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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編 (山乃末子)

ぼくのおうちはホラーハウス

作者: 山乃末子

 一応ジャンルはホラーだと思いますが、あまり怖くないと思います。

 僕はテレビを消してため息をついた。立ち上がって自分の部屋を出る。夕食も食べ終わって、風呂にも入って、もう寝るだけだし、別に自分の部屋に引きこもっていてもいいのだが、そろそろお客が訪れる時刻だからだ。


 うちに来るお客はうちの家を空き家か何かと思っているらしく、僕の部屋にもノックもなく勝手に入り込んでくることもある。どういう訳かうちの家は正面玄関以外は戸締りができないんだ。僕も別に人見知りする性質たちでもないし、別にその人たちの相手はしても構わないのだが、後々のことを考えるとあまり楽しい気持ちにはなれない。


 今日は随分とたくさんお客が来たようだ。玄関ホールに1、2、3・・・10人の人が居る。大人に子供、年寄りもいる。僕が広間へ降りていくと、男の人に声を掛けられた。僕はこの家に迷い込んだ迷子だと嘘をついた。まあね。昔はこの家に住んでると言ったこともあるよ。それでどうなったかは想像にお任せする。


 今日は僕と同じくらいの年かもしれない髪の長い女の子が来ている。この子は本当の迷子だろう。かわいい子だったが表情はあまりない。うちに居るあの恐ろしいメイドのようだ。つい見ていると、向こうも見返してきた。そして近づいてくる。距離が近い。ちょっとそんなに近づかないで。


 女の子は意外に良くしゃべる子だった。あんなに整ったお人形のような顔をしているのに、話す内容は結構率直で素朴だ。はっきりいって黙っていた方がいいかもしれない。女の子の名前はミナちゃんだった。友達からはノギミナと呼ばれているらしい。あだ名だと本人は言うけど、それってそもそも本名そのままじゃないか;


 僕は名前を聞かれて困った。僕は実は自分の名前を知らない。いつもはサトウかスズキでごまかしているのだが、この子は下の名前まで聞いてきた。適当に答えてもいいのに、なぜかその時僕は本当のことを言ってしまった。その後のミナちゃんの反応については省略する。とてもめんどうくさくて、しまったと思った。


 おせっかいで優しいミナちゃんは、僕に名前をつけてくれた。ソウタだ。正直に言うと、その時はとてもうれしかった。ミナちゃんが言うと「ソータ」に聞こえる。でも後でわかったけど「ソータ」って野木家の犬の名前だったよ;


 広間に集まった人たちは部屋割りを決めてこの家に泊まることにしたようだ。僕からすると正気のサタじゃないけどね。今日は全員別々の部屋になった。僕に最初に話しかけてきたリーダ格の男性の性格のせいかな。まあ僕らは皆赤の他人な訳だし、部屋には大体一つか二つしかベッドがないからね。部屋数はいつもお客の倍以上あるけど・・・ホテルみたいな家だよ;もう少し怖がりな人が多かったり、仲良くなったりすると同じ部屋に集まることもある。でもそれはそれで面倒くさい。僕が抜け出すと居なくなったって騒ぎになるから;


 僕の部屋はスーツの中年のおじさんが泊まるらしい。そこは僕の部屋です、使わないで下さいと言いたい所だけれど仕方ない。どうせ僕は自分のベッドじゃ夜は眠れないしね。


 この屋敷には泊まってはいけない、というか夜に入ってはいけない部屋がある。僕はそこへ入って出てきた人を見たことがない。幸い、かどうだかわからないが、その部屋で泊まる人は今回居ないようだ。扉の様子もその部屋だけ異なり、明らかに不気味で僕も開けてみようと思ったことさえない。昼間でもごめんだ。


 僕の部屋はミナちゃんの隣だった。僕は他の人たちにおやすみを言って部屋に入った。だがすぐに部屋を出た。驚いたことに、ミナちゃんも部屋を出てきていた。一人では怖いから僕の部屋に来ようとしていたらしい。別にいいんだけど、ベットはひとつしかないからね;


