第三話「入学式」
三話「入学式」
「新入生の皆さん。入学、おめでとうございます!」
体育館全体に、校長先生の高々しい声が響き渡った。高校に入っても、校長先生の祝辞は変わらないんだなと実感した。
「えー、これを持ちまして、校長祝辞といたします」
校長先生が一礼した後、僕ら生徒もお辞儀をする。校長はステージから登壇し、元の席に戻り、一つため息をついた。
「続きまして、生徒代表挨拶。堀内ケイトさん、お願いします」
「はい」
なぜ僕が生徒代表挨拶、そして、この高校に合格できたのか。それは、あの事件の3日後まで巻き戻る。
僕が自宅のリビングにあるソファーでゆっくりしていると、一つの電話がかかってきた。
あの事件があってから、僕の家には、マスコミからの電話が多くなっていった。
そのおかげか、堀内家は有名になり、何より、我が母はご機嫌に受話器を取り、電話の向こうの誰だか知らないマスコミ社と話している。
だが、今日は違った。
母がきょとんとした顔で受話器を指さすので、受話器を受け取り、「もしもし」と声をかけると。
「あ、もしもしー?こちら、『星野原高校』の教頭の『谷原』ですけど、堀内ケイト君ですか?」
なんだ、高校?僕が受けてない高校からなぜ電話が。
考えるのは後にして、僕は、教頭の質問に返答した。
「はい、そうですけど。何か、用ですか?」
「いやあ、ぜひぜひ、君みたいな成績優秀、スポーツ万能、そして何と言ってもあの戦闘力をお持ちの方を我が校に入っていただきたく電話をさせていただきました」
なるほど、いわゆる推薦というわけか。
「お気持ちはうれしいのですが、僕にはまだ受けたままの高校があるので、またの機会に―」
「あの高校でしたら、わたくしから辞退させてきました」
は?
「んーと、よく言っている意味が分からないのですが」
「まあとにかくほかに受ける場所がないんだったら我が校へぜひぜひと―」
「いやだから意味わかんないっていってますよね!?なんで勝手に辞退させられなきゃいけないんですかね。早く戻してください」
こいつ、ほんとに何言ってんの?
「ですから、我が校しかあなたの入れる高校は残っていませんよ?それともこれからニート生活ですか。それでしたらこちらは構わないのですが...」
こいつ、自分のしてることわかってるのか?いつから日本は無責任な人間が多くなったんだ。
「ニートになんかなりません。早く前の高校の受験をさせてください。僕には―」
「『夢がある』でしょ?」
僕のカラダがその言葉に反応した。夢。ゆめ。ゆめゆめゆめ。
「わたくしたちはあなたの夢を手助けしたいのです。ここで普通の高校に入り、夢を終わらせますか?」
最初っから決まっていた。僕には夢を掴む資格なんてないと。彼の力を借りてまで、夢を掴むべきなのか?僕はどうすれば...
「...」
僕は黙り込むしかできなかった。悩んだんだ。僕の力では普通の高校でさえ合格できない僕が、彼の力に頼るなんて...
「今、決めなきゃ、いけませんか?」
「はい。というより、この高校に入学するしか、あなたの選択肢はないんですけどね」
よく考えてみろ。この先の人生、何が起こっても不思議じゃない。人が超人的なパワーを出せるのも事実だ。
「あなたは、僕の力が夢へとつながると思いますか?」
「...それは、あなたがどう選ぶかで決まるのではないでしょうか」
そうだ。こんなところでチャンスを捨てちゃだめだ。やるんだ。今から始めるんだ。夢のために。
「入ります。入らせてください」
「そういうと、思ってましたよ」
こうして、高校には推薦として入り、事件を解決した新入生として、代表の言葉を言う、ということになってしまったんだ。
僕が話し始めると、ほかの生徒たちがざわざわし始める。そりゃそうだよなぁ。はぁ、なんであんなことしちゃったんだろ。
「なぁ...あいつって...ひそひそ」
「事件を解決した...ひそひそ...」
「さすが推薦はちがうなぁ...個性的っつーか...ひそひそ」
ひそひそやめろおおおおおおおおおおおい。
こうして、僕が通う高校での、入学式が幕を閉じた。