8/36
第三節 突然の別れ 1-3
「おいダニエル。ボサッとするな!」
新たな職場に変わって二月が流れる。
そう、もう二月もアンに会っていない。
「す……すいません」
炊事係は、囚人の食事を用意する場所。
そして、そこで働く者のほとんどが囚人だった。
今までに無いほどの酷い左遷だ。
ダニエルは、もはや看守ですらない。
(……アンは元気でいるだろうか?)
そんな事を思いながら、日々単調な作業を黙々とこなしていた。
北の館を一歩外に出れば、視界の中にアンの住む塔が見える。
ため息と虚しさが等しくダニエルを襲う。
今まで、当たり前のように会えていたのが、突然遠い場所に行ってしまったのだ。
塔を眺めるたびに、ダニエルは胸の苦しみを覚える。
悶々とした日々を送っているときだった。
「お前、確かあの塔の住人に食事を運んでいた小僧だろ」
それは、数日前に炊事係に配属になった一人の囚人だった。
「あんたは?」
「俺か? 俺はジョン。昔、とある機関に所属していたのだがヘマをしてしまってね。今じゃこんな格好をしているのさ」
少しおどけた様子で、自身が着るボロを広げて見せた。
「……それで俺になんの用だ?」