 僕はミナちゃんを連れて大時計の前に行った。いつもの隠れ場所だ。階段の反対側の二階の廊下には大きな時計があって、振り子が音を立てている。時計の扉を開けて中へもぐりこんだ。ミナちゃんもさすがにあきれていたが、結局中へ入ってきた。一人でいるのが怖かったからだろう。この時計は子供が余裕で二人入れるスペースがあった。


 ミナちゃんはすぐ何か話そうとするので、例のポーズで静かにするよう促した。そして耳元に口を寄せてごく小声で言った。決して音を立ててはいけないと。それでも何度もミナちゃんは話しかけてこようとする。困った子だ。でもその理由はすぐにミナちゃんにもわかる。ついに時計の外で騒ぎが起こり始めた。


 この屋敷は昼間は静かで僕しか居ないが、夜中は格闘と追いかけっこの物音、悲鳴がこだまする気味の悪いところだ。時計の外へ出ていたら、何が起こっているかよく見ることができる。


 いつも最初に現れるのは、多分時代遅れなんだろうという感じのスーツを着て、頭部をがっちり固めてオールバックにしている吸血鬼だ。実はさっき広間でみんなで情報交換をしたり部屋割りを決めている時に、奥さん(?)を連れてこっそり様子を見に来ていた。だいたいこいつは選り好みがあり、日によっては人を襲わない。こいつに血を吸われると失血死するか、ごくごく稀にこいつの眷属けんぞくになる。今連れている女の吸血鬼は何年か前にうちの家を訪れた若い美人の女性だった。元は日本人だったのだが、吸血鬼化したあとは何をしゃべっているのかよくわからない。


 ミナちゃんをじっと見ていたのでまずいと思ったが、すぐに屋根裏へ帰っていった。今日の客は見逃すようだ。今までの傾向から考えてもミナちゃんはたぶん大丈夫だろう。対象外年齢というところか。


 次に現れるのは、ハサミ男だ。頭の禿げ上がった小男で、顔や肌の色も人間離れしている。両手にひとつずつ大きなハサミを持って人を襲う。背中には大バサミを背負っている。動きも気持ち悪い。女子供を襲う傾向があるのでミナちゃんは危ない。今日はハサミ男は眼鏡を掛けたOL風のおばさんに狙いをつけたようだ。悲鳴とハサミの音から大体想像がつく。


 僕はこいつが大嫌いだ。得物を追い回して怖がらせて、弄り殺すのが好きな、いやらしいモンスターだ。こいつの声は本当に聞きたくないのでいつも耳を塞ぐ。ミナちゃんが震えだして、声も上げそうだったので抱き寄せた。顔を僕の胸につけて声が出ないようにする。耳は塞げなくなるけどしょうがない。


 OLはあろう事かトイレへ逃げ込んでしまった。内側から扉を押さえてハサミ男が入れないようにしているみたいだ。ハサミ男は怒り狂い、扉を大バサミで殴りつけていたが、リーダー格の男性達に何かでぶん殴られたようで逃げ出した。ざまあみろ。邪悪でおぞましくはあるが、こいつは小さくて弱っちいので、そこそこ強い大人がいると、いつも逆にやられている。


 今度はOLが大蛇に襲われている。映画などでは大体こんな屋敷で風呂やトイレは危ないに決まっているのだが、どうしても使いたい人もいるし、結構犠牲者が出ている。ちなみに風呂場の鏡からはドッペルゲンガーが出る。一定時間見つめていると出てくるようで、ナルシストや女性が結構これにやられる。


