第七節 仮面の理由 1-2
扉に耳を押し当てると、中から深いため息が聞こえてきた。
「何度、訪れても気分のいい所ではありません」
そこには深い嘆きが含まれている。
「これも、王宮に仕える女官の仕事です」
迷いの無い明瞭な言葉だった。
(王宮? 女官?)
扉越しに聞こえた言葉の意味が一瞬分からなかった。
「貴女も女官である以上仕事の不満は認めません」
「違います。私も女官として誇りを持って働いています。だからこそ、あの方へのこのような仕打ちにたいして、ひどく憤りを感じるのです」
声が震えているように聞こえた。
(どういうことだ? あの方ってアンの事なのか)
ますます、話が分からなくなってきた。
王宮に仕える女官といえば、王国でも相当な地位を持つ貴族の子女がなる事が多い。
なら、なぜそんな人がアンの髪や体を拭いにきているのか。
そもそも、王宮から遠く離れた監獄にわざわざ来ているのか。
どうしても繋がらなかった。
「どうしても納得することが出来ないのです」
それは、心の底から搾り出された悲鳴だった。
「あの方は……もし、運命が変わっていれば」
「それは言ってはなりません」
厳しい口調でたしなめる。
「いいえ、私は我慢なりません。もし、ルイーズ様よりお先に誕生されていれば、あのお方が……王女となり、いずれは女王となられていたかもしれないのですよ!」
悲痛な叫びだった。
「仕方ありません。王位継承者と同じ顔を持つ方を、そのままにしておくことは出来ません。国が二つに別れぬよう王位継承順位を制定しているのに同時に二人の王女が産まれてしまいました。そのような想定外の事に対する王宮の最大限の配慮であり、国王のご命令でもあります」
落ち着いた口調だった。
しかし、その中に僅かな乱れを感じる。
「あんまりにもひどいです」
すすり泣くような声だった。