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第一節 最上階の囚人 1-1
もうしばらくすると太陽が地平の向こうからその光を纏って現れる。
空はまだ薄暗い頃。
時を同じくして、起床を知らせるラッパの音色が高々と鳴り響く。
バースチ監獄所は、王国でも北限に位置し、春の到来も近いというのに辺りを囲む山々は白いマントを纏っている。
曇天の空の下。
ラッパの音が鳴りやむと同時に、数百人の囚人たちが整列して中庭に集合している。
そして、囚人たちはこの寒空の下で労働という刑罰を粛々と行うのだ。
バースチ監獄所は、王国でも最も厳重にして過酷な監獄所と呼ばれている。
それは、この監獄に囚われている人々がかつて特別な地位についていた者たちだからだろう。
ある者は、王国の重役に就き政務に取り組んでいた。
また、ある者は大貴族の子弟として絶大な権力を有していた。
皆、王国の危険分子と判断した国王の勅命をもって逮捕され閉じ込められている。
故に、バースチ監獄所は『高貴な墓標』と呼ばれてこの中から生きて出た者はいないとされている。