 僕の部屋に泊まっていた男はライターを持っていたらしく、何かで松明のようなものをこしらえていたようだ。それと打撃攻撃でどうにか便器の中へ追い返したみたいだ。


 こうなってくると、誰でも思うだろう。屋敷の中は危ないと。リーダー格の男性は正面玄関から逃げ出そうとする。そこで僕の部屋に泊まっていた男がやられた。


 玄関ホールにある階段の踊り場には、悪趣味な絵が飾られている。美しい女性が、骨と皮になった男達の山の上で微笑んでいる絵だ。僕は見ると胸がむかつくので、絶対に視線をこの絵に向けないようにしている。こいつは適当な男を誘惑して、絵に取り込み、口やなにから生気を吸い取って足元の山の一部にしてしまう。ところが今回はターゲットが火を持っていた。取り込むのには成功したが、自分も燃えてしまったようだ。断末魔の甲高い叫び声がする。不愉快な音だが、ざまはない。せいせいする。


 正面玄関にたどり着いたお客達だが、既に人数は半分以下になっている。リーダー達は僕やミナちゃんもやられたと思っているだろう。すると、正面玄関が突然開いて、10人ほどの男達がなだれ込んできた。すぐに扉は閉まり、開かなくなる。正面玄関はうちのお化け屋敷の口のようなもので、他の空間とつながるらしい。要するに一方通行のどこでもドアだ。お客は大抵ここから入ってくる。扉を内側からリーダー達が押したり引いたり叩いたりしているがびくともしない。僕の知っている限りでは、あの扉が内側から開いたことはない。


 この屋敷は客が減ってくると、途中で補充されることがある。大体夜中に補充されてくる連中はろくな奴がいない。


 どこの悪ガキかチンピラかはわからないが、OL風の女性を襲い始めたみたいだ。これではうちのモンスター達とそれほど違わない。僕はミナちゃんに耳を塞がせた。


 すると今度は地下室から不気味なうなり声と足音がしてくる。ゾンビどもは正面玄関を取り囲み、チンピラどもを襲う。その隙にリーダー格の男性はOLを抱えて階段をかけ上がった。多分2階の窓からでも逃げ出すつもりだろう。


 チンピラどもは最初ゾンビと戦っていたが、すぐに分が悪いと悟って逃げ始めた。ゾンビに襲われるとゾンビ化することもあるし、ほとんど形も残らない程喰い散らかされる場合もある。ゾンビの耐久力はすさまじいが、お客達に打撃攻撃を受けてボロボロになり、ついにただの腐乱死体となることもある。僕の知っている限りではなかなかバランスが取れていて、あまり増えも減りもしない。今は10体ぐらいだ。


 外に出てもこの屋敷は安全ではない。塀の四隅にガーゴイルがいて、屋敷から逃げ出そうとする人々を殺してしまう。連中は空を飛べるし、連携したりもする。この屋敷から夜中に逃げ出すことはまず不可能なんだ。


 ちなみにリーダー格の男性とOLはガーゴイルにやられ、他の人はゾンビにやられた。ゾンビから逃げたチンピラも大体ガーゴイルにやられたが、一部は庭の池の大ダコに引きずり込まれたようだ。


 大騒ぎが終わって静かになったが、これで終わりではない。ミナちゃんは愚かにも外の様子を見に行こうとするので、優しくたしなめた。


 もうすぐ死体漁したいあさりのオオトカゲが裏口から入ってくる。ゾンビが喰い散らかした死体などをきれいに平らげていく。とても大きく、意外に素早いので、生きている人間も危ない。ミナちゃんなど格好の得物だろう。


 僕は時計の振り子の音と自分の心臓の鼓動を合わせるイメージを思い浮かべる。そしてその心音をミナちゃんにも聞かせる。いつもやっているモンスター避けのおまじないだ。そうすると自分の存在を連中から忘れさせて見えないように出来る、と思う、いや信じるんだ。そうするとあの不愉快で恐ろしい化け物共に見つからずにすむ。


 かつては僕も時計の外で一夜を明かしていたこともあった。それは恐ろしい光景が目の前に繰り広げられていた。でもどういう訳なのだろうか。連中は僕だけは襲わない。


 モンスター達には僕だけが見えない、ということでもない。屋敷には銀髪の若い女の姿をしたメイドが居り、夜明け前に血糊だらけになった屋敷をきれいに素早く掃除していく。めったにないが、この段階でまだ生きている人間がいると、すばやく隠し持った短刀で殺して、死体を地下室へ運んで捨てる。僕はこいつに笑いかけられたことがある。心臓が止まるかと思った。


