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6.映画館

光司さんとは都内の絶叫マシーンを制覇する仲になっていた。

また、意外にも甘党な彼に付き合ってスイーツショップに行くこともある。

女性で溢れかえっているお店に一人で突撃する勇気はなかったらしい。

その点、私と一緒にいたらカップルに見えるからやや抵抗感も薄れるらしい。


そう言う訳で私は仮の婚約者として順調に彼と仲を深めていた。

今日は珍しく遊園地ではなく偶には映画でも見に行かないかと、

光司さんに誘われて私はほんの少しだけ浮かれていた。


いつもより気合を入れて化粧をしてシンプルなワンピースは如何にもデートみたいなので避けて、

明るい水色のスカートに白のブラウス、黒のジャケットと言う服装をチョイスした。

彼の横に並ぶからには下手な格好をして行く訳にはいかないだろうと私は段々考える様になっていた。


やや高めのハイヒールを履いて、

いってらっしゃいませと言う使用人の声を背中で聞きながら出発した。


映画館の近くで待ち合わせをしたのだが、休日と言うこともあって人ごみでごった返していた。

心配だったが光司さんが軽く手を振ってくれて、すぐに見つける事が出来た。

向こうの方が先に見つけてくれたのだろう、こういう時に彼の抜け目のなさを実感する。


「すいません、お待たせしました?」

「いいや、用があってこの辺に来ていただけ。時間には少し早いぐらいだろ。」

こうして私達は最近オープンしたばかりだと言う映画館の中に入って行ったのだった。

色々な映画が上映していて、どれを見ようか迷ってしまう。

幸いな事に、どの映画も席は空いていた。


「光司さんはどういった映画がお好きなんですか?」

「アクション物。そっちは?」

「奇遇ですね。私も同じです。」

私がそう返すと彼は片眉を上げた。

そうして、聞き返された。


「本当に?俺に無理して合わせてないだろうな。」

「遠慮なんかしていませんよ。女友達とグループで行く時には合わせますが。」

「そう言った時は恋愛物とかを見ている訳か。」

「分かります?女の子同士で行くとそうなりますよね。楽しめない訳じゃないんですが胡散くさくて。

純愛とか一生に一度の恋とか。綺麗過ぎて上手く入っていけないと言うか…。」

「成程ね。アクション物の方が何も考えずに見られていい訳か。」

「ええ、まあ。」


それから私達は相談すると、派手な演出で有名な洋画物を見る事にした。

少し時間があるので、外の喫茶店で時間をつぶす事にした。

私がコーヒーを、光司さんがミルクティーを注文すると、

思った通りに店員さんは品物を逆の位置に置いて去って行ってしまった。


「こういう時は女になりたいって思うよな。」

そう呟いた彼が余りにもしみじみしていて、私は吹き出してしまった。

光司さんにやや軽めに睨まれる。


「ごめんなさい。馬鹿にしたつもりはなくて。そんなに気にしているんですか?」

「まあな。周囲の連中には辛い物が好きそうだって何時も思われる。」

成程、と私は心の中で頷いた。

一種の品の良さがある割に目つきは鋭い上に口調は雑だ。

まさか、甘い物が好きだなんて思われにくいだろう。

きっと、バレンタインもビターチョコを貰っているのが容易に想像できた。


「私も男に生まれたかったと思う時がありますよ。」

私が宥める様にそう言うと、光司さんはへえと呟くと先を促した。

興味があるのだろう、それが伝わってきた。

私は内容が重くなり過ぎないように調節しながら、話をする。


「恋愛映画を上手く楽しめない時とか。女の子に生まれてこれは結構コンプレックスです。」

「ああ、さっき言ってたやつか。まあ、周りと趣味が違うのは面倒か。」

「そうなんですよね。」

私が些か疲れた様に吐息を吐くと、光司さんは慰める様に言ってくれた。


「この人以外はいらない位の大恋愛をすれば、また変わってくるんじゃないのか?」

彼はそう言って、別の話に話題を変えて行った。

私はそれに相槌を打ちながら別の事を考えていた。


私が本当に男性に生まれれば良かったと思った時は兄が後継ぎとして育てられているのを知った際だ。

そこにはプレッシャーが伴うことも分かっているが、父に期待されているようで羨ましかった。

とうに昔の話だが、そんなの事をふいに思い起こさせた。


それから光司さんの言葉も。


私が大恋愛をしたら、もっと恋愛物に感情移入する事ができるだろうか。

もし、するとしたら相手はどんな人なのだろうか。


優しくて温かい人がいいと思考に耽りつつも、

自分の事を当然の様に対象の範囲内に入れていない、彼の言い様に一抹の寂しさを覚えてしまった。


もうすぐ映画の始まる時間だと言うので、移動する事になった。

私が頑として主張をして自分の会計を払うと光司さんは苦笑していた。


彼はポップコーンを買ってきたが思ったより量が多いと言うので二人で食べる事にした。

多分、私達は仲のいい恋人同士に見えるのだろう。

実際は全く違っていて、何だかそれが可笑しかった。


初めは集中できなかった映画だが、元々好きなジャンルだ。

爆音と優秀なスタントマンの演出に段々とその世界観に入りこんで行った。

横を見ると光司さんは面白そうに目を輝かせていて、こんな関係も良いかもしれないと思った。

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