第三節 突然の別れ 1-2
その日も、いつものように階段へと繋がる回廊を、朝食を手に持ち進もうとしていたときだった。
「待て!」
それは、地の底から湧き上がるような低い声だった。
「?!」
ダニエルは凍りつく。
「マール監獄長!」
声をかけてきたのはトロワ・マール監獄長だった。
大柄な体つきに、蓄えられた口髭がその表情をさらに恐ろしく見せる。
「貴様、最近あの囚人と親しげにしているようだな」
思わず、生唾を飲む。
鷲のような鋭い目付きに射られれば誰でもこうなるだろう。
「本日を持って、貴様をこの任から解き、北の館での炊事係に異動する」
有無を言わせない断固とした言葉だった。
「えっ……しかし」
ダニエルも、あまりにも突然の話にどう言葉を発せばいいのか分からなかった。
「意見は許さん!」
窓ガラスが震動するほどの激しい一喝だった。
そして、それは絶対の命令だった。
代わりの看守が一人。
監獄長の後ろから姿を現すと、鍵束を奪い取られてしまう。
そして、本来自分が行くべきその道のりを足軽に進んでいく。
呆然とその様子を眺めていると、突然頬に激痛が走る。
「早く、持ち場に行かんか!」
マール監獄長の分厚い拳がダニエルを襲ったのだ。
口の中に苦い鉄の味が広がる。
こうして、ダニエルはアンとの唯一の接点を奪われてしまう。