第八節 真実への苦悩 1-2
あの日から、しばらくの間アンのいる塔に近づく事ができなかった。
なぜか、塔から視線を外している自分にダニエルは気付く。
そして、五日の日が過ぎたとき意を決してダニエルは塔に忍び込む。
「アン、俺だ」
その声にすぐに反応が返ってくる。
静かに扉を開くと、待ちわびていたようにアンは駆け寄ってきた。
「ダニエル!」
そこには、変わらない無機質な鉄の仮面が待っていた。
「全然来てくれないから、どうしたのかと思ってたよ」
いつもと変わらない、ダニエルにだけ見せる無邪気なアンがいた。
「アン、聞きたい事があるんだ」
いつもとは違うダニエルの表情に、ただならぬ予感を感じる。
「なに?」
言葉を選んで話そうとするがうまく浮かばない。
細かい事を考えず、単刀直入な言葉をぶつける。
「君は何者なんだ?」
「何者……?」
いまいち、意味が理解できていない。
「君は何週間かに一度、髪や体を拭ってもらっているよな」
「はい」
「あの人たちが何者なのか知っているか?」
小さく首を振る。
「あの人たちは王宮の女官なんだ」
「女官?」
アンの言葉が耳に入らない。
「本来なら、こんな所に来るような人じゃない。それに、あの女官は……君を!」
気持ちが高まり、両肩を掴んで強い口調で責めるようにアンに迫った。
「痛い、痛いよダニエル。どういう事なのか分からないよ」
恐怖のためか泣きじゃくるアン。
「……ごめん」
力の篭もった両手に握り締めたアンの肩をゆっくりと放し、平静を装うように落ち着いた口調で話し始める。
「アン、教えてくれ。君はどこから来たんだ?」
少しの間、沈黙が続いた。
「分からない。分からないよダニエル。私、何も分からない」
アンは涙声で答える。
再び、沈黙が二人の空間を支配する。
耳が痛くなるほどの静けさ。
ふと、ダニエルは思う。
もし、王族として生まれなかったら。
もし、双子として生まれなかったら。
そう思うと、無性に腹立たしい思いに駆られた。
これでは、彼女は何のために生まれてきたのか。
ふと、思い出したようにダニエルは話した。
「前に俺が話した話の中で、どこまでも続く蒼い空が見られる場所の話を覚えているか?」
静かに頷く。
「見に行かないか?」
突然の事に驚く。
「本当?」
先程とは打って変わって喜びに満ちた声だった。
「あぁ、約束するよ。君を連れてこの部屋を出る事を……いろんな人たちが生きる世界を俺が見せてやる」




