い枝を切り落とす事さえ難しい。
ナーリアがクリスタルツリーの弓を持っていた事には驚いたが、あれだけ高価な物をあの子が買えるとは思えないし姫が買い与えたんだろう。
宝の持ち腐れになっていないといいのだが。
あの子には必中……じゃなくて、ほぼ必中というスキルがあるからある程度は機能していたように思う。
それに、クリスタルツリーに蓄えられた魔素を解放して魔法の矢を放っていたし、私が思っているよりはきちんと使いこなしていたのかもしれない。
まぁそんな事はどうでもいい。
要はその、特定の場所から少量ずつ放出されるだけの魔素。
それがあの一瞬膨大に膨れ上がった。
それは私でなければ見逃してしまう程一瞬の出来事だったが、あれだけの膨張をした魔素が今は元に戻っている。
……いや、元に戻っているというよりは……無くなっているように感じる。
あれだけ魔素が急速に膨張したとしたら、おそらく大地は裂け、この世界自体がバラバラになってしまうか、いっそ膨張エネルギーに耐え切れずに大爆発を起こして一瞬にして世界が消え去るか……。
そのどちらかの現象がおきていてもおかしくなかった。
その魔素が今ではこの世界から失われている。
勿論完全に消滅している訳ではなく、うっすらとその残滓は感じるのだが、あの時に膨れ上がった分の魔素はどこかえ消えてしまった。
あれはデュクシがやった事なのだろうか?
だとしたら何故崩壊を起こさなかったのか。
こうして私が無事に生きているのか。
その答えはおそらくあの魔王が何かをしたか、あるいはその後ろに居たであろう神。
あいつが何かをしたか。
そのどちらかだろう。
と、いう事はだ。
結局のところ私達は負けてしまったという事だ畜生め。
せめて力を使い果たして死んでてくれてりゃ世話ないんだけれどそういう訳にもいかないだろう。
仮に力を使い果たしていようとも、時間をかけて復活すればまた攻めてくるに違いない。
その時私達は姫無しで戦わなければならない。
エルフの森からくすねたアーティファクトもメアに奪われてしまったため皆を探す事すらままならない。
今私がどこにいるのかも分からないが、それについては転移魔法でどこへなりとも行けばいいので問題じゃなかった。
はぁ。私あんまり頑張って何かをするっていうポジションじゃないんだけど。
姫が取り込まれてしまった以上、それを引きずり出す方法があるのか、もしないならメアをどうやって倒すのか。
何か対策を考えないとどうしようもない。
あのメアという女は少なくとも複数のアーティファクトを保有して身体に取り込んでいるようだった。
こちらも対抗策が必要だ。
分かりやすい力が。
その為にはどうしてもアーティファクトが必要だろう。
私にはその心当たりがいくつかある。
持っていたアーティファクトで、現存するアーティファクトの場所を調べた事があった。
その数は意外に多く、現在この世界に十個程度は残っているようだった。
私が何故一人で回収しなかったのかと言えば、うかつに取りに行ってガーディアンなどが出てきたらひとたまりもないからだ。
以前姫がまだ男の身体だった頃、二人だけアーティファクトの間に転移した事があった。
あの時、私は一人では間違いなく勝てなかっただろう。
一人でアーティファクトを探しに行って、いきなりあんな物に遭遇してしまったとしたら無駄死にするだけだ。
慎重に、ある程度戦力を所有した状態で探すしかない。
場所も数か所ならば覚えている。
他にも方法があるにはあるが……。
例えば、既にアーティファクトがある場所へ行ってかっぱらう。
確かディレクシアは一つ保有しているという話だった。
完全防御だかなんだかいう能力があるという話を聞いたことがある。
それを手に入れてから考えると言うのも悪くないが、それはもう少しお預けだ。
万が一の場合私が全国指名手配状態になってしまう。
今後の活動がしにくくなるのでそれもやるなら作戦を考えてからだ。
まずは一度この世界の魔素がどうなっているのか確認してみようか。
私はリカルディの森へ向けて転移魔法を発動させた。