 僕は、僕の存在の異常さに気付いたお客達に殺されそうになったことがあるのだが、その時にこのメイドは助けてくれたこともある。どうやら僕はこの屋敷のモンスター達には、仲間だとでも思われているようだ。たしかに化け物同士では連携はしても喧嘩はしない。お客同士は結構喧嘩するけどね。


 何にしても今は時計の中に潜んでいるしかない。僕は助かっても、あの銀のメイドはミナちゃんは見逃さないだろう。いつのまにかミナちゃんは眠っていた。かすかに寝息を立てている。僕もいつの間にか少し眠っていたようだ。目を覚ますと夜が明けていた。僕はミナちゃんを起こして外へ出た。ものすごく眠かったので、ミナちゃんを連れて自分の部屋へ戻って少し寝た。ミナちゃんは僕が寝ている間テレビをつけて見ていたようだ。


 僕は自分の本に頭を殴られて目を覚ました。ミナちゃんは部屋の物が飛び回って危ないので、ベッドの下へ隠れていた。


 僕には専属の幽霊の先生がおり、授業をサボると、怒ってポルターガイスト現象を起こす。僕はあわてて飛び起きて、1階の教室へ向かった。教室へ入ると先生が怒っている。謝っていると、先生が驚いた表情を浮かべた。ミナちゃんがついて来たからだ。結局ミナちゃんも先生の授業を受けた。今日は土曜日なので、午前中で授業が終わった。


 食堂へ行くといつもどおり食事が用意してある。朝食は食べなかったので既に下げられたようだが、今度は昼食が準備されている。もしかするとあのメイドが用意してくれているのだろうか。僕は誰がやっているのか見たことがない。昼食はパンとサラダとスクランブルエッグとスープで、ミナちゃんと分けて食べた。


 昼食を食べ終わって、さあ夜まで何をしようかと思ったが、ミナちゃんはここから逃げ出そうと言い出した。僕はこの家から一歩も外に出たことがない。何年も前からずっと住んでいるのは間違いないが、いつからなのか知らない。記憶をたどれる限り今の生活を続けていたと思う。名前を覚えていないと言ってしまった時、ミナちゃんに記憶喪失かと言われたけれど、案外本当にそうなのかもしれない。


 正面玄関の扉を押してみたが、やはり動かない。この家は窓か裏口からしか出られないんだろう。庭に出るとガーゴイルはあるが、日の光の下では微動もしない。池のある側は避けて、反対側を回り込んで正面玄関の外へ出た。古臭い木製の門があったが苦もなく開いた。


 屋敷は山の中にぽつんと立っているようだ。ここは本当に日本のどこかなのだろうか。僕とミナちゃんは手をつないで外へ出た。山の中を進むのは困難だったが、どうにか運よく里まで出ることが出来た。屋敷のあった場所は××県の山奥だが詳細は書かない。僕も探しに行ったこともない。あんなところへ二度と戻りたくないからだ。


 その後僕は孤児院へ引き取られて、時々ミナちゃんが会いに来てくれていたが、結局野木家に引き取られた。これで僕の話は終わりだ。


 もしあなたが運悪くこの屋敷に取り込まれたなら、朝まで大時計の中で、僕の考え出した魔法おまじないを使って潜んでおくのをお勧めする。


 ある日見た変な夢からできた短編です。ホラー映画の屋敷に居て、周りの他人は次々に殺されていきますが、何故か自分は死にません。あろうことか人が減ってくると、扉から補充されてきます。いくら自分は大丈夫でも、モンスターは怖いので、人からも化け物からも離れてどこに隠れようという話でした;


 ホラーはあまり見ませんし、SF等の方が好きですが、スティーブン・キングは好きです。


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