元魔王が確認すべき事。
リャナの町の入り口まで到着したはいいものの、検閲の男に遮られてしまい入れない。
「お嬢ちゃん、どこからきたのかな? 身分証とかは持ってる? パパとママは?」
「え、えっと、えと……そ、そうじゃ! 身分証持ってるのじゃ!」
確かプルットに作ってもらった身分証が……。
「あ、あったのじゃ! これを見よ! ほれ、ちゃんとした身分証じゃろ?」
「えっと……あー。はい、オッケーですよ。じゃあどうぞごゆっくりー。パパとママは町の中なのかな? 一人で偉いねー」
くっ。その、お子様が一人で初めてお使いにでたのを微笑ましく見つめるみたいな視線をやめてほしいのじゃが……。
まぁ、この外見では仕方あるまいよ。
ぐう。
さてさて……まずはとにかく何か腹に入れないと儂のお腹がヒステリーを起こしてしまうのじゃ……。
しかしお金もないしのう。やはり、あまり気は進まんがあやつを頼るしかあるまい。
なんとなくの記憶を頼りにプルットの家を目指すが……。
どうしよう。ここどこじゃ?
完全に迷った。確かこっちだったような気がしたんじゃが……。
先ほどまでは店も沢山あり、通るのも大変なくらい人でにぎわっていたというのに、今いるこの場所は人などほとんど居ない。
こりゃ参ったのう……。
「あれ、見た事あるのが居ると思ったら、セスティ様の仲間の人!」
急に背後から声をかけられビクっとしてしまったのをごまかすように、少しだけ間をおいてから振り向いて、何事も無かったかのように返事をした。
「……おう、久しいのうゴギスタ」
「あの時はありがとう。……え、っと……ございました」
ゴギスタ。
以前リャナの町に来た時にセスティが助けて居場所を作ってやったホビットドワーフじゃが、当時よりも随分流暢にしゃべるようになっている。
「お一人ですか? セスティ様は……」
「今日は儂一人じゃ。……その事はちゃんと説明するが、とりあえずプルットの所に連れて行ってもらえるかのう?」
ゴギスタは小首をかしげながら、「いいですよ。ではついてきて下さいね」と言って歩き始めた。
おとなしく後ろを付いていくと、驚く事に町ゆく人々が「おっ、ゴギスタ今日は可愛い子連れてるね!」とか、「ゴギスタちゃんこんにちわ」とか、「おいゴギー遊ぼうぜー!」とかいろんな人たちにとにかく声をかけられていた。
「お主……随分この町に溶け込んだようじゃのう?」
「はい。おかげ様でみんなとても良くしてくれています。これもセスティ様や皆様方……そしてプルット様のおかげですよ」
セスティ、聞いたか? お主がやった事はちゃんとこうして結果を生み出しておるぞ。
儂も、自分の事のように嬉しいよ。
じゃがどうしてここにそのセスティがおらぬのじゃ……。
ゴギスタの案内で曲がり角を二つ程曲がった所で見覚えのある屋敷に到着した。
……こんなに近い場所にあったのじゃな……。儂はもしかしたら方向音痴というやつなのやもしれん。
自ら特定の場所を目指して歩く事などほとんどなかったからのう。
遺跡の時だって漏れ出した魔力をたどっていっただけじゃしのう。
「プルット様ー。今帰りましたぁー」
ゴギスタの声に反応するように遠くから「おつか~れさまでぇ~す」と声が返ってくる。
ゴギスタの話によるとプルットも相変わらず忙しいらしくなかなか手が離せないのだそうだ。
「プルット様ー。お客様が見えておりますよー?」
「はいはぁ~い」
奥の部屋からドタドタと屋敷の床を震わせながら、以前より一回り大きくなったプルットが現れた。
「おや、おやおやおやぁ~? もしかして
もしかしなくてもセスティ殿のお付きの方ではぁ~ありませんかぁ~!」
お付きの方……。まぁ儂の名前を憶えているかどうかなど大した問題ではないのじゃが……これから説明する内容の事を考えると気が重いのう……。
「……それはそうとメリニャン殿」
あっ、ちゃんと儂の名前覚えておるではないか。
その上でセスティのお付きと覚えられていたのであればそれはむしろちょっとだけ嬉しい。
「メリニャン殿、ご無事で何よりでございまぁ~す。貴女が無事という事はぁ~セスティ殿もご無事なのですかぁ~!?」
……うぬ……?
どういう事じゃ? この男は儂等の状況を把握しておるうのじゃろうか?
「儂は他の連中の事は何もわからぬよ。先ほどこの近くで目が覚めたばかりじゃ。なぜこのような場所にいたのかもわからぬ」
「……そう、ですかぁ……ではやはりセスティ殿は……いえ、まだ希望を捨ててはいけませんぞぉ~? 最近は魔族なる物も蔓延っているらしく状況は厳しいですが、逆転の手は~まだ残っているはぁ~ずです」
プルットは軽く目を潤ませながらそんな事を言った。
……魔族。
確かにこやつはそう言った。
どういう事じゃ? なぜ今更魔族なんて名前が出てくるのじゃ。
魔族なぞがここに居るはずがない。
居てはいけないのじゃ。
「確認するぞプルットよ。今、魔族と言ったのかのう? 魔物、ではなく?」
「はぁ~い。最近あちこちに現れているそうでぇ~す。私もぉ、まだ聞いた話ですのでぇ~正確な情報という訳ではぁ~ありませぇんが、どうやら言葉をしゃべり、自分らを魔族だぁ~と名乗っているそうでぇ~す」
……確認する必要があるやもしれぬ。
魔族が現れたとなれば、それこそ人間と魔物が争っている場合ではないのじゃ。
もう、どうしてこんなにも面倒な事になってしまったのじゃ……。
セスティ、今すぐここに来て儂を助けてくれ。
儂の力になってくれ。
それが叶わぬというのであれば
せめて、いつかのように頭を撫でてほしいのじゃ。
それだけで、がんばれる気がするのじゃ。
お読み下さり有り難うございます。
評価、感想、レビューなど頂けると非常に励みになりますので応援よろしくお願いします。
あの人達が主役のぼっち姫前日譚、
滅国の魔女 ~姫が王国を滅ぼした理由~
も合わせて宜しくお願いします。
作品一覧か、目次やこの下にある広告下部のリンクからどうぞ。
こちらは完結済みとなっております。





