第十節 失意と好機 1-2
「その話は本当なのか!」
身を乗り出して、向かいに座る二人の旅人たちの話しに割って入った。
突然の乱入者に呆気に取られる二人。
ここは、地方都市から少し離れた古びた街道。
商人が運行する馬車の荷台に、複数の人が座っている。
町に荷物を送り届け、帰りに空いた荷台に旅人を乗せて小遣い稼ぎをする商人が多い。
ありふれた光景の中を走る、一台の馬車の中が騒然とする。
「何ですか? あなたは誰ですか」
戸惑いながら問い返す旅人。
「教えてくれ。その話は本当なのか」
声を震わしながら懇願する。
「ほっ……本当かどうかは分からないが、近々バースチ監獄所から秘密裏に囚人の移送が行われるって話を聞いたんだ」
困惑しながら答えた。
「誰から?」
すかさず、聞き返すダニエルの気迫に息を呑む。
「バースチ監獄所の勤めていた友人からだよ。なんでも、バースチ監獄所の監獄長がもうすぐ引退して、地方の監獄長に就任するそうだ。それに際、理由は知らないがある一人の囚人を連れて行くそうだ」
思わず、力強く拳を握り緊めた。
「それは何時なんだ」
まるで、責め立てるような口調で問いただした。
「知らないよ。ただ、もう直ぐだということは確かだ」
そう言うと、旅人は押し黙ってしまった。
「すまなかった。その事を教えてくれてありがとう」
深々と頭を下げると、その場で馬車を降りた。
「ここからだと、バースチ監獄所まで二日ほどか……」
あの冷たい建物が建つ場所へと続く道を歩き始めた。