第十二節 騎士の決意 1-2
「……行け」
はじめ、その言葉の意味が分からなかった。
呆気に取られていると、意外な言葉がさらに続く。
「ここで捕まれば、お前は問答無用で死罪に処されるぞ。それでいいのか?」
真剣な口調でジョンは言う。
「なっ……どういうつもりだ」
戸惑いながらジョンを見つめる。
「俺は、あの日からずっと考え続けていたんだ」
その口調には深い後悔の念が篭もっている。
「もし、あの時あのまま、お前に王女を託していれば……」
籠められた悲痛な思い。
「ジョン……」
この男にも、男なりの王女への思いがあったのだ。
生まれたばかりの王女と共にバースチ監獄所に入り、その成長を陰ながら見守ってきた。
何も知らずに、ただ監獄の中で過ごす王女の無為な日々。
王女に対する憐憫の情は、やがて王国に対する怒りへと変わっていった。
しかし、国王に忠誠を誓う騎士としての誇りを失ったわけではない。
鬩ぎ合う二つの思いに苦悩する日々を過ごしていく。
そんな時に出会ったのがダニエルだった。
誰もが畏怖して近づかなかった王女に初めて出来た友人。
もしかしたら期待していたのかもしれない。
王女をこの監獄から解き放ってくれる事を……。
迷いに囚われた自分を救ってくれる事を……。
「安心しろ。監獄長たちの食事に睡眠薬を混ぜてある。しばらくは目を覚まさないだろう」
優しさに満ちたとても温かい笑みだった。
「ジョン、お前はどうする気なんだ? もし、アンが居なくなったことが知れたら……」
王命に背く行為を行って、ただで済むはずがない。
運が良くても生涯を監獄の中で閉じ込められるだろう。
悪ければ問答無用で処刑される。
「俺の事は心配するな」
その言葉には、一切の迷いが無い。
「しかし……」
「いいから早く行け!」
急かすように声を荒げる。
「……分かった」
それだけ言うと、アンの手を取り走り出した。
「誰かがこの責任を取らなければならないだろうが」
遠ざかる二人の姿を見守りながらジョンは静かに呟く。