第二話「カラダ」
第二話「カラダ」
「.....っ!ああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
痛みを感じてから数秒も立たないうちに、僕は痛みを表現するように叫び、地面に這いつくばった。
刺された部分が熱く、じんじんする。どうしてこんなことに。
「悪いなぁ。まあ、こんぐらいで死ぬわけねぇから、あとは救急病院で回復系の能力者に治してもらいな」
意識が...遠のく...。周りではやじ馬たちの叫び声やらが聞こえてきた。正直うるさい。
このままじゃ、ほんとに、死んでしまう。
―俺に頼ればいいさ。
脳裏の奥底から彼の声が聞こえた。
―君は何のために俺や俺の両親と契約をしたんだ。
僕を惑わすように、彼は僕に近づきささやいた。
―俺を使えよ。なぁなぁなぁなぁなあ。
「僕は君を頼りはしない。自分の、力で何とかする...」
―君にできるの?能力なんて持っていない君が、あのワープ系の能力者に勝てると思っているの?俺の能力を使えばあんな奴瞬殺だぜ。
「殺さなくていい。君は殺す以外の対処はできない。だから僕が――」
―もうカラダ貸せよ。
彼がそう言ったとたん、僕のカラダは自分でコントロールできなくなった。彼が僕のカラダを使ってるんだ。
「フフフ...アハハ...クックック...」
「ん?なんで笑ってる?何がおかしい」
ワープ系の能力者が僕のカラダに向かって歩いてきた。
僕の右腕が癒えているのがわかる。これがリバレイトブレインの効果なのか?だが、こんなにすぐに癒えるはずない。だとしたら、彼の力がすごいから?やはり、彼のは敵わない。
「こんな刃物の傷なんて回復系の能力者じゃなくたって回復できるぞ。くそ雑魚が」
「ああん?」
彼が男を挑発している。だが、それは嘘ではないようだ。もう、僕の傷が癒えてしまってる。
傷が癒えたことを確認すると僕のカラダは立ち上がり、男と向き合った。
「なあ、お前こんな大規模な銀行強盗してんだから、能力には自信があんだよなぁ」
「はっ!当たり前だろ。俺の能力はブラックホールとホワイトホールだ。ブラックホールにものを吸い込んだらホワイトホールを開かない限りブラックっホールからは出られない」
「ご丁寧に能力のご説明ありがとう」
そう言うと彼は、一歩足を動かしたと思うと、男の後ろに一瞬で回りだした。
「こいつのカラダがリバレイトブレインをせずに運動能力がいいおかげで、俺の通常スピードは普通の奴より断然早い。もちろん、お前よりもな」
すると男は、顔の左側側から右手を出し僕の顏の前に近づけた。
「ブラックホール...」
そうつぶやいた男の右手から黒い円状の物体が出てきて、男の手から離れ、僕の顏付近に飛んできた。
おそらく、男の口調からして、ブラックホールであろう。
「ひゃははっ!!このままブラックホールに飲み込まれて消えちまえ!!」
「...」
僕のカラダは男の前から消えた。僕のカラダそのものがなかったかのように。
「ざまあねぇなあ!ブラックホールに入ったら俺がホワイトホールを開くまでは出られないからなぁ!ははははは!!!!!」
「じゃあ開く前にお前をブラックホールに放り込めばいいわけだ」
男は驚いたかのように勢いよく、声のした方向へ振り返った。
振り返った先には、僕のカラダを使った彼がいた。
「おまっ...。ブラックホールに吸い込まれたんじゃ...」
「言っただろ。俺はお前ら普通の奴らとは比べ物にならないほど速いってよ」
そこまで言っても驚きを隠せていない男。
「だがっ!これ以上お前は速く動けない!あのゼロ距離でよけるほどのスピードを出すにはリミッターを外すしかないもんな!!そしておまえはあと十分立たなければまたリミッターを解除することはできない!」
「誰がリミッターを外したといった。これはこのカラダの持ち主がもともと速いおかげだと言っている。お前は見た目で判断しすぎだ」
「リミッター」それは、リバレイトブレインをしたものだけが使える身体能力向上の効果を持つ。そして一部分だけリミッターを外せばそれなりの能力は上がる。だが、デメリットとして、リミッターを外した後は、十分立たなければ次のリミッターを外すことはできない。その効果を考えた結果が男の考えだったのだろう。
「そろそろ終わりにしようか。このカラダにいられるのもあと少ないんだ」
「さっきから意味わかんねぇことごちゃごちゃと...」
「リミッター解除。脚力向上。スタンバイ」
そう彼がつぶやいたとたん、僕のカラダの足の部分が熱くなり足の筋肉が固くなっているのがわかる。足に力が湧いてくる。
僕のカラダが一足上げ、地に着いたとたん男の胸倉をつかみ、男が配置したブラックホールに向かって走り出した。
「やめ...ろっ。やめて...くれぇ」
「情けない。ブラックホールに入ってちょっとは精神鍛えた方がいいよ。まっくらで誰もいない世界でな」
ブラックホール付近まで近づくと彼は、
「リミッター脚力オフ。腕力向上。スタンバイ」
「なに!?二つ連続でのリミッターを外しただと!?」
普通ではありえなあいことだ。これはいったい...
彼が言った直後、腕に力が湧いてきた。
「これが俺の能力だ。一つのリミッターを解除することで十分立たなくても使える能力だ。ただ一つ不便なのは、同時にリミッターを解除できないことぐらいだな」
そういうと彼は胸倉を掴んでいた腕を大きく振り、男をブラックホールめがけて投げた。
「俺はまだっ!こんなところで...!」
「あの世で会おうぜ。銀行強盗」
男は自分が負けることが信じられないかのような顔をし、ブラックホールの暗闇へと包まれていった。
そこは何もなかったかのような空気が漂い、一人が拍手をするともう一人、もう一人と歓声が大きくなった。
気づくとカラダの自由は戻り、疲れがどっと全身に流れ込んできた。
僕は地面に尻をつけ、脳裏の彼と対話する。
「やはり、君はこういうやり方しかできない...」
―死なないよりはマシだ。それに、見てみろ。
彼が指をさした先には、笑顔で僕らに拍手をしてくれる人々の姿があった。
―俺たちはこれを守ったんだ。たった一人の人間に、こんな大勢の命奪う筋合いなんてねぇだろ?
「君ってやつは...。優しいんだか優しくないんだか。わからないよ」
そうだ、彼が守っていたこれが、いや、僕たちが守っていたものなんだ。
これを機に僕は、受験に合格し、めでたく高校生活を送ることができる。
「って、あれ?僕、リバレイトブレイン開放してないんですけど...」
ちゃんちゃん☆彡